第87話 8歳、リーゼルのとある一日 2
タッタッ...タ
スッ...
「...準備できたか?」
「はい。いつでもいいですよ」
「で、ではッ...」
カチャッ...
「...始め!」
ダッ!
...カァァァン!!
とある学校の昼休み。
敷地の隅の人気のない広場にて、二振りの木刀が交差する。
「はあぁぁぁ!!」
「...くっ」
(重い...!)
カッッ...!
カン!カァァン!!
「...キレが増しましたか?フィド」
「ッお前が弱くなったんじゃねぇか?」
「言ってくれますねぇ!?」
ガン!
「ッ...はぁぁぁ!!」
(...右上。左上。中段払い!)
シュッ!シャッ!
シュバッ!!
リーゼルはフィドの連撃を華麗に見切り、舞うように軽やかに躱す。
「うおぉぉぉ!!!」
(突き...貰った)
スッ!!
リーゼルの予想通り、フィドが真っ直ぐ突きを放つ。
サッ...!
リーゼルはソレを躱し、素早くフィドの懐に潜り込む。
(胴体ガラ空き...入る!)
フィドの隙だらけな体勢を見て、リーゼルは半分勝利を確信し、体側へ振りかざした木刀をそのまま振り切ろうとした。
「..."雷系統"」
「!?」
剣を振り切る寸前、フィドがその言葉を口にする。
リーゼルはそれを耳にすると急ブレーキをかけ、勢いよく後ろに退いた。
「"放電"」
チッ...
バチィィィ!!!
「キャッ...!?」
「ふぇ!?」
次の瞬間、弾けるような音と共に、一瞬周囲が閃光に包まれる。
放たれた電気はリーゼルの肌を刺すように掠め、閃光はリーゼルを一瞬怯ませた。
「貰ったァ!」
シュッ!!
その隙をつくように、フィドが剣を振り下ろす。
「ッ...甘いです!!!」
カスッ...
「なっ...」
フィドの一撃がはいるかと思った矢先、リーゼルが瞬時に体勢を立て直し、フィドの剣を軽くいなす。
その後、リーゼルは直ぐに剣を切り返し、フィドの頭頂部へ振り下ろした。
ガン!
「いっ!?...」
硬いもの同士がぶつかる音。
直後、フィドは頭を抑えうずくまっていた。
「クソッ...今日も俺の負けか...」
「...でも、結構いい線いってましたよ?正直、あんなに早く"詠唱"していたのは驚きました。危うく、怪我するところでしたよ」
「そりゃあ、俺も鍛えてるからな。でも、まさかアレを避けられるとは思わなかったぜ...。一体、どんな反射神経してんだ?」
「反射神経だなんて大層なものじゃありませんよ」
「じゃあ、なんなんだよ...」
「ん〜..."感"、ですかねぇ」
「ハハッ、そんな曖昧なもんに負けてたら、俺のモチベーションが持たねぇっての...」
フィドが地面に倒れ込み、大の字になる。
そして、大きく息を吐いた。
「...でも、なんだか納得したぜ」
「ん、何がですか?」
「いや、なんつうか...普通に戦う分には気づかないんだが...お前、剣の動きがぎこちないんだよ。だから、その"鋭い感"?があるなら納得できるなと思ってよ」
「動き...やはり、ぎこちないでしょうか?フィドの動きを参考にしてカバーしてたつもりだったんですけど...」
「俺の動きを?...お前、剣の師は?」
「亡くなりました」
「ッ...そうか」
その場に居た皆が黙る。
それはエルゼもリリも例外なく...
その場を、ただ静寂が包む。
カァァァン...カァァァン...
学校の鐘の音。
その音は静寂を打ち消した。
「...あ、もう時間ですね。僕は講習があるので失礼します」
...タッ
「...リーゼル!」
立ち去ろうとする俺をフィドが引き止める。
「俺の剣でいいなら、好きなだけ真似していいからな!」
これは...フィドなりに、俺を気遣ってくれているのだろうか?
「ふっ...有難く真似させていただきますね」
俺は柔らかく笑顔をつくり、フィドに言葉を返した。
...だが、フィドから笑顔が帰ってくることはなかった。
(ッ...)
なんだ...?
君は何故そんな顔をしているんだ?
それに、エルゼやリリまで...
「どう、したんですか...?」
「あ、いや...なんでもない」
教えてくれ...
《俺は今、どんな顔をしている?》




