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4 結婚披露パーティー

 聖女リリアと第一王子デミルの結婚披露パーティーが行われる日がやってきた。


(うう、人が、男性が多い……)


 聖女の教育係としてほとんどを聖女の部屋か王城内にある図書館、庭先などで過ごしているフィオナは普段あまり人が大勢いる場所に出向くことがない。そもそも婚約破棄されてからは、こうしてたくさんの貴族が集まる舞踏会やパーティーなどにはほとんど顔を出すこともなかった。


(華やかな席は苦手だわ)


 ふう、と息を吐いて心を落ち着かせる。たくさんの人がリリアの結婚を祝うために集まったことは純粋に嬉しいが、あまりにも煌びやかな世界で頭がクラクラしてしまう。だが、クラクラしている場合ではない。今夜ここでリリアが狙われるかもしれないのだ。


(気を引き締めなくっちゃ)


 そう思ってあたりを見渡すと、近くに人だかりができている。何だろうと見ていると、そこにはたくさんの令嬢に囲まれたヴィアがいた。いつもより上質の騎士服に身を纏い、いつも以上にキラキラとしたオーラを纏ったヴィアに、いつもは遠くから眺めているだけのご令嬢たちも我先にとヴィアのお近づきになろうとしている。

 女性に囲まれたヴィアはいつも以上に真顔で、何なら少し顔が引き攣っている。


(普段は気にしていなかったけれど、ヴィアは確かにモテて当然だものね。でもすごく嫌そうだな)


 女性が苦手と言っていたヴィアだ、心底つらい状況だろう。なんとかしてあげたい所だが、自分にはどうすることもできない。苦笑しながらその光景を眺めていると、ふと目の前に人影ができる。


「ご機嫌よう。あなたは、確か聖女様の教育係でしたね」


 目の前にはどこかのご令息だろう男性が片手にグラスを持って微笑んでいる。無下にすることもできず、フィオナはとりあえず作り笑いを浮かべ会釈をした。目の前の男性は自己紹介をしながらリリアとデミルの結婚について祝福を述べている。


(このくらいの距離ならまだ何とか大丈夫だけれど、これ以上近寄られると危ないわ。どうか早くいなくなってほしい)


 適当に相槌を打ちながらそう思っていると、ふとその男がフィオナに近寄り、背中に手を回した。そしてゆっくりと顔を近づけてくる。


「この後、二人で少し抜けませんか?あなたの聡明さは噂で伺っています。ぜひ美しいあなたと二人きりで話がしてみたい」


 フィオナにとっては恐ろしいほどの距離感だ。そしてそっと告げられた言葉にフィオナは身の毛がよだつ。逃げたいのに、血の気が引いて動けない。微動だにしないフィオナの反応を勝手に合意と判断したのか、男は静かに微笑むと、背中に回した手が静かに降りてフィオナの腰にかかる。そして、腰を静かになで始めた。


(き、気持ち悪い……!)


 ゾワゾワとした感触がフィオナを襲う。吐きそうなほど気持ちが悪い。今にも倒れてしまうのではないかと思ったその時、男の手がフィオナの腰から離れた。


「い、痛い!何をする!」

「あなたこそ一体何をしている」


 驚いてフィオナが後ろを向くと、そこには慌てながらも憤った顔をしたヴィアが男の手を掴み捻っていた。


「そ、その顔は確か、聖女様の護衛騎士……!」


 男がヴィアの顔を見て悲鳴に近い声をあげる。


「俺の大事な仕事仲間に不必要に近づいて触るな」


 ヴィアがそう言って男の手を離すと、男はそそくさとその場から離れていった。


「フィオナ、大丈夫か」

「ヴィア……」


 心臓がバクバクとうるさく鳴っている。呼吸も荒く、フィオナの顔面は蒼白だ。ヴィアは心配そうにフィオナの肩に手を回そうとしたが、その手は止まり、すぐに手を下ろした。


「フィオナ、いったんバルコニーに出て外の空気を吸おう。バルコニーなら人もほとんどいない」

「でも、リリア様が……」

「リリア様が会場に姿を見せるにはまだ時間がある。今は安全な場所で待機してらっしゃるから大丈夫だ」


 ヴィアの言葉にフィオナが静かに頷くと、ヴィアはフィオナに触れない用にしながらバルコニーまで誘導する。


(私はこんな大切な席でヴィアに迷惑をかけてしまっている……)


 申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらヴィアの背中についていくと、ヴィアが振り返ってフィオナを見る。いつものように真顔なのに、その瞳には心配の色が溢れていて、フィオナは胸がキュッとなった。


(また、まただわ。この気持ちは一体……)




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