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8.1 異界 ①

 カツ、カツ、カツ、カツ――。


 足音のような音が聞こえる。


 いや、これは時が進む音だ。


 カツ、カツ、カツ、カツ――。


 リサは星辰の海の只中で、肩越しに振り返る。


 そこには、仮面を付け、真っ黒のローブを着た男が真っ直ぐに立っていた。身長はリサの五倍はあろうというところだが、見た目など、こちらの世界では関係がない。


 これは終幕後の舞台だ。


「まったく。ここまでひどいのは、後にも先にもこれきりだった」


 ローブの男――超越者はそう語った。


 だが、リサはその言葉を真に受けない。この超越者が、『後にも先にも』などという言葉を軽々しく使うことが腹立たしくさえ感じる。


「あなたがそれを言うの?」


「誓って本当さ」


「あなたのような超越者が、いったい何に対して誓うというの?」


 リサに言われ、超越者は仮面の下で笑う。


「もちろん。僕だって誓うものはある。たとえば、自分自身の存在意義に、とかね」


「あなた、面白いこと言うね」


「だろう? 『死の神』の息子がきみをいたく気に入っていたが。……どうだね、僕と一緒になるというのは」


 リサは顔を顰める。


「それは嫌」


 超越者は笑う。


「まあ、話を戻そう。まずはきみの知らない話から。きみはこの時点で死んでしまったから、エグアリシアのあの後は知らないだろう」


「うん」


「エグアリシアはもはや、手が付けられない状態だった。きみが手負いにはしてくれていたけどね。でもそれでも全然足りない」


「あれは、手負いとは言えない」


「それでもきみを称えるよ。なにせ、彼女はこちらの星辰界の領分を超えていた。僕らの原星辰界に影響を及ぼすのも、時間の問題でしかなかったからね」


「原星辰界?」


「ああ。きみたちの星辰界――『宇宙』と呼んでいるのかな。それをつくったのは、僕ら原星辰界の神々十柱のひと柱だ。彼は『裏切りの神』と呼ばれている」


「……?」


「『予言の神』がその誕生を予言した神だよ。それが『裏切りの神』。彼は予言通りに裏切り、予言通りに『予言の神』と対立した。だが、『予言の神』すら『裏切りの神』を殺しきれなかった」


「それほどまでに強い神だったということ?」


「さあ、僕にはわからないね。『予言の神』と『裏切りの神』との間でなにか密約が結ばれたのかもしれない。結果を見れば、この線がありえそうだけど」


 リサは冷たい視線を投げかける。


「……」


「ああ、気を悪くさせたかな。ともかく、『裏切りの神』は原星辰界と分岐する、こちらの枝星辰界を創造した。そして『我のほかに絶対者なし(ディンスロヴァ)』と名乗った。そこまではまだよかったのだがね」


「よかった?」


「きみも知る、あの黒いディンスロヴァさ。彼が『裏切りの神』を殺した。そしてディンスロヴァに成り代わった。ここから、きみたちの枝星辰界での、神々の代替わりが始まるわけだが……」


「エグアリシアはどうなったの?」


「そう、その話。……エグアリシアは強すぎた。『裏切りの神』など比較にならないほどにね。原星辰界から見ても、彼女は脅威となった」


 リサは目を見開く。


「エグアリシアは、そこまで完璧な神になったの?」


 超越者は自嘲する。


「完璧な神などありはしない。しかし、厄介な神というのはある。エグアリシアに関しては、僕らの原星辰界から六柱を送り込んで、掃討戦を仕掛けた」


「また随分大規模な……」


「そして、三柱を喪失してようやく、彼女の脳を引き出すことに成功した」


 リサは目を背ける。


「……ひどいありさま」


「ああ、だからひどいと言ったろう。……そこで、これをきみに渡しておく。これをどうにかできるのは、きみだけだろうから」


 超越者はリサに匣を渡した。リサはそれを受けとる。


 その匣はちょうど、神界レイエルスで見た、神の脳を収めた小箱によく似ていた。


「これは、エグアリシアの――」


「答えなくてもわかるだろう。きみと彼女の縁なのだから」


 リサはその匣を、愛おしげに抱きしめる。すると、それは匣ごと、リサの胸に吸い込まれていった。


 リサは超越者のほうを見る。


「さっき、六柱で掃討戦をしたと言ったね?」


「ああ、そうとも」


「あなたたち『異界の神々』は十柱。『裏切りの神』が抜けてからは九柱のはず。残りの三柱はどうしたの?」


「……それは君もよく知っているんじゃないのかね?」


「……」


「怒るのはよそう。じゃあ、ここからはきみの知っているほうの話に移ろう」


 超越者はそう言った。相変わらず、仮面の下では笑っているような気がする。



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