4 一息(リリー視点)
倉庫から脱出した後、俺と銀髪の少女は人通りのある場所に出た。
街の中心にある時計塔を目印に考えると、倉庫からはかなり離れたはずだ。
「怪我はないか?」
息切れを起こしている少女に声を掛ける。
「は、はい…………。コホッコホッ…………。はぁー、大丈夫です。ありがとう、ございます」
呼吸を整えている少女を見て、一つ気になったことがあった。
「おい、あの銃はどうした」
取り返した銃が見当たらない。落としたとか置いてきたとかは勘弁してほしい。
「あ、それなら……」
少し落ち着いた少女が膝丈ぐらいのスカートの裾をピラっと捲る。太ももに革のホルダーが巻かれており、銃はそこにあった。
ハンドガンの形に戻っているということは、何かしらの能力があるらしい。
「きゃっ!」
少女がホルダーから銃を取ろうとした時、いきなり強風が吹いた。スカートが少女の手から離れ、フワッと浮き上がり、白い何かが見え―――。
バッッ!!と少女がスカートを上から押さえつける。風はすぐに止んだ。少女は顔を少し紅くしてこちらを見てきた。
「…………見ました?」
「見えたが、見ていない」
「見ていないんですね、よかったー……」
フー、と息を吐き、安堵する少女。しかし、すぐに「ん?」と考え始め、みるみる顔を紅く染めていく。
「って! 見たんじゃないですか! はぁ〜……」
赤面しながら俺に向けて叫ぶと、身を屈めて塞ぎ込んでしまった。
「恩人さんだけど…………助けていただいたけどー…………うぅぅ」
何やらブツブツ言っているが、放っておこう。フェアとの約束は果たした。これ以上関わる必要はない。
俺は踵を返して、この場を去ることにした。
「あっ、ま、待ってください!」
少女に服の裾を掴まれ、俺は足を止めた。頭だけ動かして、少女を見る。
「なんだ」
「あ、あの………」
少女はモジモジして、なかなか話そうとしない。焦れったい……。
「俺の用事は済んだ。じゃあな」
前へ向き直して、少女の手を振りきるように強く歩き出す。少女の手が裾から離れた感触が服から伝わってきた。
これでやっと飯を食べに行ける。
「あっ! うー…………もうっ! 待ってくださいってばっ!」
少女に後ろの襟元をしっかりと掴まれ、そのままグイッと後ろへ引かれる。女にしてはかなりの力だ。
「おっ………!」
油断していたこともあり、俺の体勢が崩された。このままでは後ろに倒れる。
立て直そうと、右足を軸に身体を捻った。
「えっ、えっ!?」
「おいっ……!」
立て直そうとしたが、少女はしっかりと俺の襟元を握ったままだった。それにより上手く身体を捻ることができず、逆に体勢をより崩してしまう結果になってしまい。
「はうっ!」
結局、俺は少女を巻き込んで倒れてしまった。
「っ……。お前なぁ」
なんとか腕を伸ばして、少女とぶつかることを避けることができた。俺が少女を押し倒しているような格好になったが、まあいい。俺はゆっくりと立ち上がり、砂埃を払う。
「危ないだろうが……」
「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」
少女が慌ててペコペコと謝ってくる。一つ一つの動作がうるさい奴だ。
「あの、それで……」
「……なんだ。さっさと言え」
面倒だが、俺は少女の返答を待つことにした。また何かやられてはたまったものではない。
「助けてもらった……お礼に、その、お食事でも……」
少女は上目づかいで俺に聞いてきた。
奢ってくれるのか。……ありだな。
金銭的な余裕はそこまでない。恩を金で返してくれるなら誘いに乗るのもいいだろう。
「そうだな。人気の少ないところで頼む」
「えっ! な、何をするつもりですか……?!」
少女は顔を紅くして、身を守るように両腕を胸の前で交差させた。
「…………はぁ」
俺は面倒なやつを助けてしまったかもしれない…………。
◇◇◇
お店に移動した私と恩人さんは、一番奥のテーブル席に腰を下ろした。
ここは『学園』に来てから私がはまっているお店だ。人気店とかではないようで、今も私達以外のお客さんはいない。
人気の少ないところって言われたからここにしたけど…………。大丈夫かな。デザートは美味しいけど。
注文を終え、恩人さんはゆっくりと水を一口飲んだ。
「今回は助けていただき、本当にありがとうございました」
恩人さんが一息ついたところで、深々と頭を下げる。感謝してもしきれないものだ。
「気にするな。それに礼はフェアに言ってくれ」
「フェア…………?」
「じゃ、俺は寝る……」
「えっ! あのーー」
恩人さんは腕を組んだまますぐに寝入ってしまった。なんて早い……。疲れていたのかな?
まだお名前すら聞けていないのに……。
どうしようか悩んでいると、テーブルに置かれた黒い小袋が目に入った。
「これ、何だろう?」
中身が気になり、じっと小袋を見る。
ガサガサッ……。
「はうっ! な、何?!」
突然、小袋が動き出した。
「もー、リュウちゃん。また紐を緩めずにー……」
「こ、声っ?!」
謎の小袋の口がゆっくりと開かれていく。
「よいしょっ、と。ふう、やっと出れたのです」
袋から小さな女の子が一人出てきた。私と似た銀髪で、背中に二枚の羽が生えている。まるで物語に出てくる妖精さんのようだ。
……誰なんだろう。
「あっ、あなたは! 無事だったのですね! よかったのです〜」
この子は私のことを知っている?
「フェアはフェア・クローバーなのです。よろしくお願いしますなのです!」
あ、もしかして……。
「あなたが、フェア……ちゃん?」
「はいなのです」
フェアちゃんは笑顔で頷いた。
「あなたの名前は何ですか?」
「あ、私はリリー・ホワイトライト、です。リリーって呼んで下さい」
反射的に答えてしまった。
「はいなのです、リリーさん」
ここで会話が止まってしまい、妙な間が生まれた。フェアちゃんは首をかしげて、不思議そうな顔をしている。
「あの、もしかしてリュウちゃんから何も聞いていない……のですか?」
リュウちゃんって、恩人さんのことかな?
「えっと、何も……聞いてない、です……」
フェアちゃんはあきれたようにため息を吐いた。
うぅっ、私……何か間違ったかな?
「あっ、ごめんなさいなのです! このため息はリュウちゃんに呆れただけであって、決してリリーさんに向けたものでは……!」
フェアちゃんが慌ててフォローを入れてきた。あたふたするフェアちゃんが可愛いく見えた。そんなフェアちゃんが可笑しくて、クスッと笑いをこぼしてしまう。
そんな私を見て、今度はフェアちゃんも笑った。それにつられて私も笑ってしまう。
……警戒していた私が馬鹿みたいだ。
二人の笑い声が静かなお店の中にを優しく響いた。




