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10.1 妹への思い

 はっと、リサは目を覚ました。


 周りを見回す。ここは、オクツキの神殿の中だ。まだ、ヴェイルーガの手を握ったままだった。だが、見るべきものはこれですべて終わったらしい。


 リサはヴェイルーガが見せようとした過去から復帰した。


「お帰りなさいませ」「お帰りなさい」


 声が掛かり、振り返ると、イツキとミソギが立っている。そこで、リサは自分が座り込んでしまっていることに気がついた。


 長い旅だった……気がする。


 あっという間のことだった……気もする。


 リサはゆっくりと、ヴェイルーガの手から両手を離した。


 ヴェイルーガは本当にあれを見せたかったのだろうか? と思う。


 だが、違うような気もした。ヴェイルーガは切っ掛けにすぎない。


 ここまでで見てきたものは、神代の時代の物語でもあったが、原星辰界の物語でもあった。

 

 エグアリシアに対する贖罪の機会でもあった。


 『時の神』はあの舞台を利用してリサに語りかけても来た。


 神々すら知らない、どこか似た世界に紛れ込むこともあった。


 そして、リサ自身の欺瞞を明らかにし、立ち向かう戦いでもあった。


 ヴェイルーガは、いまのリサに必要なものを――その入口を与えてくれたにすぎない。しかし、それはリサにとって、充分以上のものだった。両手で抱えきれないほどの贈り物だった。


「本当に、お姉ちゃんは、ずっとお姉ちゃんだね。ヴェイルーガ」


 リサは微笑み、眠っているヴェイルーガの額の髪を撫でる。


 本当に、まるで眠っているようにしか見えない。


 リサは振り返り、イツキとミソギに問う。


「ヴェイルーガは生きてはいないの? 彼女は『完全無欠の人間』として、あらゆる攻撃に耐える身体を持っているはずなんだけど……」


 しかし、イツキもミソギも首を横に振る。


 ミソギが言う。


「駄目だったの」


 これだけではわからないので、イツキが説明をする。


「ヴェイルーガ様は、どんな攻撃も受け付けないお身体をお持ちです。それは間違いないのです。こうして、オクツキでの五万年もの間、お身体が朽ちていないのがその証拠」


「じゃあ、生きているの?」


「いいえ。お身体は無敵でした。しかし、お心はそうではなかったのです。夫、フォス・ウィン様を亡くされ、その悲しみのもとに戦い続けました。しかし、お心のほうが先に亡くなられたのです」


 ああ、そうだった。リサは思い出す。ヴェイルーガはエグアリシアと戦い続けた。あの燃えさかる草原でだ。


 あのときのエグアリシアは、正気を失っていた。


 ミオヴォーナは、駆けつけたときにエグアリシアの姿を見た。炎の中で、もう動かなくなっているヴェイルーガに馬乗りになり、何度も何度も終末剣を叩きつけている姿を――。


 そのダメージは身体に入らなかったとしても、心に入り続けたのだろう。黒いディンスロヴァを殺すときでさえ無感情だったエグアリシアから、明確な殺意を浴び続けたのだから。


 あれだけの憎悪と悲しみをまともに受けて、心が無事だったとは到底思えない。


 そうだ。だからあれ以降、ミオヴォーナは単身でエグアリシアと戦うことになったのだ。


 イツキはリサに言う。


「ですが、不思議なことです。お身体はまるで生きて眠っているよう。そして、リサ様、あなたをここに呼び寄せた」


 ヴェイルーガは気づいていた。この衛星の下、惑星アーケモスにリサが存在していることに。


「それだけじゃないんです、イツキさん。ヴェイルーガは何度もわたしに力を貸してくれた。だからわたしは、ここまで無茶ができたんです」


 イツキは微笑む。


「ヴェイルーガ様は、死してなお、不思議な力をお持ちのようだ。そして、言葉が矛盾するかもしれませんが――その想いは健在だった。妹君に対する想いは」


 リサはまた、泣きそうになる。先ほど泣いたばかりだというのに。だが、きっとここは泣く場面ではないのだろう。


 リサはもう一度ヴェイルーガの手を取り、自分の額に擦り寄せる。五万年前に亡くなっているとは思えない、そして、数多の戦いを駆け抜けてきたとは思えない、滑らかな手だった。


 リサはヴェイルーガに感謝する。


「ありがとう。本当にありがとう。お姉ちゃん」


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