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廻生のアリア  作者: jurabisu
第二章
84/107

第84話 8歳、後始末 4

...ドサッ


「...んん?ここは...」


木漏れ日が、男の顔を優しく照らす。


そこは生気に満ちた樹木が連なり、青々と草木が茂る森の中。

男はその森の"大樹"の前に倒れていた。


「...魔女は何処に?トドメを刺さねば...」


男が立ち上がり、周囲を見回す。


一見すると何も居ないように見える森だが、目を凝らして見てみると鹿や熊などの野生動物が男の周囲を囲んで見つめていた。


「それにしても、ここは一体...」


ガサッ...


ザッザッザッ


森の奥から、一匹の牡鹿が男に向かって歩み寄る。

牡鹿は男を警戒する様子をまったく見せず、ゆっくりと且つ着実に男に近づいていた。


「ふむ...不思議な鹿ですねぇ。警戒心がまるで無い」


近づいてきた牡鹿の鼻に男が手を伸ばす。


スッ…


「...っ!?」


男は牡鹿の鼻に手を触れるが、すぐに手を引く。

男が引っ込めた手を見ると、その手には虫に刺されたような痕があった。


「ア゛ァ゛ァァァ!!!身体が...痛みがァ...」


突然、男が悶え苦しみ始める。

その身体では虫が這うように"何か"が蠢き、全身の穴という穴から血が流れ出る。


男は全身を掻きむしり、そのあまりの強さで掻き傷どころか皮がえぐれる程だった。


「なぜ、私が...?なぜ、ナゼェ...」


男の意識が遠のいていく。

そんな意識の中で、男は"声"を聴いた。


《鎮マレ》


「ア゛ァァァ!...っ、ハァハァ...」


少しして、男を蝕んでいた痛みが消え、蠢いていた"何か"も鎮まる。


男は息を整えると、牡鹿を見上げた。


グッ...グググ


ブチブチブチ...!!


その時、急に牡鹿の脳天が割れ始め、食い破るように異形の虫が姿を見せる。

それに続くように、牡鹿の全身から血肉を散らすように蟲が這い出てきた。


這い出てきた無数の蟲は1箇所に集まり、やがて人の形を成した。


「...!?」


ザッ!


男はそれを見た瞬間、顔を真っ青にして頭を垂れる。

手をついた腕は小刻みに震え、額には汗をかいていた。


スッ…


すると、"ソレ"はゆっくりとしゃがみ、男の顔を覗き込むように膝を着いた。


《何ヲ恐レル?》


「い、いえ...何も...」


《罰》


その言葉を聞き男が唾を飲む。


《...オ前二選択肢ヲヤル》


「選択肢、ですか?」


《選べ。私ノ命ヲ果タセナカッタ"代償"を払ウカ、魔女ヲ殺シ永遠ヲ手ニスルカ》


「ならば、今一度永遠を手にするチャンスをください」


男はほとんど間を置かず、最後のチャンスを望んだ。


...ズブッ!


「ぐっ!?」


その次の瞬間、ソレは指の一本を男の首筋に突き立てた。

その指は大きく脈動し、男の体内に"何か"を送り込んでいた。


《気二入ッタ。オ前二チカラヲ貸シテヤル》


「ぅぐっ...!?アがッ...」


男が大きく目を見開き、しゃくり上げながら痙攣する。


"ソレ"は指を抜くと、痙攣する男の耳元で囁いた。


《...一年後ノ十二月二十七日、"ルスコール"ニテ時ハ満チル》


それだけ言うと"ソレ"は力が抜けたように倒れ込み、身体が地面に着いたと同時に無数の蟲となり森へ散った。



...夜の月光が、男の身体を淡く照らす。


そこは"芋虫(木々)"が連なり、瘴気に満ちた"蟲の原(草原)"の中心。

男はその草原の"芋虫達の棲家(枝垂れ桜)"の前に倒れていた。






...タブラ郊外・仮設病床テント───


「...ふぅ。...あ、そこの貴女!この方の安定作業引き継いでいただけませんか?」

「あ、はい!」


リーゼルが近くを通りかかった女性を引き止め、自身の作業の引き継ぎを頼む。

女性はそれを了承すると、慣れた手つきで魔力の安定作業を始めた。


"魔力災害"発生から10日──


初めのひっ迫した状況から一変、今は俺が長時間休憩できるほど落ち着いている。


軽症者は粗方復帰して、後は魔力を正面から受けた重症者だけ、と言ったところだ。


これも対策が上手くいってる証拠だろう。




7日前───


「...で?結局どうすんだ。どの案にせよ、今よりもっと人手が要る」

「そこですよね...」


協議を始めてから一時間ほど...

新たな対策の決定は少々難航していた。


と言うのも、この"魔力災害"には一つ大きな問題があった。


...それは、俺たちを含む民衆の"魔力への理解度の低さ"だ。


そもそもの話、ほとんどの民衆は魔力を知らない。知っているはずがない。

それ故に、魔力濃度が濃い場所や無自覚で魔力を発している人の区別がつかない。


これのせいで未だに被害は拡大していると考えられ、実際の被害規模を把握できてないのが現状だ。


それに加え、対策を練っている俺たち自身も魔力の本質を知らない。

今まで魔法や魔術を使っていたのも先人達が確立した"完成形"を利用しているだけだ。


正直、魔力症の症状がここまで酷いとは思わなかったし、魔力がここまで残留・拡散するとは思ってもみなかった。



...また、民衆の魔力の認知度が低いことにより別の問題も発生している。


それはズバリ..."人手"だ。


現状、魔力の安定は1人につき同時に1人が限度だ。


だが、今ここに居る魔力を扱える人間は俺含め五人...

それで数千人の魔力を安定させるなんてまず無理だ。


しかし、人手を集めようと思っても、この街に...この国に他の"魔法使い"がいるとは思えない。


アルテさんを呼ぼうにも連絡取れないし、セレネと名乗った魔女?の居場所も分からない。



...と、こんな感じで問題がある。


特に深刻なのは人手の方だな...

今は何を実行するにも人手が要る。


どうにか、魔力を扱える人間を集められないもかなぁ...


『ん〜...』


皆、唸り声をあげる。


「ねぇ、ちょっといい?」


その時、それまで一言も口を開かなかったメリアが口を開いた。


「あ゛?」

「フィド?」

「...」

「...それで、なんですか?」

「いや、その...人手が足りないんでしょ?だから、症状から復帰した人に手伝って貰えないかなって思ったんだけど...」


(...!)


なるほど。盲点だった。

足りないなら増やせばいい、か...


「やってみる価値はありますね...」



...それから約一時間。

対策は実行に移された。

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