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8.1 行きすぎた信頼は無関心

「最近、お友達も増えて楽しそうね」


 台所から一人鍋を持って来た母がそう言った。鍋はふたつ。リサと母は同じ大きな鍋をつつくということをしない。ひとりひとつだ。


 きょうは珍しく、ノナもザネリヤも来ていない。


 こたつに足を入れて座っていたリサは、読んでいた本を閉じる。


「そう思う?」


「ええ。アーケモスの人に、大人の人もときどきいらっしゃるでしょう。それにバイトとか、よく出掛けるもの」


 母が言っているのは、単なる事実だ。単なる事実を、リサの幸せな心境に勝手に結びつけている。そこには、何の想像力もない。


「出掛けて、なにをしているか気にならないの?」


 無断で夜の散歩をして、夜な夜な悪漢を退治しているのはリサの秘密だ。


 無断で軍隊に入って、テロ組織を相手に抗戦しているのもリサの秘密だ。


「いいえ」


「なんで」


「リサはお母さんよりもずっと賢くて、ずっと真面目で、ずっとしっかりしているもの。お母さんがあれこれ言う資格はないわ」


「そんなことない」


「昔から謙遜が得意ね」


「そんなことないって言ってるでしょ!」

 

 リサが語気を荒げて初めて、母の動きが少し止まる。だが、すぐにまた自動的に家事へと戻っていく。


「お母さんはだめね。きっと失礼なことを言ったんだわ。でも、お母さんにはわからなくても、リサは賢いから、きっともっと考えているのね」


「もういい」


 リサは立ち上がり、リビングの引き戸に手を掛ける。


「お出掛け?」


「ザンのところへ行ってくる」


「そう。いってらっしゃい」


 リサは歯を食いしばって、リビングから出た。二階の部屋で上着を着込んで、外へ出る。ザネリヤの家には、途中で公衆電話で連絡をすればいい。


 すぐにこの家を出ないと、奥歯を噛み割ってしまいそうだ。


 母はリサのことを信頼している。自分には出来すぎた娘だとさえ思っている。だが、母はリサが同じ感情をもつ人間だということさえ、忘れてしまっている。


 ――行きすぎた信頼は、無関心と同じだ。


 リサは夜の暗い闇のなか、家を出た。


++++++++++


 翌朝、緊急招集を受けたリサは、ザネリヤの家から、彼女とともに『総合治安部隊』隊舎へと向かった。


 平日日中のことなので、学校へは電話で休むと伝えてある。不思議なことに、リサが軍務に就いていることは学校の教師陣は誰も知らないはずだが、不思議なことに、出席日数などにはまるで影響していない。


 いつものように、会議室二-Sではブリーフィングがもたれる。


「昨日、『大和再興同友会』が『宇宙革命運動社』の本部へ襲撃を仕掛けました」


 一番前には軍服を着た安喜少尉が状況と作戦を説明し、安喜少尉から見て右側の長机には『総合治安部隊』のメンバーであるリサと岸辺、そしてフィズナーとベルディグロウが座っている。


 フィズナーはともかく、ベルディグロウはもはやリサとセットで動くつもりが感じられる。


 一方、安喜少尉から見て左側の長机には偉い人々が座っている。妙見中佐、澄河御影、シデルーン総司令、そしてラミザだ。


 それから、一番奥、安喜少尉と向かい合っている机には、空冥術研究所所属のザネリヤと紹首席研究員が座っている。


 安喜少尉が説明を続ける。


「双方に重傷者は出ていますが、幸いにも死者は出ていません。この事件の鎮圧は、急を要したため、国防軍のほうで行いました。これにより、『大和再興同友会』のメンバーの相当数が逮捕され、彼らの本部も割れました」


「本拠地に乗り込むのが今回のミッションですか」


 リサの問いに、安喜少尉は肯定で返す。


「そうです。『大和再興同友会』の本部は、新橋の豊玉ビルの最上階。表向きは日本フレンドリー株式会社という名前で偽装されています。しかし、紛れもなく、武器を持った反社会的勢力の本拠地です」


 豊玉ビルというのは、先日飛び込んだ山手ダイヤモンドタワーに比べれば竣工年代が古い、三十年は流行遅れのビルだった。だが、それだけに重厚感はある。


「作戦目標は、『大和再興同友会』の幹部、櫛田会長と依知川を確保することです。これで、排外的な武装組織勢力を無力化することができます」


 排外的、という言葉でリサは思い出す。依知川は以前言っていた。いまの日本政府は宇宙人による傀儡政権だと。その宇宙人は『ヴェーラ人』だと言っていた。あれはどういう意味だったのだろう。


 安喜少尉の作戦プランの説明は続く。


「今回のメンバーは、岸辺、逢川の両隊員と、オーリア帝国からの助っ人でベルディグロウおよびフィズナーの両氏にも入っていただきます。淡路は完全治癒していないため、今回も不参加です」


 そこで、ラミザが席から立ち上がる。


「それなら、わたしも参加します。『総合治安部隊』との連携がとれることは、大川埠頭での戦闘で実証済みかと思いますが」


 しかし、それを隣に座っているシデルーン総司令がたしなめる。


「ラミザ参謀部員、今回は『黒鳥の檻』がらみの件ではないのだよ。きょうは内閣官房へ訪問する予定が……」


「あんな愚物のところに行って、何になるというのです」


「そもそも、君の案に沿った訪問日程が延び続けているのでは――」


 ラミザはシデルーン総司令のほうをじっと見る。銀色の横髪のせいで、彼女がどんな顔をしているのか、リサには見えない。


「ラ、ラミザ殿、いや、ラミザ参謀部員」


「……失礼いたしました、総司令。『総合治安部隊』はもはや仲間のように思っていましたから、つい。しかし、公務がありますから、致し方ありません」


 ラミザはすとんと自分の席に座り直す。彼女は両の目を閉じている。どんな感情でそれを言ったのか、リサには読み取れない。


 しかし、シデルーン総司令の逆隣で、澄河御影と妙見中佐が互いに目配せして、にやりと笑ったのは見えた。


 このふたりはいったい、何を考えているのだろう。いや、「企んでいる」そう表現したほうが的確かもしれない。


「それでは、出撃時刻はいまから四十五分後とします。その時間に、出撃メンバーの四人は、隊舎の出入口に集まっているように、以上」


 安喜少尉がそう言って、ブリーフィングは終了となった。


 四十五分後。いよいよひとつの敵対組織との因縁の対決が行われようとしているのだ。


++++++++++


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