一話 謎の少女
耳障りな音が聞こえる。
目覚まし時計の機械音だ。
なぜ、聞こえるのかが謎だ。
単純に現状を把握しようと試みて目覚まし時計に手を伸ばした。
朝7時。
どうやら俺がいつも学園に向かうために起きる時間の様だ。
そしてここは自分が生活している家の自室らしい。
見慣れた天井が全てを物語っている。
「はて、変だな」
常盤朝美はそう思った。
なぜなら俺は死んだはずだから。
昨日か定かではないが、記憶にしっかりとビルの屋上から飛び降りたのを覚えている。
日付を確認してみた。
しかしカレンダーは部屋に飾っていないので携帯電話で確認をする。
1月22日だ。
そして昨日は1月21日。
記憶がしっかりと機能しているのであれば俺は昨日自殺したはずだ。
夢だったのかも知れない。
そう解釈するしかない現状に困惑しながらも見慣れた天井から視界を外すためにベッドから起き上がった。
「夢だったらよかったよね」
「ん」
今俺ではない誰かがそう言った。
誰かが部屋にいる。
室内を見渡す。
すると、ベッドの横に見知らぬ少女が床で横になっていた。
「誰だ」
「んー難しい質問だね、常盤朝美クン」
「なぜ名前を。つか誰だ」
「かわいい名前だよね。オトコノコなのに」
「誰だと聞いている。質問に答えろ」
眉間にしわを寄せながらその少女を見つめていると少女はむっくりと起き上がり背伸びをした。
「まぁ落ち着いてよ変な人じゃないからさ」
「十分変だろ。こんな寒い季節にワンピース一枚で寝てるアホがいるか・・・・・・じゃなくて俺の部屋に知らない女が寝てたら変だろ」
「フフ、健全な男子だったら喜ぶべき状況だと思わない?」
そう言って少女はワンピースの片紐に手をかけてセクシーポーズをとった。
それを見て呆れた俺はベッドから這い出て部屋のカーテンと窓を開けた。
残念な事に日差しは明るくなく、灰色の空から雪が降っていた。
「昨日から降っているのか」
「そうだよ。それよりも私のこのポーズに興味はないの?」
独り言のつもりだったのに少女は返事をしてくれる。
興味はないと返し、机の上に置いてあるタバコを手に取り、そのうちの一本に口に加えた。
「学生の身分でタバコを吸い、あげくの果てには部屋に転がるアルコール缶の山々。そして感情表現が少ない君。まさに常盤朝美だぁ。せめてぇ言葉の最後に〝?〟マークか〝!〟マークつけてみたらもっといい会話が出来るかもよ?」
文章じゃあるまいし、と呟き紫煙を肺に入れては外に出す。
この作業が3分ほど続いたが少女は黙っていた。
「さて、質問に戻ろう。誰だ」
「神」
「帰れ」
「ままま、そう怖い顔しないでよ。神って言うのは嘘だけど、君の味方だよ」
「なんだ、したら俺は勇者とか言い出すんじゃないだろうな」
「そうよくわかったねー!! 私は勇者の仲間なんだよ。一緒に戦う、な・か・ま☆」
この少女は俺を馬鹿にしているに違いない。
そうでなきゃ初対面でこんなふざけた態度を取りヤツはいない。
「アホらしい」
俺は目覚まし時計の時間を確認して、登校までにまだ時間があるのを確認して少女に聞く。
「お前は・・・・・・誰だ」
「私は常盤朝美。君が自殺してくれたおかげで現れた、もう一つの世界からやってきた君だよ」
もう一度、アホらしいと台詞を吐いた。
俺は、生きていた。