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9.2 導きか戒めか

 そこからは遊び三昧だった。


 たとえば、砂浜を模したプールサイドでのビーチバレー。女子三人対男子三人で対抗戦をする。


 女子はリサとラミザ、そして安喜少尉だ。男子はフィズナー、ベルディグロウ、そして岸辺だ。男子はまだ天庵がいるので、交代制になる。淡路はまだ、ボールを追いかけ回れるほどには怪我が治りきっていない。


 ビーチバレーには、「空冥術での身体強化をしない」というのが条件に組み入れられた。というのも、安喜少尉が空冥術を使えないからだ。また、安喜少尉以外が身体強化してビーチバレーをすると、周りの他のお客さんに危険が及びそうだと判断したというのもある。


 まず始めにビーチバレーのルールを、アーケモスから来た人々に説明すると、早速スタートした。誰もが想像したとおり、ラミザもフィズナーもベルディグロウも動きがよい。


 リサもさすがに機敏に動く。しかし――。


(すごいな、みんな。全然動きが落ちない)


 自分の体力が減ってきたことを感じてから、リサは、周りのメンバーの動きが一向に衰えないことに感心した。


(そうだ。みんなは軍人としての訓練を受けたことがあるんだ)


 一般の高校生としては、リサは体力があるほうだ。しかし、安喜少尉と比べてさえ、やはりスタミナ不足が見て取れる。


 リサが汗だくでフラフラになったところで、ビーチバレーはお開きになる。女子勢に比べて男子勢は交代しながらやっているのだ。リサがバテてしまうのも無理はない。


++++++++++


 ベルディグロウはパラソルの下で、ベンチに座って、この「砂浜と海」を模した遊戯施設の様子を眺めていた。


 親子連れで来ている者たち、学生のような青少年たち、そして老人たち。様々な年齢性別の者たちが、ここへ遊びに来ている。


 遊び方もさまざまだ。


 リサのようにガッシガッシと本気で泳ぐ者。……彼女は、先ほど体力が枯渇して休んでいたはずだが、あっという間に回復して泳いでいる。


 安喜少尉は巨大な浮き輪に乗って、浮かんでいるだけだ。のんびりと流されながら、メロンソーダなどをちびちびと飲んでいる。


 岸辺と天庵はまだボール遊びが足りないのか、水の中に入ってまでボールの投げ合いをしている。淡路はその様子を見ているだけだ。


 ……ラミザの姿が見えないと思ったら、彼女はリサのそばに浮上してきた。どうやら、彼女は長時間の潜水をしていたらしい。それなりに水深がある場所もあるので、そういう遊びも出来るのだろう。


「旦那」


 ベルディグロウの背後から声が掛かる。フィズナーだ。


 フィズナーはベルディグロウに隣に座ると、飲み物の容器を突き出してきた。どうやら、ふたり分買ってきたらしい。


 しかし、ベルディグロウはそれを受け取らない。中身がビールだったからだ。


「私は酒は飲まん」


「堅いねえ。こんなところにまで来て、任務優先ってこと?」


「単に体質的に受け付けんだけだ」


「そうか、まあ、ふたつくらいなら俺が飲めるか。俺、この泡の酒が結構気に入ったんだ」


 そう言いつつ、フィズナーはビールに口を付ける。


 ベルディグロウはパーク内の観察を続ける。誰もが楽しそうに遊んでいる。とても、海を越えた先で戦争が起きているなどとは想像もつかない。


「これが、平和か」


 つぶやいてみてから、ベルディグロウは少しの違和感に気づく。この『常夏パーク』は在りし日の日本の海を再現したものだ。その景色を奪ったのは『アクジキ』と呼ばれる巨大なサカナだと聞いている。


 平和そうに見える日本も、災害を乗り越えて平和を勝ち得ているのだ。


 ビールを一杯飲み干したフィズナーが同意する。


「まあ、旦那の言うとおり、日本の連中は平和慣れしてる。困ったら誰かが助けてくれると思ってる」


「うん?」


「あそこを見てみなよ」


 フィズナーはビーチサイドにひときわ高く立つ、監視員の席を指さす。


「溺れる者がいないかどうか、確認しているのだな。それが?」


「自力でどうにかするとか、一緒に来た仲間がどうにかする、って発想がどうも薄く感じられてならないんだ。日本人には。まあ、おかげで、酒飲んで海に飛び込むなんて莫迦な真似をしても、死なない保証があるわけだが」


 フィズナーの言い分には一理ある。ベルディグロウは唸った。


「ふむ。そうなると、リサのような人材は貴重だというわけか。共助意識の薄いこの国で、自ら進んで、人のために危険を背負おうなどというのは」


「しかも、あいつの見ているのは、見ず知らずの他人だ」


「ふむ」


「あいつは自分のことよりも、見ず知らずの他人を優先する。神官騎士サマはどう思う? それは美しい献身か? それとも――」


「それが神の導きであれば」


「いいや、いまのあいつは、何の導きも受けられちゃいないね。むしろ、本来の能力を殺しているようにさえ見える。あいつは導かれて進んでいるんじゃない。戒めに沿って行動しているんだ」


「……よく見ているじゃないか」


「なっ」


 二杯目のビールを半分まで飲んだフィズナーが、想定外の言葉に面食らった。あやうく、コップの中身をこぼすところだ。


「どうやら、リサのことを護ってやるように、お前に言ったのは正しかったらしい。いまだ私の目は曇っていて、私は、リサが神域聖帝教会を導く選ばれし者であり、清く輝かしい存在であると信じている。……いや、信じたいのだ」


 自己批判ともとれるベルディグロウの言葉に、フィズナーは驚きつつも感心する。


「なるほど……。そこいらの型どおりの神官騎士かと思えば、客観視もできる。自己批判もできる。これでなかなかできた神官サマじゃないか」


「だが、私はこういう生き方しかできん。私はそこいらの神官騎士なんだよ。フィズナー」


「へいへい、わかったよ、旦那。お互い、自分の欠点を知ってるくせに、どうしてこう、不器用なんだろうな」


++++++++++


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