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26.幸せの笑顔【終】




「失礼致します」



 ハイドが魔導士団団長室に入ると、団長のエルムはソファでのんびり寛いでいた。



「……団長、仕事はどうしたんですか……」

「んー? たった今休憩に入ったとこなの。ホントだよ? そんな疑いの眼差しを向けないでよー。――って君さ、さっきまでオリービアさんと会ってた? 顔の緩みがヒドいよ」

「あ、分かりますか。相変わらず可愛くて聡明で知的で、俺の中で愛しさがまた更に増しました。会う度増していくのですが、上限は恐らく無いかと。あの可愛さは犯罪級ですね」



 真剣な顔でそうのたまうハイドに、エルムは呆れ返った表情を返す。



「……君、そんな惚気をしまくる性格だったっけ? オリービアさんを振り向かせようと頑張ってるけどさ、彼女、なかなか手強いよ? 『諦めも肝心』って言葉がある事も忘れないでね」

「絶対に諦めませんよ、俺は。それに、婚姻最後の日にキスもさせて貰いましたし。それで俺は一生頑張れますよ」



 口元を緩めて頷くハイドに、エルムはとても嫌な胸騒ぎを感じた。



(腕を組むのや抱きしめるのが恋人同士でやる事だって知らなかった彼だよ? そんな初心者限界突破の彼が“キス”?)



「……ハイドさんや。誰かに恋愛指南をして貰ったかい?」

「はい、一番詳しそうだったので、団員のテオに。親切丁寧に教えてくれましたよ。何故かすごく楽しそうだったな」

「…………あー…………」



 嫌な予感が当たり、エルムは額に手を当て天を仰いだ。

 テオは、団員一の好色男なのだ。



「……君、さ。まさか、キスの時、舌入れたりとか……してないよね? ね?」

「え? しましたよ? テオが、夫婦ではそれは至極当たり前にするって。しかもそれをすると、更に仲良くなれるから積極的にした方がいいって。だから積極的にしました」

「…………彼女、嫌がらなかった?」

「少しだけ抵抗されましたけど、本気では嫌がっていませんでした。テオが『女性の「イヤよ」は「いいよ」って事だから、気にせず続けろ。本気で嫌がった場合はすぐに止めろ』って。だから続けました。可愛くて止まりませんでしたし」

「…………あぁー…………」



 エルムは今度は下向き、深い息を吐き出した。



「団長? どうかされましたか?」

「……ハイド坊っちゃんや、よくお聞き? 舌を入れる行為は、両想いの相手にしかやっちゃいけないよ? 自分を何とも思っていない相手にソレすると、怒るか泣くかひいちゃうよ?」

「えっ……」



 ハイドの顔から、面白いくらいにサーッと血の気が引いていく。

 思い当たる節があったようだ。



「ほ、本気で怒ってなかったから、良かったんだって、俺、思って……っ。ど……ど、ど、どうしよう、俺……っ」

「まぁ、今も普通に会話してるんなら大丈夫じゃない? 懐の深いオリービアさんに感謝しなよー」

「………今度会ったら土下座してきます……」

「そうしなー。指南を頼んだ相手がテオなのが間違いだったねぇ。今度から私に訊いてよ。自分で言うのも何だけど、愛妻家だからね、私は。妻を振り向かせようと頑張った経験もあるし、アドバイスくらいは出来るよ?」

「……是非ともよろしくお願いします……」



 すっかりドヨンと沈み込んでしまったハイドに、エルムは苦笑する。



(他にヘンなコト吹き込まれてないよねぇ? テオの事だからかなり怪しいな……。彼、独特な女性の口説き方するから……。一つ一つ聞き出して訂正していかなきゃダメかぁ。またヘンなコトやらかしてオリービアさんに嫌われちゃったら可哀相だもんね。――ふふっ、でも――)



「団員達とそんな個人的な話まで出来るようになって、ホント何よりだよ。今の君、三年前に比べて全然いいよ、うん。その頃の君は、誰彼構わず、自分の機嫌の悪さを他の団員に八つ当たりしていたからね。君の遠征の希望を叶え続けていたのは、君の気持ちを汲んだのと、他の団員達から、『今の副団長と一緒に仕事したくない』と泣き付かれていたからだよ。君は気付いていなかっただろうけど、そこまで酷かったんだよ。いつも顔を顰めて怖い顔で、常に近寄り難い雰囲気を出していたからね」

「……そう……だったんですね……。俺、後で団員達に謝ってきます。嫌な思いさせて悪かったって――」

「うん、そうしなー? 全員にパーッと盛大に酒でも奢れば、皆許してくれるさ」

「はい……」



 エルムの言葉に、ハイドは唇を噛み締め、両目を固く瞑った。



「その頃の君は……今だから言えるけど、君の従姉に“洗脳”されてたよ。心が弱っている者に、優しく甘い言葉を掛け続け、『自分だけが味方だ』『他は信じるな、自分だけを信じろ』と毎日何度も囁く。そうだっただろう?」

「…………は、い。その通りです……」

「結果、心が弱っている者は、自分に優しくしてくれた相手を傾倒し、自分にはこの人しかいないと強く思い込む。相手の言う事だけを信じ、他者の言う事は戯れ言に感じ一切聞かなくなる。そして、相手の願いや頼みを必ず実行する、立派な“洗脳人間”の誕生だ。『洗脳魔法』を掛けられたわけじゃなく、暗示を積み重ねての“洗脳”だから、魔法で解除も出来ないし、自分が“洗脳”されたという自覚が無いのもかなりタチが悪い。すぐに苛立ち、怒りが抑えられない症状も“洗脳”された人間の特徴だ。身に覚えがありまくりだろう?」

「……は……い……」

「その『洗脳方法』の場合、自分自身でそれを打ち破るしか解除方法が無いんだ。私が気付いた時には、既に君は“洗脳”が完了している状態だった。もう手遅れで、どうする事も出来なかった。君に正直に告げても、『従姉を悪く言うな!』って酷く怒るだけだからね。どうしようかと考えあぐねていた時に、オリービアさんが【王命】でハイドと結婚するって聞いたのさ」

「……あ……」

「オリービアさんが君の屋敷に来てから、君に変化が起きた。君、彼女に強い関心を持っただろう? “洗脳”が崩れ始めたんだ。君はそんな自覚は無かっただろうけど。オリービアさんも、君が“洗脳”されているとは気付かなかったようだね」

「…………」



(ユーカリさんの願いを何でも聞いてあげたいという気持ちや、彼女を強く信じる気持ちは、俺を救ってくれた感謝の気持ちから来ているものだと……ずっと思ってた……。――あぁ、そうだ……オリービアに興味を持ち始めてから、その気持ちが少しずつ薄れていった気がする――)



「そして、オリービアさんが『特別顧問』である事が分かった時、君の“洗脳”は殆ど解けた。常に頭に靄が掛かっていた感じが、何かスッキリした気持ちになっただろう? それが解除の証拠だよ」

「……確かに、そうなりました……」

「私が敢えて君を責める言葉を出したのは、“洗脳”が解けたか確認する為だよ。まだだったら、君は怒り出していただろうからね。――君は従姉に『自分を立ち直らせてくれた』と感謝しているようだけど、君を“洗脳”して、君と周りに多大な迷惑を掛けまくってさ。――あ、迷惑なんてもんじゃないね。大禍災だ。それでも君は彼女に『感謝してる』と言えるのかな?」



 ハイドの顔つきが苦虫を噛み潰したようなそれに変わり、目を伏せると首を横に振った。



「……けど、俺の心の弱さが原因である事も確かです。オリービアが来なければ、いずれは従姉の散財でランジニカ伯爵家の資産が無くなり、増税続きで領民に飢餓が起き、暴徒が増え、争いが起き、ランジニカ伯爵領は無くなっていたでしょう……。良くて俺は爵位を剥奪され、屋敷から追い出され、別の者が伯爵領を統治していたでしょう。俺の心が弱かったばかりに、従姉にまんまと付け込まれてしまった……。それを救ってくれたオリービアには、心からの感謝しかありません」

「うん、そうだね。君が“本当の意味で”立ち直ってくれて良かったよ。君の真摯な謝罪で、前いた使用人達も全員伯爵邸に戻って来てくれたんだろう?」

「はい。彼らには酷い事をしたのに、渡せなかった退職金と、減給してしまった分の差額金を持って謝りに行った時、誰もが俺を気遣ってくれました。『坊っちゃんが正気に戻ってくれて良かった』って……。本当に彼らには頭が下がる思いで……。あの時何も考えず、従姉の言うがまま減給した俺を殴り殺したい気持ちで一杯でした」



 拳を握り締め、奥歯を噛み締め、自己嫌悪に震えているハイドに、エルムは小さく笑った。



「まぁ、君は“洗脳”状態で従姉の言う事には逆らえなかったからねぇ。そう自分を責めるもんじゃないよ。けど、その気持ちが持てれば、君はこれからは間違えないと思うよ。月並みだけど頑張ってね」

「はい……!」



 力強く頷いたハイドに、エルムもニコリと笑い頷き返す。



(伯爵領の方は大丈夫だけど、恋愛に関しては前途多難そうだねぇ。初心者頂点のハイドだし、相手はあのオリービアさんだし。彼女の子爵を継ぐ夢も、大きな壁として立ちはだかるだろうしね。彼女を好きな男性は多そうだから、ライバルも出来たりして? 彼女の夢が勝つか、ハイドの愛が勝つか、はたまた他の誰かの愛に負けてしまうか……。温かく、面白楽しく見守らせて貰うよ、ふふっ)





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 自分は恋愛とは無縁だとずっと思っていたオリービアだったが、何と彼女に好きな人が出来て。

 その人は最初から彼女を愛してくれていて、両想いになった二人は、一年後に結婚をした。

 更にその数年後、二人の間に、玉のような可愛い子供が産まれる。難産の末の出産だった。



 人前では決して泣かなかった彼が、その時は人目憚らず嬉し涙を流した。

 男泣きを見せる彼に、ベッドで横になっているオリービアは微笑みながら彼を慰めて。



「わたくしを沢山愛してくれてありがとう。わたくしも貴方を心から愛しているわ」

「……オリービア……」



 感極まり、唇を噛み締め更に泣いてしまった彼に、オリービアはその頭を優しく撫で。


 二人、幸せそうに笑い合って。




 その幸せ一杯の笑顔は、お互い強く想い合う気持ちがある限り、いつまでも永遠に続くことだろう――









Fin.







最後までお付き合い頂きました皆様に、多大な感謝を込めて。


ブックマーク・いいね・評価をして下さった皆様に、壮大な愛と謝意を込めて。

誤字脱字報告、本当にありがとうございましたm(_ _)m



よろしければ、帰り際に下の☆マークをポチポチして評価をお願い致します。励みにさせて頂きます。


拙作をお読み下さり、本当にありがとうございましたm(_ _)m



※11月4日追加


他投稿サイト様で、最後、オリービアの『お相手』について気になっている方が何人かいらっしゃいましたので、こちらにも掲載致します。



『人前では決して泣かなかった彼』↓


・オリービアに「人前では絶対に泣かない」と誓った伯爵(その後、宣言通り人前では決して泣いていません)


・「人前では絶対に泣きたくない」と言ったローレル(実際、人前では泣いていない)


・まさかのここでパッと出の人前では泣かなかった新ヒーロー!?



誰と結婚したのかは……皆様が一番に思い描いた『彼』ですよ(^^)



ちなみにハイド伯爵、読者様から


『DTC2自己中スケベ阿呆お子ちゃまへっぽこ甘ちゃん妖精さんメンヘラヒーローなクソヤローボンクラボンボン甘えん坊坊やコアラ旦那』


……という、まさに伯爵を正確に表現している愛ある肩書きを戴きました(笑)

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