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廻生のアリア  作者: jurabisu
第二章
88/107

第88話 8歳、リーゼルのとある一日 3

...タブラ領主邸・書斎───


「...それで、僕になんの御用ですか?」

「おっと、本題からだいぶ逸れてしまったね...」


ウェインさんから「用事がある」と聞いてから約30分。

なんの用かと思って来てみれば、ここまで世間話を聞かされていた。


だが、どうやらそれらが本題ではないようだ。


俺がウェインさんに呼ばれる時...

それは、実に奇怪な事件が発生した時だろう。


はてさて...今回は一体どんな事件が起きたんだ?


「本題は...これだ」


本題と言うなりウェインさんは真剣な面持ちになり、机上に置かれていた手紙を俺に手渡した。


「...これは?」

「読めば分かる」


そう言われ、俺は恐る恐る手紙を開き、その内容に目を通す。


「!?」


だが、全文を読まずして俺は内容を知った。

...知ってしまった。



「お母様が...危篤...?」



リーゼルは手紙を落とし、一瞬のうちに様々な思考が脳を巡る。


「...リーゼル君。すまないが、もう一つだけ落ち着いて聞いてほしい」

「...なんですか」

「その手紙を届けてくれた人から伝言も頼まれてね...」


ウェインが一旦、間を置く。

リーゼルはその様子を見て、事態が更に深刻だということを本能的に悟った。


「《見舞いは勧めない。行けば、結果はただ悲惨なものになる》...と」

「...」

「リーゼル君、私もとても残念に思うよ...でも、この伝言の通りお見舞いに行くのはやめた方がいいと思うんだ」

「何故ですか?」

「この手紙と伝言を届けてくれた人。...彼女は多分、前にセレネと名乗ってココに現れた娘だ。私は、彼女は君より"そっち方面"に詳しいと見た。そして、この忠告も信用に足るものだと判断した」

「...」

「...だが、これは私という一個人の見解に過ぎない。リーニャ君の場所は手紙に書かれている。...もし君が行くというのなら、私は止めない。むしろ、君の意志を尊重したいと思う」

「そう、ですか...」

「後は君の判断に任せるよ。...くれぐれも、後悔のないようにね」

「...ありがとうございます」


...ガチャン






...気分が悪い。


爺さんの死に際を思い出したから...?

リーニャの危篤を聞いたから...?


いや、どっちもか。


「うっ...」


...昼からずっと、自分の情緒が不安定なのを感じる。


急に涙が込み上げてきたり、

行き場のない怒りに苛まれたり...


それに、魔力の制御も滞っている。

"眼"が言うことを聞かない。


痛い。苦しい。




タッタッ...


「あっ、リーゼル...」

「はぁ...はぁ...」

「えっ、ちょっと...大丈夫?」

「大丈夫です...部屋で休めば、すぐ良くなりますから...あっ」


バタッ!


「ちょっと!?...ホントに大丈夫なの!?」

「ハァ...ハァァ...」

「ねぇ、聞いてるの?ねぇ...!」


あ...ダメだ。

意識が、飛ぶ。


誰か...

リーニャ...


「お母、様...」





...10ヶ月前、タブラ領主邸───


「えっ、出張...?」

「そう。ウェイン様から直々にね」


..."こっち"に移ってから1ヶ月くらいの頃。


突然、リーニャは出張へ赴いた。

知らされたのは、期間が未定だと言うことだけ。


場所も目的も分からない。


ウェインさんにも聞いたが、彼は「出張したい」というリーニャの要望を聞き入れただけのようだった。


業務上は「出張」となっているが、多分、それよりも「旅」と呼ぶのが相応しい。


そう...突然の旅立ち。


...そりゃあ悲しかったし、寂しかった。


何故、俺に目的を言わなかったのか...

何故、俺を置いて行ったのか...

何故、出発際に放った言葉が『ごめんね』だったのか...


考えれば考えるほど、"別れ"が現実味を帯びてゆく。



...だから、

俺は考えるのを止めた。


いや、忘れていたんだ。


"前"よりも充実して、"生きる"を感じられる今の生活に。

それを生きる自分に陶酔して...



...今考えてみれば、俺はリーニャに何も出来てない。


これじゃ、"前"と同じだ。


何も出来ず...返せずに、母との永遠の別れ。


嫌だ。

そんなのは絶対に。


せっかく転生したのに、前世の二の舞は笑えない。




...でも、どうすればいい?

俺に何ができる?


今も、こうして考えることしか出来ないのに...



〈ジッ...ジジッ...〉



ん、なんで未来視が...?

...というか、そもそもここは何処だ?


俺、たしか気分が悪くて...

気絶した...よな?


...なら何故、今思考できているんだ?



〈ツー...〉



そう思った矢先、俺の思考を遮るようにある風景が映し出された。


周囲を照らす妖しい光。

果てしなく続く棚の列。

そこに敷き詰められた数多の本。


...そして、そこにぽっかりと空いた空間で座る1人の少女...


それから暫く、少女は手に持つ本を読んでいたが、ふと、まるで視線に気づいたかのように"こっち"に視線を移した。



〈...──ッ〉



今の...

未来視じゃない。


しかも、あれは"禁書庫の魔女(アルテ)"だ。


...呼ばれている、のか?



何故?



...いや、答えは分かりきっている。


彼女は知っているんだ。

事の真相を...


なら、寝てる場合じゃない...!



(起きろ!起きろ!俺の身体!!!)

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