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4.1 神代の兵器庫

 次の場面では、リサは丘の上の神殿にいた。


 どうやらここは、フォス・ウィンの神殿のようだ。彼もまた神。自身の神殿を持っているのだ。


 ふと、リサは思い出す。そういえば、自分の時代にはディンスロヴァは部下に神をもたなかった。すべて天使で固めていたわけだ。時代が進むにつれ、多神教的性質から一神教的性質に変わっていったのかもしれない。


 ……いや。リサはもうひとつの可能性にも辿り着く。時代が下るにつれて、ディンスロヴァは自分の権能を特別なものにしたかったのかもしれない。自分以外に神を名乗る存在がいると、自分の身が危ういことだってあるだろう。


 そこまでしても、天使に滅ぼされるディンスロヴァもいたわけだ。それがリサの時代の神の末路だ。


 だが、この時代の黒いディンスロヴァは違う。神の中の神。それでこその最高神だという自負を感じる。



 この場面ではすでに、ヴェイルーガもミオヴォーナも、汚れた麻の服から、神界で織られた美しい絹の服に着替えてある。


 ヴェイルーガのほうはさらに、そのうえに簡易ながらも鎧を与えられている。一方のミオヴォーナは、ロングスカートの女性的な格好だ。


 これは明らかに、ヴェイルーガが戦闘要員であり、ミオヴォーナは姉の士気を揚げるためにただついて来ているだけということを意味している。


 おごそかに、フォス・ウィンは語る。


「ディンスロヴァと戦う前に、伝えておくべきことがある」


 神殿は神を祀るところであり、それゆえにテーブルも椅子もなく、全員が立って話を聞いている。


 勇ましく、ヴェイルーガが答える。


「はい」


「ディンスロヴァを斃した者は、次のディンスロヴァになると言われている」


 これはリサはすでに知っていることだったが、ヴェイルーガやミオヴォーナにとっては初耳だったらしい。相当な衝撃を受けている。


「でしたら、『我のほかに絶対者なし(ディンスロヴァ)』という意味は……?」


「本当にそうであれば、『我のほかに絶対者なし』などと名乗る必要はない。そのような名であることが、一種の皮肉と言える」


 そこで、ミオヴォーナが恐縮しつつ問う。


「あの、フォス・ウィン様は、どうしてそのようなことを……?」


「これ自体、ディンスロヴァから伺ったことだ。あの方もまた、前の神の権能を奪ったとのこと。それ自体は俺が生まれる前のことゆえ、歴史として聞いたにすぎぬ」


 ヴェイルーガが生唾を呑み込む。


「では、この戦い。フォス・ウィン様が勝てば、あなたが次の――」


「ああ。次のディンスロヴァとなるのだろう」


+ +


 姉妹がフォス・ウィンやディオロに案内されたのは、また別の場所だった。ここは純粋に神の系譜を継ぐ者でなければ入れない場所。


 『神代の兵器庫』と呼ばれる場所だ。


 もちろん、彼らの過去を追っているリサも、この兵器庫に入ることができている。彼女は、ヴェイルーガたちが神に対抗する武器を選ぶさまを見ている。


 この兵器庫にあるものは、多くが『破壊剣』だった。おそらくそれが最も使いやすい武器なのだろう。現に、黒いディンスロヴァも、フォス・ウィンも使っているしろものだ。


 フォス・ウィンはヴェイルーガたちに言う。


「この中から、自分に合った武器を探し出すんだ。これらは、ディンスロヴァが数十万年前に『異界』から持ち込んだ武器の数々だと聞いている」


 そう言われて、ヴェイルーガは兵器庫の奥へとどんどん歩いて行く。数多くある『破壊剣』は合わなかったようだ。


 リサは、そばで同じように様子を見ているミオヴォーナに耳打ちする。


「異界ってなに?」


「わからない」


 ミオヴォーナは首を横に振った。それもそうだろう。彼女はついこの間まで、ただの人間としての暮らしを歩んでいただけなのだから。


 だが、ミオヴォーナは声を落として、ひと言だけ追加する。


「――だけど、この時点で、わたしもそこに違和感を覚えるべきだった」



 しばらくのち、ヴェイルーガが選んだ武器は、天剣『ヴィダン』と呼ばれるものだった。これは『破壊剣』よりも扱いが困難だが、うまく扱えば『破壊剣』を上回る威力を引き出しうるという博打性の高い武器だ。


 さらに一同が驚いたのは、ミオヴォーナもまた、武器に導かれたということだ。彼女が手に取ったのは天弓『ヴィ=ロイオ』。護身用にということで、フォス・ウィンも、ディオロも、その武器の持ち出しを許した。


 だが、ここで未来のことを予想できるのはリサだけだ。


 間違いない。ミオヴォーナの主兵装は弓。この武器を手にしたことは、彼女の運命を変える出来事だったのだ。


 もちろん、それで変わったのはミオヴォーナの未来だけではない。世界の未来がこの瞬間に変容したと言っても過言ではない。


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