第99話 8歳、魔女たちの集会
───要塞都市ハーウィアル。
かつてフォルスティア大陸の主要国5カ国によって起きた宗教戦争..."カドリッツ天啓戦争"。
その時代に建造され、フランデモラ王国南部を長きに渡り、敵の侵入から守ってきた要塞都市である。
今でも至る所に敵の侵入を防ぐ工夫が残っており、その迷宮のように入り組んだ街並みは住み慣れた住人でさえ迷ってしまうと言われている。
「──っしょっと。ふぅ、これで全部ですか?船長」
「あぁ、休憩に入ってくれ。それと、ここでは頭って呼びな。ここに船はねぇんだからよ」
「分かりました。お頭」
「...あ、新入り!お前はこっちだ」
ハーウィアルに到着して少し。
先に到着していた"仲間"の荷を含めた荷降ろしを手伝っていると、頭...もとい、リビアに呼ばれた。
俺はリビアの元に駆け寄り、その隣に並ぶ。
「...あの、少しいいですか?」
「ん?なんだ?」
「ここに集められた荷物、それぞれ実に様々なルートで辿り着いたように見えるんですが...」
「おう、よく分かったな。別に深い意味がある訳じゃねぇんだが、念の為な」
「参考までに理由を聞いても?」
「なに、簡単なことよ。俗に言うリスク分散ってやつさ」
「リスク...?」
「"向こう"では多少名の知れたお尋ね者だからな。恨まれるのは慣れっこだ」
「...まさか、この街で襲われたり?」
「無い、とは言いきれねぇかなぁ。まぁ、ここの領主はアタシらの古い馴染みだから、大丈夫だとは思うぜ?」
そういえば、砂漠で海賊みたいな事をしていると言っていたな。
恨まれることもあるとは...一体、どんなことをしているのだろうか?
もしかして、中々に危ない集団だったり?
「...そういえば、これ何処に向かってるんですか?」
「領主の屋敷だ。主要メンツの顔合わせと情報共有をするっつってたな」
「顔合わせ...少し緊張しますね」
「なに緊張するこたァねぇ。みんな気の良い奴だからよ」
「でもそれ、僕も居ていいんですか?」
タッ...
不意にリビアが歩みを止める。
何かと思いリビアを見ると、頭をわしゃわしゃと撫でられた。
「何言ってんだい?これはお前の戦いでもあるんだ。お前が居なきゃ意味がねぇ」
「リビアさん...」
「...それに、"叛逆者"として動いてる奴はそもそも少ねぇ。この街にいる砂鮫団も、頭はアタシだがメンバーの殆どは"叛逆者"じゃねぇんだ。だから、奴らを殺せるなら、例えガキであっても喉から手が出るくらい欲しい」
「...そっちが本命ですか?」
バシッ!
背中から全身に響くような痛みが走る。
ただ叩かれただけのようだったが、ジリジリと妙に後引く感じがした。
「んなわけねぇだろ?アタシは仲間思いで有名なんだ。もちろん、お前に機会を与えるために決まってる」
リビアが俺に笑いかける。
"船長"という立場に違わず豪快な笑顔だった。
タッタッ...タッ
「...っと、着いたぜ」
「ここ、ですか?」
俺は足を止め、目の前の"重厚な壁"を見上げる。
この街の端。
街を囲む石壁の途中に"それ"はあり、一見すると精巧な石細工が施された大門に見える。
華美な装飾など一切見当たらないため、およそ主が住んでるようには見えない。
(ウチとは大違いだな...)
それから暫く俺は屋敷を見つめた。
というのも、着いたと言ったのにリビアは一向に戸を叩かなかったのだ。
「...えっと、リビアさん?」
「あ?」
「入らないんですか?」
「まぁ待てって」
一体どういうことなのだろう?
さっきから門番の視線が痛いから、さっさと入れてほしいのだが...
ギィィ...
そんな事を考え始めた時、目の前の重厚な扉が軋む音を立て開き始める。
こちらを睨んでいた門番も、それに気づくとその脇で姿勢を正した。
ペタッ、ペタッ...
ん?
なんか、足音にしては柔らかいというか、湿度が高いというか....
人間本来の音って感じがするんだが...。
「トレス姉!」
「久方ぶりだね、リビア」
"トレス"と呼ばれた人物が扉の奥から姿を見せる。
その人物は、白いシルクのローブで全身を包んだ女性であった。
身長は160cm前後。
顔立ちは整っているが、頬から口にかけて傷跡が目立つ。
案の定裸足であったが、それとは裏腹に、とても落ち着きがあり大人びた雰囲気を纏っていた。
「それで、君が例の子だね」
「あっ、お初にお目にかかります。僕はリーゼレンス・セーレンベルと申します。リーゼルとお呼びください」
「ふーん、礼儀正しいじゃないか。私はトレス。トレスティ・ゾルトジール。ここ、ハーウィアル領主の補佐をしている」
そう言うとトレスは左手を差し出す。
だが、その手は何か異質だった。
人肌とは違う、冷たそうな表面。
薄っすらと見える、木目のような模様。
...間違いない。
木製だ。
「おっと、見苦しいモノを見せてしまったね」
「い、いえ...」
トレスは左手を引っ込め、右手を差し出す。
こちらはちゃんと"人本来の手"であった。
「まぁ立ち話もなんだし、部屋に案内しようか。セレネたちも待っている」
「すまねぇな、トレス姉」
...ブゥン───
「ん?」
「...ほら、行くぞ新入り」
「あ、はい!」
なんだ今の...
虫、か?
...フランデモラ王国領、
ランズガル郊外────
ガタガタ...
ランズガルに続く道の上。
そこに十数台の馬車が走る。
「...なぁ、知ってるか?」
「あ?何が?」
「噂だよ。次に寄る街の」
「へぇ。どんな?」
「最近の話なんだけどよ。ここ十数日間で街に行った奴らが帰って来ねぇらしい。どうやら、街の情報がプッツリ途絶えちまってるらしい」
「よくあることだろ?一番近い前の街からでも3日はかかるんだぜ。山賊にでも襲われたんじゃねぇか?」
「それがよ、調査に行った兵士も帰らねぇらしいんだ」
「ふぅん...」
ガタン!
「どうした?」
「...なぁ、前の奴らどこ行ったんだ?」
「そういやぁ、見当たらねぇな...」
『...』
カサカサカサ...
「...引き返そう」
「なぁ」
「あ?」
「なぁ...」
「なんだよ!...っ!?」
カサカサカサ
クチュ、グチュ...
「俺...死ぬのかな?」
...ランズガルに続く道の上。
そこには何も無かった。
それはもう、不自然な程に...




