第93話 8歳、フランデモラの大地にて 2
「...そんじゃ、改めて自己紹介といこうか」
リビアと名乗った女が、手綱を握りながら俺を横目で捉える。
「アタシはリビア。家名(※苗字)はアパラント。へローム地方で砂鮫団の船長をしている」
「砂鮫団?」
「あー...なんつーか、砂漠でやる海賊みたいなもんだ」
「へローム地方というのは?」
「知らねぇか?ダームアレン大陸でも有数の砂海が広がる地方だよ」
ダームアレン大陸...
フォルスティア大陸の西に位置する大陸だったな。
大陸の大部分が砂漠で、砂海と呼ばれる流砂で構成された地形がある...と、学校で聞いたことがある。
「えっと、その...お母様との関係を聞いても?」
「ん?そうだな...妹弟子って感じか?一緒に居た期間は短かったけど、結構仲良かったと思うぜ?」
「リーニャは嫌がってたけどね」
「そうだったか?」
「"酔うと執拗いから嫌い"って愚痴こぼしてたよ?」
「それは、ほら...嫌いは好きの裏返しだって言うだろ?」
この人達は、俺の知らないリーニャの事を知ってるんだな...
なら、もしかして俺の父親の事も...?
「ぁ...」
「ん?」「あ?」
「今、なんか言ったか?」
「い、いえ...何でもないです」
...今聞くべきことじゃなかったな。
「...じゃ、次は私」
「っ!?」
突如真横から聞こえた声に、リーゼルは驚く。
リーゼルが横を振り向くと、そこには、先程まで御者席にリビアと同席していたはずのセレネがいた。
...え?
今、前の席にいた...よな?
やっぱり、この人只者じゃない。
「私はセレーネス・レベレシオン。略名はセレネ。アルテの双子の姉で、昔は"呪いの魔女"って呼ばれてた」
"呪い"、ね...
アルテさんの姉なら、魔女だって言われても納得だけど...
...ふむ。
そんな力を持ってるようには見えないな。
「よろしくおね...」
「ねぇ」
「はい?」
「今、私の身体を見たでしょ?」
「え?まぁ、それはそうですけど...なにか問題が?」
「私、君よりずっと年上だから」
「...え?」
いや、たしかにアルテさんにそっくりで、小柄だから幼く見えるけど...姉と紹介された時点で、俺より下に見てるとかは無いんだけどなぁ...
俺がポカンとしていると、リビアが口を開いた。
「気にすんな新入り。ちょっと前からそんな感じなんだ」
「ん、私は気にしてほしい」
「はぁ...えっと、何かあったんですか?」
「...」
セレネがそう言うため、リーゼルは理由を聞いてみる。
だが、セレネは口を噤み何も話さない。
「あー、それについてはアタシから」
何も話さないセレネに困惑していると、リビアが代わりに口を開いた。
話はそこそこ長かったが...
まぁ簡潔に言うと、"再三子供扱いされて気が立っている"という事らしい。
なんでも、こっちに来る時に子供だからと船賃をまけてくれたそうだ。
得をしたなら、そこまで怒る必要は無いと思うのだが...
本人は納得してないらしい。
...というか、この人何歳なんだろう。
アルテさんの双子ってことは、この人も成人(この世界では16歳)は超えてるはず...
少なく見積っても23、4ってとこか?
いや、待てよ...
そういや昔、アルテさんが言ってたな。
「...私達"竜人"は、人よりずっと長生きなの。そして、その生涯の殆どを若い姿で過ごす。だから、もし君が塵になったとしても、私は変わらず君を...」
...ん?
アルテさん、そんなこと言ってたっけ?
...ダメだな。
まだ記憶が混雑してる。
アルテさんの記憶を追体験?出来るのはいいけど、存在しない記憶を呼び起こすのは、あまり気分のいいものじゃない。
せめて自分で制御できたらいいのだが...
何故か、この記憶は意思を持っているかのように、俺の干渉を拒むのだ。
自分の身体なのに制御できないとは、なんとも奇妙な感じだ。
「ん?今のは...」
「うん。紛れもない、あの子の魔力」
なんだ?
2人で話してるみたいだけど...
視線を感じる。
「...どうかしましたか?」
スッ...
「!」
リーゼルが聞くと、御者席に顔を出していたセレネが振り向き、突然リーゼルの眼前まで距離を詰め、ジッと顔を見つめ始めた。
揺れる髪がふわりと匂う。
突然の出来事に、リーゼルは思わずドキッとした。
「ねぇ」
「は、はい」
「ホントにアルテは死んだの?」
「え?まぁ、恐らく...」
「質問を変える。さっきの話は、君が実際に体験したことだって言える?」
「それは...」
あの時、"記憶"については言及してなかったはず...
なのに勘づかれた?
だとしたら、何故聞いてきた...?
...何かを探ってる、のか?
「あ、急に聞いてゴメン。でも、とても大事なことだから」
「大事なこと、とは?」
「...君の"魔眼"について」
「...詳しく」
「その答えは、Yesと捉えていいの?」
「はい」
「分かった。じゃ、話を続ける」
...魔力と魔眼。
魔導黎明期とも言えるこの時代において、それに関する情報は宝石よりも価値がある。
ましてや、神々と対立する者にとっては...。
...そして、それはリーゼルにとっても同じだけの価値を持っていた。




