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十五話 あの頃

「いいか朝美。この世は結果したいで物事が判断されるんだ」

「なにそれ?」

「良い例として、お父さんは友達と一緒に今の会社を建てた。そしてその会社が成功したんだ。失敗していれば今の生活はないだろう?」

「確かに」


いつか、親父がそう語りかけてきた。

その頃の俺は桜蓮に入学したばかりの時だった。

将来の事もあまり考えておらず、毎日を遊んで暮らしていた覚えがある。


「じゃあさ、良い結果を出せなければ頑張っても意味が無いってこと?」

「そうは言わないがお父さんの言いたい事は伝わったみたいだな。どんなに頑張っても世の中は結果が悪いと文句を言われ、結果が良いとチヤホヤされる」


これを俺の生活面で考えてみる。

テストだ。

どんなに勉強をしても出来が悪いと叱られる。

逆にまったく勉強をしなくても出来が良ければ叱られない。

受験の時を思い出す。

俺は正直受験勉強に力を入れた覚えはない。

桜蓮の偏差値は割と高めだったと思う。

だけど俺はあっさりと合格をしてしまった。

知っている限りだが、桜蓮を受験する人は皆、勉強をがんばっていたと言うのに。


「じゃあ問題にないな!! 俺は勉強をまったくしてなかったけど受験に成功したからな!!」

「自慢にならないな!! ハハハハ!!」

「ハハハハハハハ!!」

「あんた達、晩御飯抜き・・・・・・。バカ」

「「すいませんでした!!」」


―――笑ってやがる。



「アーサっ」

「げっ!? またお前と一緒か」

「腐れ縁ってヤツなんだろうなぁきっと」


桜蓮に受験した人は多いと聞く。

偏差値も高ければ倍率も高い。

名門とは違うが、少なくとも人気があったのは事実だ。

創立してまだ日が浅く、これと言った特色が無いにも関わらず注目を集めていた。

俺が桜蓮に入学しようと思ったきっかけは単純で家からの距離が近いからだ。

そんな単純な理由で挑んだ受験は、何人か見知った人物と一緒だった。


「アーサーはどれぐらい勉強やったん?」

「つい先日も聞かれた様な気がするが?」

「え、いつだ?」

「この前一緒に映画観に行っただろうに・・・・・・」


その中での立花正志(たちばなまさし)は幼馴染。

いや、腐れ縁の知り合い以上友達未満と言っておこう。

昔から何かと俺の周りに近づいてはベラベラと喋る厄介なヤツだ。



「なぁ、知ってるか?」

「はい、いいえ。どっちかの選択肢しかないのか?」

「んなRPG展開はいいよ。いい情報を持ってきた」


これだ。

新しい学生生活が始まり、しばらくすると正志は〝情報〟と称して会話をしてくる。

その情報とは様々なもので、役に立つものもあればくだらないものもある。

後者が九割程度だが。


「またくだらない情報だろ?」


正志は自らを情報屋と名乗る。

話によれば、非公式の情報クラブと言うものに所属し、いち早く誰よりも情報を集めてくるらしい。


―――会話してやがる。



「常盤、今日ゲーセン寄ってかね?」

「悪い、今日は仕事なんだ」

「なんだ、アーサーはバイト?」

「仕事だ。バイトとは違う」

「律儀だねぇ。親父さんとこで働いてるんだよコイツ。お手伝いって言ったほうが良い?」

「へぇ、経営者か何かなのか?」

「似た様なもんだな」

「金はもらってんの?」

「まぁ、多少はな」


親父の仕事に興味を持った俺は、桜蓮に入学してすぐに仕事を手伝うようになった。

初めは単純にパソコンを使えるようになりたいと言う名目でパソコンを扱って仕事をしている親父に相談したのが始まりだった。

家にパソコンが無いため何度か会社に連れて行かれ、使い方を習っているうちに社長さんとも顔を覚える仲になり、扱いが慣れた頃には親父の仕事を手伝っていた。

いずれはパソコンを扱う仕事がしたいと思う様になり、その流れでバイトをさせてもらっていた。



「やぁ朝美君。学園はどうだった?」

「んーまぁ、楽しいですよ?」

「なぜ疑問系かね」

「色々とあるんすよ」

「好きな子とかはどうだ? 魅了的な女の子は?」

「なんでそんな事聞きますか!?」

「いやさぁ、朝美君って私の孫みたいなものだしな!!」

「せいいち―――社長、なぜここにいますか?」

「朝美君が来たんだ。出迎えをしないでどうする!!」

「あなたは朝美が来ると当たり前の様にここに来るな?」

「そう言うなよー!! 何か食べるかね朝美君?」

「いや大丈夫です。今日も仕事しに来てるんですから」

「そうか、少し残念だ。これが今日の仕事分だ。(つよし)の仕事にも関わってくることだから判らないことがあったら聞くと言い」

「はい、社長」

「・・・・・・うちの子供にならないか?」

「仕事しろ!!!!!」


―――仲がいいことだ。



「朝美、現実を見ろ。両親は既に亡くなった」

「―――」

「お前は私の子として生きるんだ。今までの通りの生活を保障する。奪われたものは全て取り戻した。この家もお前のものだ」

「―――」

「この世で生きていくには力が必要だ。その力は金だ。今はまだいい、だが力をつけろ。私の下で生き、力をつけるんだ」

「いくらだ」

「ん?」

「社長が払った金―――全額でいくらだ」

「気にしなくていい。君はまだ学生なんだ」

「いくらだと聞いている。家畜である以上、俺に力は無い」

「朝美・・・・・・」


―――これが俺だ。



「アーサー、なんて言ったらいいか・・・・・・」

「・・・・・・」

「親父さんも、おふくろさんも亡くなって大変だと思うが、力になるぜ?」

「構うな。俺は必要としていない」

「なんでだよ?」

「常盤・・・・・・。大丈夫か?」

「・・・・・・」

「俺たちも力になる。立花だけじゃなねぇ、皆、友達はお前の力になる」

「力の無い者が力になるのか。面白い。やってみろ」



「朝美、学園はどうした?」

「必要ない。退学届けを出した」

「駄目だ。剛はそんな事望んではいない!!」

「親父は死んだ。親父の望みなんてとっくに消えている」

「朝美・・・・・・」

「仕事をくれ」

「ない」

「なに」

「お前に出す仕事はないと言っている」

「なぜだ」

「条件付けだ。お前は今の学園に専念しろ。その上で仕事を提供する。仮に学園を辞めるのであれば、この仕事も辞めてもらう」

「良い条件だ。さすが、力のある者は違う」



「朝美」

「今日の仕事はこれだけか」

「黙っていたが、今日がご両親の御通夜なんだ」

「必要ない。俺は仕事が最優先だ」

「出席してもらう。親戚一同は来ないから、平気だ」

「まだ俺は少しの金しか稼いでいない。時間の無駄だ」



(わたくし)、朝山グループの常盤と申します」

―――。

「しばらくご連絡差し上げなくて申し訳ない」

―――。

「えぇ、例の件、そろそろ」

―――。

「もちろんです。私が直接お伺いします。日時に指定が無ければ私の方で決めてしまってもよろしいですか」

―――。


―――やめろ。



「アーサー、いい情報だ」

「仕事関係においての情報にしてくれ」

「仕事関係だよ。あの会社が動くらしい」

「ほう。それで」

「うまく行けば稼げる。これが連絡先だ」


―――俺を晒すな。



「いつからタバコを吸いだしたんだ?」

「いつだっていい。俺には必要な物だ」

「剛と同じ銘柄か。それはいいが止めるんだ。体に悪い」

「関係ないさ」


―――誰だ、俺に干渉するのは。



「車、買ったのか?」

「悪いか」

「あのベンツ、あの時の剛が乗っていたのだな」



「夢だったらよかったよね」



「常盤朝美。もう一つの世界の(わたし)だよ」



「・・・・・・ありがとう」


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