表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廻生のアリア  作者: jurabisu
第二章
90/107

第90話 8歳、閉館

...タッタッタッ


タブラ中央区、国立図書館。

整然と本棚が並ぶその通路を、一人の少年が足早に歩く。

その様子は何かを探しているようであり、足取りは不規則であった。


タッタッ...タ


瞬きをするような、ほんの一瞬。

周囲の景色は突如として変わり、少年以外の人影が無くなる。


...いや、少年と"少女"以外の人影が無くなった。


「...アルテさん?」

「んん...」


少年の目線の先で、少女は丸まり横たわる。

その長い髪を扇状に広げ、覆い隠した腕の隙間から顔を覗かせていた。


「...なに?」

「お母様のことで聞きたいことがあります」

「あぁ...後にして」

「...どうかしたんですか?」

「ん」

「あ!ちょっ...」


俺が聞くとアルテさんは短く返答し、ほぼノータイムで服をたくし上げる。

あまりに急な出来事だったが、俺は反射的に顔を背けた。


「な、何してるんですか!?」

「大丈夫だよ。君が思ってる感じじゃないから」

「...!!」


その言葉を聞き、リーゼルは恐る恐る前を向き直す。

そして、服をたくし上げたアルテを見ると、驚きを隠せなかった。


「これは...」


それは"傷"だった。

だが、ただの傷じゃない。


体側を抉るような大きな傷。


「重傷」なんて言葉じゃ足りない。

常人なら、即死に至るような傷だ。


「一体、何があったんですか...?」

「"天使"達に襲われた」

「...天使?」


天使って、あの天使なのか?


「君も見たことあるはずだよ?」

「僕が?」

「うん。レドラムとかアルタ村とか...覚えてない?」

「...あっ」

「思い出した?」

「いや、でも...まさか、アレが?」

「そ...天使もしくは堕天使」


そう言うと、アルテは魔法を使って身体を起こし、禁書庫に居るにも関わらず、手のひらから直接本を生み出した。


「それは...?」

「"旧リシェル神書"の写本(コピー)。神代の物語の一部と、神々や天使達の逸話が書かれてる」

「その本にアレの事も?」

「うん。私が今まで会った天使達の全ても、この本に書かれた神々の特徴と一致している。故に、私達は奴らを神や天使と呼んでいる」

「ん、私達...?」

「あー...私含む、神々に叛逆する意志を持つ人達のことだよ。リーニャもその内の一人」


うーむ...

あまりにも話が飛躍しすぎてて理解が追いつかないな。


つまり、なんだ?


神が人類の敵で?

アルテさんは神々の叛逆者で?

リーニャもその内の一人?


ん〜

まぁ、聞きたいことは沢山あるが...


まずは俺の目的を果たすべきだろう。


「アルテさん...今、お母様は?」

「...やっぱり。君は、それを聞きに来たんだ...」


アルテが黙る。

広大なその図書館に、異様な程の静けさが訪れる。


アルテは自身の唇を指で触れ、考える素振りを見せる。

そして、数分の思考の末に口を開いた。


「...フランデモラ王国領、ランズガル。リーニャはそこに居る」

「...ありがとうございます」


フランデモラ...

たしか、この大陸の東側に位置する国だったな。


だとすれば、馬車じゃ間に合わない。

...魔法を使うしかなさそうだ。


「...魔女の死は、ただ看取るだけじゃ終わらない。前に言ったよね?魔女の"死の形"」

「はい」

「それでも、行くつもりなの...?」

「はい」

「...」


アルテが黙る。

悲しそうで、心配そうな顔をしながら...



...サッ


「...来て」


沈黙を破ったその一言は、甘く媚びるような声で...

アルテは両腕を広げ、俺を誘った。


始めは、もちろん戸惑った。

自身の魔法の師であるアルテが、こんな時、そんな状態で俺を誘ったのだから。


...だが、すぐに意図は伝わった。



スッ...


バサッ...!



俺が近づくとアルテは抱きつき、俺は体勢を崩し押し倒される。

アルテは俺を見下ろし、俺の頬に手を伸ばした。


(魔女の口づけ...)


それは呪いであり、祝福。

様々な解釈があり、その全てである。


愛の証。家族の証。主従の証。

そして、この場合においては...


継承の証。



ッ───...



唇に"何か"が当たる。

熱く、柔らかく、しっとりとしたもの。


何かが流れ込むような、注がれているような...

頭がボーッとして、意識が呑まれ、侵されてゆく感覚。



...そして、何かが崩れてゆく音。



(...っ、アルテさん!まさか──)


遠のく意識の中、リーゼルは"ソレ"の結末を悟った。

だが、もう止めることは出来ない。


〈私の全部あげる。だから...〉




死なないでね




サァァ...


紙が散り、擦れ合う音。

同時に、俺に触れていた全ての感覚が消失する。




...魔女の最期。

それはいつも、儚く救えない。


魔女と成ってしまった以上、未練無き死など決して有り得ないのだから...。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ