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5 食事(リリー視点)

「妖精って本当にいたんだ」

「じみ〜に生き残ってるのです」

「物語の中だけだと思ってたよ」


 話の中で、フェアちゃんが妖精であることを教えてもらった。

 妖精については色々な噂がある。魔物の一種、精霊の集合体、単なる魔力の塊など……。姿は確認されているが、その性質や存在については未だに解明されていない。


「そうそう、フェアちゃん。一つ、聞いていい?」

「なんですかー」

「恩人さんが寝る前に『礼はフェアに言ってくれ』って言われたんだけど…… 」

「ああ、それはえっと、えへへ……」


 フェアちゃんは頬を紅くし、照れながら答えた。


「私がリュウちゃんに頼んだのです。その、リリーさんを助けほしいって」

「フェアちゃん……」


 フェアちゃんのとても優しい笑顔を見ると、温かい感情が私を包み込み、目頭が熱くなる。


「ありがとう……。ありがとう、ございました」


 私はフェアちゃんに深く頭を下げた。ゆっくりと頭を上げて、フェアちゃんを見る。


「ありがとう、フェアちゃん」

「あの、その……。でもでも、今回はリュウちゃんのおかげなので。お礼はフェアじゃなくて、リュウちゃんに……」

「ありがとう」

「……で、です〜…………」


 フェアちゃんはさらに顔を紅くした。


「……でも、どうして?」

「何がです?」 

「どうして、私なんかを助けるように頼んでくれたの?」

「声が、聞こえたのです」


 目線を少し落としてフェアちゃんは答えた。


「声?」

「フェアは人の心の声が聞こえるのです。あの時、リリーさんの助けを求める声が聞こえて……。いてもたってもいられなくなったのです。勝手に心の中を覗いたみたいでごめ―――」

「本当にありがとう!! フェアちゃん!!」


 私は嬉しすぎてフェアちゃんを抱きしめた。


「…………く、苦しいのです〜。リリーさん〜」

「あ、ごめんね!」 


 フェアちゃんの方が圧倒的に小さいので私の頬と手で押しつぶすかのような形になってしまった。

 すぐに手を離して、フェアちゃんを解放する。


「あはは、大丈夫なのです。とりあえず、この話はこれで終わりです! 恥ずかしいのです!」

「…………ありがとう」


 私はコップを手に取って水を飲み、ふぅと息を吐く。


「えっと、フェアちゃんのことは分かったんだけど、こちらの恩人さんは……」

「あー、この人はリュウちゃんです」

「『リュウちゃん』、さん?」


 たぶん『リュウちゃん』はフェアちゃんなりの愛称だろう。


「フェアと一緒に旅をしているのですけど………… あ、料理できたみたいですね」


 カウンターからベルの音がチーンと鳴った。見るとカウンターに出来上がった料理が並んでいた。

 フェアちゃんでは運べそうにないので、『リュウちゃん』さんの分も私が運ぶことにした。

 私が頼んだ料理は軽食セット。パン、特製ジャム、オレンジジュース、サラダといった内容。『リュウちゃん』さんのも同じものだ。


「リュウちゃん、起きてなのです」


 フェアが『リュウちゃん』さんの肩に乗り、耳元で声をかける。


 ……あ、起きた。


 『リュウちゃん』さんは、なんだかまだ寝足りないような目をしている。


「…………フェア、小皿」

「はいなのですー」


 『リュウちゃん』さんはテーブルの脇に置かれた小皿を指してフェアちゃんに指示した。

 それからパンを千切り、ジャムを付けてからフェアちゃんが持ってきた小皿に置いた。サラダをその横にちょこんと盛り付ける。巾着から出した小さなコップでオレンジジュースを掬い、 濡れたコップをナフキンで拭き取った。とても慣れた手つきで進めていく。


「……いただきます」

「いただきますなのです」

「今日も食べ物の恵みに感謝を」


 二人は手を合わせ、私の知らない掛け声をした。

 私も目を閉じて、いつもの感謝の祈りを言ってから食事に手をつける。


「おいしいのです!」

「そうだな」


 三人で食事を黙々と食べていく。お腹が空いていたからか、いつもより美味しく感じる。


「そう、いえば…………。ハムハム……『学園』って何なのですか?」


 小皿の半分を食べ終えたところで、フェアちゃんが私に聞いてきた。


「『リュウちゃん』さんから聞いてないの?」

「おい、待て。リュウちゃんさんってのは俺のことか?」

「す、すみません。フェアちゃんがそう、呼んでいたので…………」


 明らかに嫌そうな顔をされた。


「自己紹介していないのがいけないのです!」

「……それもそうだな。俺はタナカ・タロウだ」

「リュウちゃん!」


 フェアがすぐにタナカ・タロウさん(?)を睨んだ。


「……クサナギ・リュウヤだ」

「そうそう。通称、リュウちゃんです!」

「ちゃん付けは止めろと言ってるだろ」


 タナカ・タロウは嘘で、クサナギ・リュウヤが本名らしい。

 警戒されてるのかな……?


「私はリリー・ホワイトライトです。よろしくお願いします」

「分かった」


 なんて呼んだらいいのかな? ちゃん付けは嫌がっているし…………。


「それで、リュウ……ヤさん」 

「なんだ」


 今度は嫌な顔はされなかった。


「『学園』についてはフェアちゃんに……」

「面倒だから教えてない」

「ね? ずっとこんな感じなのです。心の声を『聴いて』も分からなくて……。だから、リリーさん教えてほしいのです!」

「いいよ、フェアちゃん。それじゃあ、何から知りたい?」

「それじゃあ、『学園』って何をする場所なんですか?」

「うーん、みんなと競い合う場所、かな」

「競う、ですか。何をです?」

「色々あるよ。武力とか学力とか」

「競ってどうするのです?」

「競って、自分の力を高めていくってのが目的かな……。はっきりとはしてないかも」

「他にも『学園』みたいな所はあるのです?」

「各地にある『学校』で基本的なことを習えるけど、『学園』はここだけ」


 ん?とフェアちゃんが首を傾かしげる。


「『学園』と『学校』って違うのです? 名前の響きは似てますけど」

「やってることは似てるかな。『学校』は習うところってイメージ。子供が毎日通って、基本的な武術や勉強を教えてもらう感じ。『学園』と違って、平和かな」

「平和?」

「詳しくは私も知らないけど『学園』はこう……殺伐としてるの」

「殺伐……。『学園』に何があるっていうのですか」

「うーん…………、なんて言ったらいいのかな……」


 『学園』を説明するのって思ってた以上に難しいかも。


「『学園』は『学校』みたいな甘いものじゃない。『力』ある者だけが生き残る、それだけだ」


 食事を終えたリュウヤさんが話し出した。


「フェア、リリーに聞くよりも実際に見た方が早い。自分の目で見て、考えろ」

「……はーいなのです。説明ありがとうございました、リリーさん!」

「ううん、私こそ上手く説明できなくてごめんね」

「全然そんなことないのです! ……あ、そうだ。何かフェアにも聞いてほしいのです! フェアに答えることならなんでも答えるですよ!」

「そんな…………大丈夫、大丈夫。気にしないで」


 今回の説明は私なりの恩返しの一つだ。

 もちろん、これぐらいで返しきれたとはこれっぽっちも思っていない。これからも何か出来ることを見つけて行っていこうと考えている。


 でも、『気になること』といえば……。


 私はチラリと横目でリュウヤさんを見た。

 リュウヤさんのあの不思議な魔法(?)について興味がないことはない。しかし、それを聞くことは失礼だ。ここは我慢してーーーー。


「なるほどです! リュウちゃんの『力』について知りたいのですね!」

「フェ、フェ、フェアちゃんッ!?」


 そうだった。フェアちゃんは心の声が聞こえるんだった!


「リュウちゃん、少しぐらいバラしてもいいんじゃないですかー」

「………………」


 リュウヤさんは静かに腕を組んでいる。少しの間が生まれ、私は慌ててフォローを入れる。


「すみません。気にしないでください。私のことなんて無視してもらって結構なので」

「え〜……。リュウちゃ〜ん」


 私の好奇心は、手のうちを晒してくれと言っているも同然だ。恩人のリュウヤさんにそんなまねをしたくない。


「いいぞ」

「………え?」

「少しなら教えてやってもいい」

「えっ、だい、じょうぶ……なんですか?」

「なんだ、気になるんじゃなかったのか」

「いえ、気にならないと嘘になるけど……いいんですか?」

執拗(しつこい)な」

「す、すみません…………」


 まだリュウヤさんには慣れないかも、私…………。


「珍しいこともあるのですね。何か変なことでも要求するつもりですか? イーヤー、リュウちゃんのエッチ〜」

「うるさい」

「アイタッ!」


 リュウヤさんはフェアちゃんの額にデコピンをした。すごく痛そうだ……。


「俺のこの『力』のことを『模倣(コピー)』と呼んでいる」


 聞いたことのない魔法名……。


「簡単に言えば、俺は一度見た魔法や武器を使うことができる」

「えッ!」 

「お前を助ける時に使った『探索(サーチ)』も、近くにいたやつの魔法を『模倣(コピー)』したんだ」

「そ、そんなこと……できるわけ……」


 魔法は、一人一人が持っている力であって、誰かが真似したり使ったりすることはできない。これは常識であるため、素直に信じられなかった。

 そこで、リュウヤさんが深く溜め息を吐いた。


「嘘だと思うなら………………いや、面倒だ。少しこっちによれ」

「は、はい」


 手招きされ、私は身体を少しだけ前のめりにする。 リュウヤさんもこちらに近づいた。 耳打ちで教えてくれるのだろうか。


「動くなよ」


 私が反応する前に、リュウヤさんは私の後頭部に手を添えて自分のおでこと私のおでこを軽く合わせた。


「『記憶模倣(メモリーコピー)』」


 その言葉を耳にした直後。私の意識は、私に流れ込んできた『何か』へと飲まれていった。



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