3 突入
「誰だ、お前!」
少女を押さえていた男が叫ぶ。
俺は男を無視して、もう一回中を見渡す。少し先に大剣を持った男、その足元に目的の少女、隣にローブを羽織った怪しい奴。加えて、木箱の上に二人の男が立っている。
まずは少女の安全が最優先か。
「誰だって聞いてんだよッ!」
「アッ、アレス殿!」
大剣を構えた男が俺に向かって突っ込んできた。剣が重いのか動きが鈍い。
「『加速』!」
アレスが何かの魔法名を口にした。アレスの全身に青い光が生まれ、遅かった動きが速くなる。
どうやら速度上昇系の魔法のようだ。
俺は落ち着いてそれを見てから、手の甲にある『印』に意識を集中する。それに呼応して『印』がほのかに光りだす。
「おらッ!」
間合いに入ったアレスが速度を殺すことなくバスタードソードを上段から振り下ろす。
動きに合わせて、俺は身体を少しだけ横にずらす。俺の横を勢いよく大剣が通り過ぎ、地面にぶつかる。
「避けるな! クソがッ!」
そんな無茶な。…………おっ……。
ドクンッと俺の中で鼓動する。どうやら完了したようだ。
「『加速』」
アレスと同じ魔法名を口にする。白い光が身体を覆い始める。
「お前、その魔法……ッ!」
何やら驚いているようだが、今は無視。少女の安全確保が優先だ。
右足に身体の重心を傾け、一気に地を蹴る。そして、勢いをそのままに二歩目を踏み込む。魔法の補助もあり、一秒と掛からずアレスから遠ざかる。そのまま少女の方へ向かう。
「チッ! 待てやぁ!」
離れる俺に反応してアレスが大剣を力任せに振るってきた。しかし、俺を捉えることなく空を斬り、ズドンとアレスが大剣ごと倒れる音が響く。
下手すぎだろ……こいつ。
完全に自分の武器や魔法に振り回されている。それに、重心移動が大事となる大剣と速度上昇系の魔法の併用は悪手でしかない。足元がもたつくことは目に見えている。
「く、来るな!」
俺が接近したことで背の低いローブの奴が慌てふためく。目立った武器を持っていないため『加速』を利用し、ローブの奴に跳び蹴りを決める。見事に腹に決まり、ぎゃっという声が聞こえた。
蹴りを決めた俺は、身体を少し捻り慣性を殺してから着地した。遅れてローブの奴が直線上にある木箱にぶつかった。
「(あ、あなたは……………)」
困惑の色を浮かべている少女がパクパクと口を動かして、何かを伝えようとしてくる。
……声が出ないのか?
「説明は後だ」
時間的にも効率的にも面倒なので説明は後回しだ。それを察してか、少女はコクリと頷いた。
俺は懐から刀身のない赤い柄を取り出す。
柄だけでは使い物にならないので『力』を発動。
『印』が光り出し、刃渡り約七十センチほどの刀身が一瞬で生まれ、愛刀『紅葉』が完成する。
俺は『紅葉』で少女の手足の縄をすばやく切る。
これで少しは動けるだろう。
「おいお前。今からここを出る。武器か魔法を使って少しは戦え」
庇いながら戦ってもいいが、少女にも少しは協力してもらうことにする。けれど、少女はバタバタと手のひらをこちらに向けて振ってきた。
もしかして………… 。
「武器、ないのか?」
少女はぶんぶんと首を縦に振り、木箱の上にいる二人の男を指さした。一人は剣、もう一人はハンドガンを握り、警戒体制を取っている。少女の指の先はハンドガンの男に向けられている。
「あれか………」
この状況からして逃げることを優先するべきか否かを考え、俺はハンドガンの奪還を決定。俺がこのレベルの奴らに負けることはないだろう。それでも、もしもの時に備えて少しは彼女自身に自らを守ってもらう必要があると判断した。
「まだ動くなよ」
少女は俺の後ろに回り、こくこくと頷いた。
「やりやがったな、てめぇ!!」
そうこうしているうちに放置していたアレスが激情し、攻めてきた。木箱の二人もアレスが攻めるタイミングに合わせて動き出した。
「面倒だな…………」
二人は近接、一人は飛び道具。 少女のこともあるので、俺は動かずにその場で迎え撃つことにした。
「『探索』」
俺は『力』を発動させる。『印』が輝き、俺を中心に不可視の領域が半径一メートルの半球状に広がる。『探索』の展開が完了したのを確認しつつ、『紅葉』を構え、息を吸う。
俺の意識は世界をゆっくりと捉え始める。
始めに範囲内に入ったのは、木箱の上にいた男が振るってきた剣。俺は斜めに振り下ろされた剣ではなく、剣を握る男の手に向けて的確に『紅葉』で峰打ちを入れる。男は衝撃に耐えかねて手から剣を落とす。ほぼ同時に、ハンドガンの鉛弾三発が範囲に侵入。『紅葉』を流れるように弾道上に引き寄せ、一発目を右に、二発目を左に受け流す。三発目は顔を右にずらして回避。
次にバスタードソードを持ったアレスが近づいてきた。まだ範囲には入っていないが、大剣を振るわれると後ろの少女が危険だと判断する。
剣を落とした男の腰を『紅葉』の峰で打ち、男がひるんだ隙に空いている左手で男の襟を掴む。そのまま左足を軸に一回転し、アレスの足元に向けて放り投げた。男は狙い通り飛んでいきアレスの体制を崩した。そのままアレスはバランスを立て直せずに、どてっと倒れた。
最後にハンドガンを持つ男に向かって『紅葉』を投擲。俺自身も後を追うようにして走る。ハンドガンの男は動揺したのか急いで引き金を引き、四発の弾丸を放つ。放たれた弾丸は的はずれな所に着弾。『紅葉』が男の顔スレスレを通過して、木箱に刺さった。男は『紅葉』に驚きつつも、なんとかしてもう一度ハンドガンを構え直す。しかし、時すでに遅い。
俺は男の前で踏み込み、男の手元を狙って蹴りを放つ。蹴りは綺麗に決まり、ハンドガンを少女の方へと飛ばすことに成功した。念のため足を入れ替え、男の横腹も蹴飛ばしておく。
よし、完了。ーーーー離脱。
『紅葉』を抜き、ハンドガンを回収した少女の元へ戻る。
「行くぞ」
入ってきた所から出るにはアレスの横を通る必要があるので、俺は反対側の壁を指して少女に合図する。しかし、少女はハンドガンを手にしたままへたりこんだまま動かなかった。
「ぁーもー……ッ!」
面倒なので少女の手を掴み、強引に立たせて連れていく。あとはここから出るだけだ。
「待てや…………! ――ゴラァッ!!」
「おいおい……ッ!」
あと少しで壁に到着するところで、アレスが叫んだ。それだけなら俺も無視できた。が、今回ばかりは無視できないこととなった。
アレスが倒れた状態から俺たちに向けて大剣を投げてきたのだ。
風をきりながらこちらに向かってくる巨大な刃を見て防ぐことは不可能と直感し、咄嗟に避けようとした、その時――――。
「い、嫌やあぁぁぁぁー!!」
声が出なかったはずの少女が叫び、持っていたハンドガンが姿を変え始めた。大きさはどんどん大きくなり、最終的に大砲サイズまで変形。
大剣があと数センチで当たるところで、ドコンッ!と大きな音を鳴らして黄色い魔力弾を打ち出す。魔力弾は大剣を呑み込み、延長線上のアレスに被弾。砂埃と風が舞い、轟音が倉庫に反響する。
うわぁ…………って、見てる場合じゃないな。
突然のことで足を止まってしまっていた。
俺はすぐに目的を思い出し、少女を引っぱって壁側へ向かう。壁に近付き、少女に一歩後ろに下がるよう指示する。
「『紅葉狩り』!」
キンッと甲高い音と共に金属の壁に人が通れるぐらいの出口ができた。差し込んでくる明るい外の光がとても眩しく感じる。
「急ぐぞ」
「は、はい!」
最後に倉庫内からアレスの怒号が聞こえたが、俺と少女は一目散にその場を後にした。




