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9.1 サニーサイド常夏パーク

 アーケモスの暦で十四月となった。いよいよ年の瀬だ。


 今年受験生であるリサは年明けの二月に大学入試を控えている。しかし、たまにはこういう息抜きもいいか、と思える。


 リサが乗っているのは十人規模で乗れるマイクロバス。運転しているのは安喜少尉だ。そういうわけで、今回はドライバーとして他の『総合治安部隊』隊員を手配することさえない、ごく小規模な慰安旅行である。


 参加しているのはリサを始め、アーケモス人であるラミザ、ベルディグロウ、フィズナー、そして『総合治安部隊』正規メンバーの岸辺、天庵、そして淡路だ。


 総勢八名。ここには妙見中佐も澄河御影もいない。暗い陰謀の匂いがせず、非常にからっとしている。心なしか、安喜少尉も肩の力を抜いているようだ。


 淡路は九月に山手ダイヤモンドタワーで重傷を負ってから、ずっと入院していた。だが、半年近く経って、ようやく出歩ける程度には回復したのだ。しかし、まだ戦闘に出られるほどではない。


「淡路さん、本当に、逢川さんはすごいんですよ。もう、白兵戦も狙撃もバッチリ。オールレンジ対応型になっていますよ。なんと言っても、わが隊唯一の『星五つ』なんですから」


「うるせえなあ、岸辺。それで俺らが『星三つ』なんだろ」


 通路を挟んで向こう側の席から、岸辺が淡路に熱弁している声が聞こえる。岸辺は淡路が入院していた間、リサがどれだけ活躍していたのかを滔々と語っているようだ。


 『星五つ』という称号は最近できたものだが、リサはあまり好きではない。仲間同士だというのに、序列をつくるのがいけない。


 とはいえ、二十人ばかり、新しく入隊し鋭意訓練を受けている最中の『星ひとつ』とは区別する必要があったのだろう。彼らはまだ適性スクリーニングを越えたばかりで、空冥術を使えると言えるようなレベルではない。


 岸辺、天庵、淡路の三人は『星三つ』という称号を得ている。実質的に、この一泊二日、土日の慰安旅行は『星三つ』以上の者が参加可能なものになっている。


 それよりも、気がかりなのは、リサの隣に座っているラミザだ。彼女はシデルーン総司令のお付きの参謀部員として来日したのではなかったのか。それがどうしてこんなところにいるのだろう。


「ラミザさん、総司令の仕事のほうは大丈夫なの?」


 心配げなリサの声に、ラミザはハッキリと答える。


「大丈夫よ。日本滞在もまだ延びているし、この土日はちょうど仕事がなかったの。気晴らしにはもってこいだわ」


 リサは、そういうことなら、と一応納得する。しかし、シデルーン総司令は九月からずっと日本に滞在している。軍の総司令ともあろう人物が、それほど長い期間、本国を留守にしておけるものだろうか。


 いや、この考え方は日本的――地球的なのだろう。きっと、アーケモス、オーリア帝国には別の考え方があるに違いない。



 バスは伊豆の慰安施設ヘと向かっている。


 かつて、伊豆といえば海、という時代もあったという。しかし、いまの日本は常冬だ。海開きというものはなく、海は泳ぐところではなくなってしまった。耐寒仕様のスーツを着て海に入るのは、一部の趣味人だけだ。


 だが、伊豆の海水浴を懐かしむ声によって建設されたのが、『常夏パーク』である。この巨大な施設の大規模な温水プールでは、九五年以前の日本の夏の伊豆と同じように、水着で遊ぶことができる。


++++++++++


 一同がマイクロバスを下り、常夏パークに入った瞬間、感じたのは熱風だった。ここでは誰もが水着一枚で歩き回れるよう、空調温度がかなり高めに設定されている。


「すごいわ。みんなあんなに薄着で……。ウソ、薄着どころかほとんど何も着ていないじゃない」


 ラミザが驚きの声をあげ、両手で口を覆っている間に、安喜少尉が受付を済ませてくれている。


 ラミザが驚いているのは、もっぱら、男性の海水パンツ姿と女性のビキニ姿だ。


「アーケモスの、とくにオーリア帝国側は温暖だと聞いてるけど、水着で泳いだりしないの?」


「泳ぐけれど、あそこまで破廉恥なものは水着とは呼んでいないわ」


 破廉恥。ラミザから見ればそうだろう。アーケモスから来た人は、肌の露出を避ける衣服を着る傾向にある。出していいのは顔と腕くらいのものだ。


 リサたちの背後から、安喜少尉の声が聞こえる。


「みんな、水着のレンタル権もセットだから、好きな水着を一着借りていいですからね!」


 リサは半ば放心状態のラミザの肩を叩く。


「だってさ、ラミザさん。女子の水着レンタルコーナーはあっちだから、あっちで見ようよ。それで、着替えは、向こうの更衣室」


 驚いた様子で、ラミザはリサのほうを見る。目を見開きすぎて、まんまるになるほどだ。


「リサも、ああいう水着を着るの?」


「ここではそれが普通だからね」


「それって、わたし、見ていいの? え? ほんとに? ああいう格好をしたリサを……?」


「ちょっと、言ってることが怖いよ、ラミザさん……」


 リサは苦笑いをした。なんだろう、見るのは有料だとでも言えば納得するのだろうか。それで納得するなら、それはそれで怖い気もするが……。



 男女別に分かれて、一同は水着を選び、更衣室に入った。着替え終わったら、砂浜を模した温水プールのほうで、パラソルの下で集合するようにと約束をした。


 リサは結局、胸元にフリルの多いセパレートの水着を選んだ。リサは痩せ型で手足が長いため、たまにスタイルがよいと言われるが、贅肉が少なすぎるのか、胸元のボリューム感のなさを気にしていた。フリルは救いだ。


 なんだかんだ、ラミザもビキニに挑戦した。普段フードをかぶって顔を隠してさえいる彼女が、顔も、手足も、腹も背も、褐色の肌が露わになっているのは新鮮味がある。いよいよ、銀色の髪が映える。


 安喜少尉もごく自然にビキニを着ている。リサよりは歳上とはいえ、二十四歳と若く、しかも軍人として鍛えてもいるので、スタイルがよいのがすぐにわかる。


 一方の男子勢である。岸辺も淡路もフィズナーもハーフパンツ式の水着を履いている。いずれも引き締まった筋肉の持ち主で、惚れ惚れするような肉体美ではある。


 しかし、視線をかっさらっていったのは、ベルディグロウと天庵のブーメランパンツである。ベルディグロウはやや重量級の筋肉の持ち主であり、ブーメランとの相性がよすぎる。さらに言えば、意外にも、天庵の僧衣の下も筋肉質だった。


 なんだこの、マッチョ神官騎士とマッチョ僧兵は。宗教者は筋肉必須なのか。リサは、ずり落ちそうになるメガネを押し上げる。


 さすがに、アーケモスから来た人々は、水着でも左腕の籠手――星芒具だけは装着している。これがないと、言葉が通じないからだ。


 そんなふうに、仲間の様子を順次見ていくリサは、自分自身がラミザの熱視線を浴びていることに気づいていない。


++++++++++


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