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3.5 観客なき最終試合

 竜はリサたちに向かってのしのしと前進してくる。


 ついリサがぐいぐいと前に出そうになるのを、ベルディグロウは手で制止する。リサは忘れがちだが、ベルディグロウが前衛でリサが後衛担当と決めたはずだ。


「グロウ、あれは?」


「騎士竜だな。この事件の魔獣使いがつくったものではなく、本来の魔獣闘技場の対戦相手だ」


「へっぽこ魔獣使いが、これも罠に組み込んだってこと?」


「そういうことだろう。自分のつくった魔獣生成陣が破壊されたとき、こいつが出てくるような仕掛けにしたのだろう」


「うわあ、きったない!」


「しかも、騎士竜は魔獣闘技場の三戦中三戦目の相手。決勝戦の相手だ。それを罠に使うとは」


「あの紋様を破壊した人間を許さない気持ちが伝わってくるようだね」


「……来るぞ!」


 ベルディグロウがそう言ったとき、リサはセオリーを思い出して一旦後方へと退がった。



 騎士竜が突進してくる。だが、ベルディグロウは前進し、大剣で騎士竜を斬りつける。分厚いウロコに守られた身体に、深い傷をつける。だが、一撃で沈黙させるには至らない。


 遠目から、リサは光の槍を振り回し、騎士竜に向かって光の棘を撃ちまくる。何本も突き刺さっているようだが、倒れない。しぶとい相手だ。


「なるほど、これが決勝戦の相手ね」


 正しくは、魔獣闘技場ではこの竜と一対一で戦うのだろう。そう考えると、騎士竜は難易度の高い相手だろう。


 だが、ベルディグロウはそれ以上に強い。所詮、名声も武功もない一般人がのし上がる登竜門だ。歴戦の神官騎士の相手ではない。


「ふんっ!」


 空冥力を高めた強烈な一撃で、ベルディグロウの大剣が騎士竜の腹を切り裂く。これには騎士竜も悲鳴を上げる。そして、火焔を吐く。


 ベルディグロウは空冥力の盾と大剣で相手の火焔をやり過ごすと、再び逆方向から騎士竜の腹を切り裂いた。


 さすがに耐えきれず、騎士竜は地面に倒れ込む。それを見逃すベルディグロウではない。彼は即座に剣を持ち帰ると、騎士竜の首を落とした。


 完勝だ。


 騎士竜の特性は、その分厚い装甲と火焔の攻撃力の高さだ。だが、どちらもベルディグロウにとっては十分対応可能だ。彼は決して華やかな世界には出て来ないが、そんなところにも実力者はいるというわけだ。


 リサは笑う。


「これを倒したら三万帝国通貨だっけ?」


「それと電子レンジだな」


「せっかくだし、もらっとく?」


「いや、ここで魔獣闘技場の三戦目の相手を勝手に倒してしまったから、次に騎士竜を確保するまで、闘技場は休業だろう。悪いことをした」


 ベルディグロウが言うとおり、彼らはこの騎士竜を正しく闘技場の見世物として倒したわけではない。ただ、闘技場主の財産を破壊しただけだ。


「え? 騎士竜も『魔獣使い』がつくれたりしないの?」


「見たところ、この竜種は天然物だろう。学術都市の正規の魔獣使いなら似たものはつくれるかもしれないが。そう安く手に入るものではないはずだ」


「あちゃー。損害賠償ものかな」


「緊急避難が適用されるだろう。それより、入口の鉄格子が開いたようだ」


 ベルディグロウに言われてリサも見る。確かに、入ってきたときに通ったところは再び開いていた。だが、街の外の騒がしさはまだ続いている。


 リサは首をかしげる。


「おかしいな。ここの紋様を破壊したのに、騒ぎが収まってない」


「……出現済みの魔獣に関しては、この事件の犯人の空冥力の続く限り収まらなさそうだ。……いや、待て」


「そうか。へっぽこ魔獣使いの空冥力で、あの数の魔獣をずっと維持し続けられるはずがない。だったら、こっちは罠で……」


「ああ、あの程度の力の魔獣でできるのはせいぜい示威行動。この街で一番、示威行動をするのに一番効果があるのは、領主の屋敷だ」


「なるほど、本命は、この魔獣闘技場のあるじ、ノール・ノルザニ伯爵の屋敷、か」


 ベルディグロウは魔獣闘技場の入口に向かって走り出し、リサもそれに続く。彼が後方のリサに言う。


「魔獣の群れは統制が取れていなかったが、一応、この魔獣闘技場から出発してノール・ノルザニ伯爵の屋敷へ向かっていた。いま思えば、あれは力の誇示だ。伯爵を狙うなら、もっと伯爵の屋敷に近いところで陣を敷けばいい」


「たしかに。空冥力の無駄遣いをしてまで、魔獣のパレードを見せつける必要はないもんね」


「その通りだ。黒幕を押さえる。リサ、あなたは後衛として、前に出すぎないように」


「はーい」


++++++++++


 リサとベルディグロウが走って走って、ようやく辿り着いたノール・ノルザニ伯爵の屋敷は黒い魔獣に包囲されていた。


 屋敷の入口では伯爵の屋敷の警固騎士隊が応戦している。


 黒幕たる魔獣使いの姿は見えない。まだどこかに隠れているのだろう。


 リサは空冥術で身体強化してベルディグロウを追い抜くと、警固騎士隊と魔獣の群れの間に割って入る。


 つい先ほど前衛と後衛の話をしたばかりだというのに、リサのこの行動には、さすがのベルディグロウも苦言を呈しようとする。


「リサ……!」


「グロウ! この場合、黒幕のほうが前衛。こっちの魔獣の群れは後衛だよね!」


 ……などと供述しており。と、リサ当人でさえ、心の中で付け足したくなった。だが、魔獣の群れを見た瞬間、飛び込みたくなってしまったのだ。伯爵の警固騎士隊が魔獣に苦戦しているのを見るとなおさらだ。


 リサは光の槍を振り回す。身体ごと回転し魔獣をなぎ倒していく。彼女の光の槍は魔獣退治に相性がいいのだ。並の近接型空冥術士が剣で何度も斬りつけないと倒せないような魔獣でも、光の槍ならサクサク斬れるのだから。


「リサ! なんでこんなところに!」


 再び名前を呼ばれたリサだったが、今度の声はベルディグロウのものではない。少年の声だった。


 あの少年剣士ザルトが、伯爵家の警固騎士隊に混じって戦っていたのだ。


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