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第二話-It stands on many sacrifices.【蛋白石は砕かれた】

第二話-It stands on many sacrifices.

【蛋白石は砕かれた】



 その後、みさきは恋と共に守斗に学校を案内した。教室、理科室、家庭科室…聞かれた事にも答えた。


「綺麗な学校ですね。」

「去年立て替えたからね。」

「耐震工事ってヤツだよ。」

「そうなんですか。」


 去年の先輩はプレハブ校舎で大変そうだった。と、みさきが言うと、恋が頷いた。そんな風に時間が過ぎて、教室に帰ったら、もう帰りの会だった。急いで片付けて、恋と途中まで一緒に下校した。


「ただいまー」


 玄関の扉を開けて、大きな声で帰宅を知らせる。返事は当然返ってこない。親は帰りが遅いのだから当たり前だ。

 玄関の鍵を閉めて、靴を脱ぐ。すぐにしゃがんで自分の靴をそろえて置く。幼い頃からの習慣だった。そして、立ち上がる。階段は玄関の目の前にあるので、自分の部屋に上がるために階段に一歩近づいた。その時だった。


「白林 みさき」


 名前を呼ばれた。


「…えっ」


 驚いて、振り返る。誰も居ないはずの玄関に少年が居た。

 その少年は真っ白のフード月のローブを羽織っていた。髪は金色で、瞳は空の色の様に白の混じっている色ではなく、純粋な青だった。肌は陶器の様に真っ白で、どうやら日本人ではないらしかった。声は聞き惚れる様なボーイソプラノ。


「中学二年生。十四歳。両親は共働きで帰りが遅いため、鍵を持ち歩いている。」


 淡々とボーイソプラノはみさきについて述べてゆく。


「そして、」

「ちょっと!」


 まだ語ろうとするのをみさきが止める。少年は開きかけた口を閉じて、みさきを視線で射る。


「あんた誰なの?勝手に入ってこないでよ!」

「…」


 何も言わず、少年は消えた。文字通り、まるで其処には元々何も無かったように『消えた』。


 いや、元々何も無かったのだ。そう言い聞かせて、階段を上る。上り終わってすぐ近くの自分の部屋の扉を開ける。すぐに飛び込んできた光景に目を見開く、鼓動が早くなる。何より信じられなかった。


「なんで、いるの。」


 玄関に現れた少年がいた。皺一つ無い白いローブをさっきと同じ様に羽織っている。表情もさっきと変わらず、読めない。


「…君に伝えに来た。」

「は?」


 少年は一切表情を変えずに言う。さっきと同じように淡々という。そして、更に続ける。


「おめでとう。君は『神の候補生(エンジェル)』に選ばれた。」


 エンジェル?


「…何、それ。」


 少年は懐から銀に光るナイフを出す。食事に使うような、先の尖っていないもの。デザインはシンプルで何か特徴があるようではない。そのナイフを少年は柄をみさきに向けて、みさきの目の前に突き出す。


「しかし、それはただ選ばれただけ。白林みさきの選ぶべき選択肢が増えただけ。」

「…何の話をしているの?」

「あの時、携帯電話を落としたのは、

 図書室で彼女と出会う未来を自分自身で選んだからだ。」

「だから、何言って…」

「あの時、彼の案内を引き受けたのも、

 彼との関係を作り出す未来を自分自身で選んだだけ。」

「ちょっと、人の話をっ」

「そう、だから」


― 選べ。


 少年は、静かに淡々と告げた。

 その少年は相変わらず、ナイフの柄をみさきに向かわせて持っている。みさきの目の前に、銀色の。その銀色がやたらと鮮やかに、美しく見えて、思わず体が動いていた。


 白い少年の指が、ナイフから離れる。落ちる音が聞こえないのは、


「君は選んだ。その未来が」


みさきがナイフを握ったからだ。


「君が選んだその時に始まった。」


 少年が言い終わる前に始まった激痛。背中が燃える様に熱かった。


「うぁぁあああああああああああッ」








―― 蛋白石(オパール)が砕けてしまった様ですね。


  宝石言葉は『希望』『幸福』『安楽』などですから、


  つまりは、そういう事なのです。          ―――



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