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十九話 情報屋

放課後、問題の男を捜すことにした。

同じクラスメイトであるため普通の学生であれば何度も顔を見る事が出来るのだがアイツはそうもいかない。

授業が行われている時は絶対に教室にいないのだ。

どこへ行っているかは知らない。

もしかしたら学園自体にいないのではないかと思われるが私はそれを否定する。

以前に一度だけだが授業をサボった事がある。

その時私は屋上にいたのだが、アイツも屋上にいた。

特別何かをしている訳でもなく、ただ空を見上げていた。

私が声を掛けるまで空を見上げていた彼はどこか、別の世界を観ているんじゃないかとも思えたぐらいにアホらしかった。

多分、また屋上にいる。

いなくても、すぐに捕まると思う。

屋上に向かう足取りは重い。

よくよく考えてみればアイツに用があって話掛けるのは随分久しぶりではないだろうか?

幼い頃はよく遊んでいたものだ。

男女の見境がないあの頃が懐かしい。

だけど私が今の教育方針を受けるようになってからは私から声を掛けることはなくなった。

しっかりと男女の境界線を引き、それに見合った行動を余儀なくされてから。

屋上は本来、出入りが禁止されている。

だが屋上に通ずる扉に鍵がかかっている訳ではない。

実質、出入りは自由みたいなもの。


「どうした? アーミー?」


屋上の扉を開き屋外に出ると同時に声が掛かる。

あらかた私がここに来るのを予想していたかの様な口ぶり。


「アンタに用があるの」

「ほぅ、珍しい。君から接触を試みるなんて実に久しぶりだ」

「まぁ私にも色々とあるの。それで・・・・・アンタが私を助けたって?」


少しどもった。

変な話であるが、コイツに少し緊張している。


「・・・・・・? あぁ、あの気の事か? んーなんて言ったらいいのかな。助けた―――とはちょっと違うかな」

「どういうこと?」

「君の父君がとある変な男から電話で『屋上に行くといい』って言われたらしくてねぇ。ちょうど僕もそこにいたんだ。一緒に仕事をしてたって事よ。で、父君がすっ飛んで行くもんだから僕も付いていったワケよ」

「お父さんもそんな事言ってたなぁ。『若い男の声で随分と単調な声だった』って」

「それで君が屋上で君が倒れてたってワケ。あの雨の中で。フェンスを越えた先にね」

「フェンスの先―――? 危なっかしいわね?」

「僕は君に聞かないといけないことがある」

「なによ?」

「お前、死のうとしてたろ?」

「は!?」


この男、とうとう頭がイレれたのか。

私を自殺願望者みたいに扱おうとしている。


「バカなの? 私が自殺? バカらしい」

「じゃあ何故、フェンスの越えた先にいた? どう考えてもおかしいだろ?」

「知らないわよ!! 記憶が無いんだから!!」

「記憶が無いんじゃない。少し、忘れてるだけだ。医者も言ってたしな。時機に思い出すらしいぜ? 後、何か当時の物があれば、それがきっかけで思い出す例もあるらしい」

「なんなのよ、アンタ・・・・・・」

「俺か? 情報屋さ」


たまに、コイツは人格が変わる人なんじゃないかって思う時がある。

今がまさにその状況。

一人称を変える時がある。

その時のコイツは怖い。

私の知っている人、まるでお父さんみたいな恐怖感がある。


「知ったかぶりを・・・・・・」

「別にそれでもいいさ。だが俺はお前の考えている事が判る」

「チッ」

「そういえば、お前は自分が不味い立場になると舌打ちをするよな。いい加減その癖を治しな。俺の前ならいいけどよ」

「―――まぁいいわ。それで、その情報屋さんはお父さんに電話を掛けてきた男の事を知ってるの?」

「ここから先は有料だぜ? なんせ警察にも売らなかった情報だからな」

「警察、来たの?」

「そりゃな。だってよ、考えてみ? 変な男からの電話で屋上に行くとお前さんが倒れてたってぇのに警察呼ばない訳にはいかんだろ普通」

「いくらよ?」

「ん?」

「その男の情報を寄越しなさい。買うわ、情報」

「高いぜ? 世界を変えちまう様な情報だぜ?」

「いくらって聞いてるの」


顎に右人差し指を当てて考えている。

まぁもっとも、コイツが物事を考えている時こんな仕草はとらない。

少なくとも、私の知っているコイツであるならば。


「まっタダより高い買い物は無いか」


ほら、考えなんていらない。

本当にコイツが何かを考えるのであれば目の前から姿を消すだろう。

何もかもを知ってるからこその情報屋。

以前にも、こう言った形の経験がある。

その時もこの男は私に向かって〝情報屋〟と言った。

その時、私はわざと彼に考えさせる事を言った。

その結果、目の前から消えた。

知らない事があれば調べるから。


「・・・・・・なぁ」

「なに?」

「平行世界って知ってるか?」

「例えば、セーブデータって感じ? ゲームの」

「そうだな。〝ぼうけんのしょ〟がある。そのぼうけんのしょが三つあったとして、それぞれの同じ主人公がいる。その主人公達は同じ世界を旅していたとしても、どこかで違いが起きてくるんだ。例えば性別。男女が別れただけでそれは既に平行世界なんだ。他にも仲間が居るか居ないかでも同じ世界の同じ主人公であっても世界の行き先が変わってくる。それが平行世界」

「それで、その男が平行世界とどう関係してるのよ?」

「信じたくない話だが、その男、お前の〝もしも〟なんだ。いや信じたくないならどうでもいいが、信じまったから、きっと俺はコレを情報として扱ってるんだろうな」

「直接、その男に会ったって事?」



あの時、俺は副社長―――常盤剛(ときわつよし)と一緒に仕事をしていた。

その常盤剛って言うのは、常盤朝美の父親だ。

朝山誠一郎(あさやませいいちろう)が指揮するIT関連会社朝山グループの側近である。

なせそこに俺が居るか。

まぁ要するにバイトだ。

俺は元々ハッカーだった。

いつからか覚えていないが色々なインターネットサイトをハッキングして行くのが趣味になっていた。

ここだけの話だが、ペンタゴンにハッキングを仕掛けたこともある。

もちろん、厳重なセキュリティに加え、ハックしかけたことで俺の人生がパーになっては不味いと知って手を引いたが・・・・・・。

その中でIT業界で高い実績を持っていた朝山に手を掛けてみた。

しかしこれが俺の人生を変えた。

あまりにも簡単なセキュリティしか設けておらず、簡単にハック出来てしまう様な状況に腹が立った俺が余計な助言をしたのが始まり。

まぁ過去の話はどうでもいい。

その常盤剛と仕事をしていた上で電話が鳴ったのだ。


『屋上に行くといい』


それだけの内容で切れてしまった電話。

何か、嫌な予感でもしたのか仕事をほったらかしにして屋上に向かう副社長。

俺もその後に付いて行くと、そこには常盤朝美がいた。

雨が降りしきる中、転落防止用の高いフェンスを越えた先に居る横たわる少女。

救急隊が駆けつけ少女を救出し、そして少女は病院に搬送される。

その後、俺はあの男に出会った。

副社長は気を失っている少女と共に病院に向かい、俺は副社長が残した仕事をやり遂げようとして副社長室に戻ったときの事だった。


「すまないな。色々と」

「誰だお前!? ここで何を!?」

「まぁ落ち着け」

「なんで服が濡れてる・・・・・・? まさか」

「まぁそういう事だ」

「朝美に何をした!?」

「落ち着けと。随分こっちの正志は気性が激しいな」

「なんで俺の名前を・・・・・」

「話せば長くなる。が、お前はこう言うの好きだろ」


何故か、男には感情と言うものが感じられなかった。

とても単調な口調。

言葉を聴いていて表現が無いと思わせる口ぶりだった。


「まず、俺が誰なのか。それはハッキリしておいた方がいいだろう。俺の名は―――」


トキワアサミだ。

彼はそう名乗った。





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