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4.3 堕天の咎人

 ソイギニィ・ジャコイは下卑た笑みを浮かべている。


「たかだか小娘ひとりが力を取り戻したところで、どうだというのだ。こちらは武器商人だぞ? 相手をお間違えでないかね?」


 そう言って、ソイギニィが指を鳴らすと、彼の背後に飛翔艦が飛んできた。飛翔艦は彗星砲の砲門を向けてくる。


 リサは駆け出す。仲間たちの一番前に踊り出ると、敵の砲撃に合わせて、空冥力の盾を展開した。


 飛翔艦に搭載した、艦砲射撃レベルの攻撃を人間ひとりで受け止める。そして、誰もいない斜め後方へと攻撃をいなす。


 ソイギニィは拍手する。


「さすが、『旧き女神の二重存在』。だが、これが連射式になっているとは知るまいな」


 その発言通りに、二射目、三射目が放たれる。しかし、リサの空冥力の盾は壊れない。『神護の盾』。それがリサの第三の固有能力だ。


 次にリサは、光の槍から光の棘を撃ち出し、ソイギニィの背後の飛翔艦を撃ち貫く。これが、リサの第一の固有能力、『遠見』だ。


「ならば!」


 ソイギニィがそう叫ぶと、天井が崩れ、回転する空冥力の刃がついた大型機械が降ってくる。しかし、その数秒前に、リサは両手を大きく広げて、仲間たち三人全員に体当たりし、上からの攻撃を回避する。


 これがリサ第二の固有能力、『未来視』だ。


 そして、振り返りざまに跳び、自ら回転しながら槍を振り回し、大型機械の回転刃を斬って捨てる。続けて本体を貫き、動力源を吹き飛ばす。


 大型機械は停止し、ソイギニィの顔はいよいよ青ざめる。


「……それで終わり?」


 リサはそう訊いたが、返答はなかった。図星なのだろう。それから、返答の代わりに、別の言葉がソイギニィの口をついて出てきた。言い訳だ。


「お、俺は『哲人委員会』の中でも七人のうちのひとりに過ぎんのだぞ。俺を殺しても、『委員会』がヴェーラ惑星世界を支配している事実も、『委員会』だけが天使さまの声を聞ける事実も、なにも変わらんぞ!」


 癪だが、ソイギニィの言っていることは本当なのだろうと、リサは思った。ソイギニィの言っていることも一理ある。ならば、殺さずに、口を割らせる必要がある。『哲人委員会』なるものの根幹に辿り着く必要がある。



 リサは構えていた光の槍を下ろし、ラミザを振り返る。もちろん、ソイギニィのことは警戒したままだ。


「ラミザ、あのさ――」


「いいのよ、リサ。いいの」


 ラミザはそう言って、リサの肩を叩いて、ソイギニィの方へと歩いて行く。


「え?」


「『哲人委員会』構成員七名の居所はすべて掴んである。あとは、ひとりずつ殺していくだけなのよ」


 通り道にあって邪魔だったのか、ラミザは黒い大剣で先ほど襲いかかってきた大型機械の残骸を吹き飛ばす。その余波で柱が何本かへし折れる。


 ソイギニィ・ジャコイは恐怖した。だが、なすすべはもうない。


 黒い大剣を引きずりながら、ラミザはどんどんソイギニィに近づいていき、ついに、空いているほうの手で、彼の胸ぐらを掴むに至った。


 ソイギニィは恐怖に悲鳴を上げる。


 ラミザは落ち着いた声で、いつもよりも低い声で、ゆっくりと話す。


「わたしたちには信仰があるの。天使信仰に篤いお前たちなら、わかるでしょう? リサは、わたしたちにとって信仰なの。大切な人なの。そして神なのよ。それを、『哲人委員会』はどうした?」


 ソイギニィは首を横に振る。


「こ、ここ、殺してない。だ、だから生きてるじゃないか!」


 しかし無表情で、ラミザは首をかしげる。


「わたしたちの大切なリサを穢した気分はどう?」


 ソイギニィはなおも首を横に振る。


「そ、それは俺だけじゃない!」


 ラミザにとって、回答はそれで充分だった。充分すぎたのだ。


 リサを辱めた実行犯の中に、このソイギニィがいたことが明らかになった。それ以上に、知る必要のあることなどない。


 ラミザの大剣が、黒く、しかし輝き始める。原初宇宙ではきっとこういうものもあったのだろうと思わせる、闇そのものの輝きだった。


 そして、ラミザの背に四枚の黒い翼が顕現する。


 ソイギニィが驚愕と共に叫ぶ。


「そ、それは天――」


「そうよ、天使。もっとも、新しいディンスロヴァからは魔族と呼ばれている、旧き神に仕えた天使だけれど」


 ラミザは黒い大剣を振りかぶり、そして、振り抜いた。


 その瞬間、ソイギニィは肉片すら残さず、液体と化し、それすら蒸発し、この世から消え去った。


 ラミザは目を瞑り、祈るように言う。


「……わが神の忠実なるしもべとして、尽きることのない魂の苦痛を、神敵へ」



 ラミザが大剣を振るった先には、艦砲で攻撃したような跡があった。透明壁の破壊の跡と、向こうのビルまでもが抉られた跡だ。


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