6 呪い
「ヴィア!」
フィオナは慌ててヴィアの元へ駆け寄る。その頃にはヴィアは自分の肩に刺さった矢を自力で抜いて、肩から血を流している所だった。
「ヴィア、傷を見せなさい。治癒魔法を施します」
リリアも駆けつけ、ヴィアに治癒魔法をかけた。ヴィアの傷口はみるみると塞ぎ、あっという間に治っていった。だが、リリアは浮かない顔をしている。
「傷は治ったけれど……ヴィア、どこかおかしなところは?」
「特に何も、……っ!」
そう言って急に胸を押さえ苦しそうにしている。だが、すぐに落ち着きを取り戻し、いつもの真顔に戻った。静かに、フーッと深呼吸をしている。
「やっぱりおかしいのね」
「リリア様、どう言うことですか?ヴィアは大丈夫なのですか?」
心配そうに尋ねるフィオナに、リリアは複雑な表情で答えた。
「大丈夫よ。おそらく、今はまだ」
今はまだ、とはどう言うことだろうか。リリアの言葉に、フィオナは一抹の不安を覚える。
「デミル殿下、リリア妃殿下、一度安全な場所へお下がりください。不審者は全て確保し拘束しましたが、また何が起こるかわかりません。……ヴィア、大丈夫か」
不審者を片付けた騎士団長がやってきてデミルたちに声をかける。ヴィアの様子を見て眉を顰めるが、ヴィアは静かに頷いた。
◇
リリア襲撃事件が収束し、侵入者への尋問が行われた。それにより、ヴィアが受けた矢に大きな問題があることが発覚する。
「呪いの矢、ですか」
「そうだ。侵入者の話だと、あの矢には特殊な呪いがかけられていて、矢を受けた人間は愛する人間と心から愛し合うことができなければ次第に毒が体内を巡っていくらしい。じわじわと毒に侵され、最終的には死を迎えると」
デミルの説明に、その場の全員が息を呑む。驚きのあまり、フィオナは両目を見開いてヴィアを見つめた。
「侵入者を雇った人間は、デミル殿下を狂信的に思っている伯爵令嬢だそうです。リリア様との結婚を認めたくないあまり、呪いの矢をリリア様に向けた、デミル殿下に愛されることがなければリリア様が死ぬ、それを狙ってのことらしい」
騎士団長の説明に一同は驚く。古くからの習わしで国の決めた結婚だからデミルがリリアを心から愛することはないだろうとたかを括ったらしい。じわじわと毒に侵され死んでいくリリアの姿を楽しみにしていたと言う。なんとも恐ろしい思考の持ち主がいるものだと、その場の全員が顔を顰めた。
「ヴィア、私のせいでこんなことに……本当にごめんなさい」
「いえ、リリア様が謝ることではありません」
「幸いなことに、ヴィアには愛する人間がいません。そもそも愛する人間がいない者がこの矢を受けても、毒は体内に巡らず排出されていくそうでです。ヴィアは女性が苦手でお付き合いしている女性もいない。ヴィアならおそらく大丈夫でしょう」
騎士団長の説明にヴィアは真顔で頷く。それを見てフィオナやデミルはホッとするが、リリアだけは複雑な表情をしてヴィアを見つめた。