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2.3 異大陸ドライブ

 リサは助手席に座りながら、運転をしてくれているノナを見て、モリオン子爵領のテーレのことを思い出す。彼女は、女の子には学校へ行く機会がないと言っていた。


 それを思うと、日本の会社に現地採用されて、こうして車の運転までできるノナは半端なくすごいのではないだろうか。


 疑問に思ったリサは、そのことを直接ノナに話した。すると、ノナは笑う。


「女の出世がないなんて、田舎だけですから!」


「そうなの? 学校とかも、男の子しか行けないって……」


「それも田舎だけです。首都デルンのような都市だと、学校は共学ですし、進学も成績で決まります。性別の差はないですよ」


「へー、じゃあ日本とあまり変わらないんだね」


「まあ、わたしは戦闘向きの空冥術の才能がなかったので、帝立主計学院に進学しました。この星芒具、計算機として使えるんですよ。むしろ親は、わたしが戦場に行かなくて済んだと喜んでます」


 計算機……ここでいう計算機はパソコンのようなものではなく、電卓のようなもののことだろう。もしかしたら、計算尺とか算盤みたいな使用感かもしれないが、それはノナにしかわからない。


「なるほど、そういう進路もあるんだ。最初のモリオン子爵領の衝撃が強すぎて、アーケモスの女子はみんな大変な思いをしているのかと思ったよ」


「いえいえ。有能な人材を探し出すのは、帝国の政策ですからね。高等教育まで国費で受けられます。……あ、わたしは優秀じゃなかったですけどね」


 ノナのそれは謙遜だろう。きっと、誰かがノナの才能を見極め、主計学院に割り振ったのだ。制度も優れているし、本人も能力がある。


 ふと、リサは思い出す。


「そういえば、ラミザも帝立士官学校卒と言ってた気がする。たしかに、女子教育が遅れている感じはないかな」


「そうですね。それにしたって、ラミザさんは特殊です。士官学校卒の多くは、卒業後、下士官からスタートになるはず。でも、彼女は狭き門である参謀部に入った。並外れた頭脳の持ち主です」


 そう言われて、リサは後ろの座席を振り返る。


「ねえ、フィズも士官学校出身でしょ? ラミザをそこで見かけたりしなかったの?」


「見かけることはないな。俺、ラミザ参謀部員より五つ歳上だぞ。それで、士官学校は四年制だ。稀に飛び級があるが……。いや、ちょっと待て」


「うん?」


「まえ、ラミザの歳を訊いたことがあったよな。で、たしかあのとき十七だったと。士官学校の入学は、普通、十五になる年だったはずだから……」


「あれ? 歳が合わない?」


「……いや、飛び級卒業以前に、飛び入学まで使ってるのかもな。いずれにしても、桁外れの相手だ。まともにかち合えば、戦う前に負けかねない」


 リサはゴクリとつばを飲み込む。すごいすごいと思っていたが、そこまで常識外れの経歴の持ち主だとは。



 ノナが車を減速させ始める。


「軍隊の列です。通り過ぎるまで待ちましょう」


 リサが見ると、車が通ろうとしている道を横切るように別の道が交差しており、そちらの道のほうを騎兵と歩兵の長い隊列が進んでいく。


 この列が通り過ぎるまでは、ここは通行止めだ。


「なにこれ? 戦争でもあるの?」


 リサが訊くと、ノナが答える。


「これはきっと、イルオール連邦との戦闘のために首都に駆り出された、地方貴族支配下の軍だと思います」


 話に聞いていたが、本当に、オーリア帝国はイルオール連邦とずっと戦争をしているんだと、リサは実感する。


 ラミザは、リサがいればアーケモスを平和にすることができると言っていた。リサは自問自答する。わたしに、ほんとうにそんなことが可能だろうか。


 そんななか、フィズナーはリサとは異なる感想を口にする。


「これ、俺も参加できないかな」


「イルオール連邦との戦争に?」


 リサが振り返ると、フィズナーはうなずく。


「俺は元々、国境線上の部隊所属だった。そしていまは、イルオール連邦の地下組織『黒鳥の檻』を追ってる。もしかしたら、ジル・デュール公爵領を焼け野原にした魔族とだって、戦場で会えるかもしれない」


 リサにとっても、『黒鳥の檻』を無力化するのは、こちらの大陸に来た理由のひとつだ。もし、戦場で相見えるようなことがあるのなら……。


「はやく、首都デルンに行かなきゃだね」


「では、通り道のファーリアンダ侯爵領での用事は、さくっと終わらせてすすみたいですね」


 ノナがそう言いながら、サイドブレーキを下ろし、エンジンを掛ける。どうやら、軍隊の列は通り過ぎたようだ。


 アクセルべた踏みの危ない急加速を経て、自動車はファーリアンダ侯爵領へと向かうのだった。


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