第81話 8歳、後始末
「ん...んん?」
...ここは?
知らない天井...では無いな。
サッ...
リーゼルは身体を起こし、周囲を見回す。
「自室か...」
そこは紛れもない、俺の部屋だった。
(...何日経った?)
俺は近く机に置いてあった月日板を見る。
それからは、"あの日"から2日経過していることが見て取れた。
「ん〜...」
リーゼルは不意に背伸びをし、自分の身体の調子を確かめた。
(...異常なし)
ちょっと歩くか...
誰かにあれからどうなったのかも聞きたいしな。
...タッ
そして、リーゼルはベッドから降り、クローゼットを開いた。
...タッ、タッ、タッ
(ん〜...なんだ?)
今日はやけに屋敷が騒がしいな。
それに...
タッタッタッ...!
「道を開けてください!」
リーゼルは、廊下の先から担架を運んできた女性に道を譲る。
(...屋敷に看護師?)
それに、運ばれてた人から※異常量の魔力を感じた...
※一般人における魔力量を基準とする。
俺が思ってたより、被害は大きいみたいだ...
「...」
...ウェインさんに聞くか。
...タッ
こうして俺は、書斎へと足を向けた。
...コンコン
「...ん?」
...コンコンコン
〈あ?...あぁ。入ってくれ〉
「失礼します」
ギィ...
「はぁ...それで?用件ん...は...」
「...少し、窶れられました?」
バン!
「リーゼル君!起きたのかい!?」
「あっ、はい...」
「はぁ...よかった。ちょうど君に聞きたいことが山ほどあったんだ。少し、いいかな?」
「は、はい...構いませんが...その前に、僕が寝てる間に何があったのか伺っても?」
「あ、あぁ...そうだね...。はぁ...私は少し疲れてるのかもしれない。この件が終わったら、しばし休暇をとろうかな...」
そんなことを呟きながら、ウェインさんはここ2日間のことを話し始めた。
...2日前、旧闘技場ーーー
「リーゼル?...おい!しっかりしろ!!」
フィドが気絶したリーゼルを揺する。
だが、リーゼルは一向に目を覚まさない。
タッタッタッ...!
「ご主人様!」
「リリ...どうだった?」
フィドの問いに、リリは首を横に振る。
「...皆さん気を失っていて...そっ、それと、中には危篤の方も...」
「クソッ...一体、ここで何が起こったってんだ...?」
「ご主人様...?」
「...俺は兵士を呼んでくる。リリ。お前は危篤の奴の魔力を安定させといてくれ。俺はそこら辺、苦手だからよ」
「は、はい!了解です!」
...と、まぁこんな感じでフィド達が駆けつけてくれたらしい。
多分、俺と魔女の戦いで拡散された魔力を、街のどこかに居たフィド達が感じ取ったのだろう。
「...あの、そのフィド達は今どこにいるんですか?」
「ん?んー、そうだね...」
...コンコンコン
ウェインが考え始めたその時、書斎の扉がノックされた。
〈...ウェイン様〉
すると、ウェインさんは手のひらで「待ってくれ」の形を作り、俺を見た。
俺はそれを見るて軽く頷いてみせる。
「...なんだ?」
〈お客様が応接室にてお待ちです〉
「病院の関係者か?」
〈左様でございます〉
「そうか...では、こう伝えてくれ。"私は今忙しい。だから代わりに、うちの優秀な使用人をそちらに向かわせる"と」
〈...仰せのままに。では、失礼致します〉
その人物がそこを立ち去る音が聞こえる。
「...リーゼル君」
「はい?」
ウェインさんが俺の方に向き直り、俺の名前を呼ぶ。
(さっきの話の続きかな?)
「後は頼んだよ」
「はい...え?」
ウェインさんはそれだけ言うと近くの本棚から本を一冊手に取り、栞の挟まったページを開いた。
「あ、あのぉ...」
「ん?なにかな?」
「"頼んだ"とは一体...」
そう聞くと、ウェインさんは本を読む手を止め、俺の肩に手を置いた。
「...リーゼル君」
「はい」
「君はうちの"優秀"な使用人だ。いいね?」
「え?」
「いいね?」
「あ、はい...」
「なら、私が何を言いたいのかも理解してくれたかな?」
なるほど。
つまり、俺は仕事を丸投げされたってことか。
「...よく分かりましたよ」
「そうか...なら良かった。」
俺が承諾すると、ウェインさんが安堵の表情を浮かべた。
「...ですが、なぜ僕に?」
「いや、実のところ、私も目覚めたばかりの君に仕事を頼むのはどうかと思ったんだが...」
「...だが?」
「如何せん、被害の内容的に我々には分からないことが多くてね...。魔力?が関係している以上、あまり下手なことが出来ないんだよ」
「...なるほど」
「君は魔力?には私たちより詳しいだろう?だから、今回の件には適任だと思ったんだ」
たしかに、ウェインさんの言う通りだ。
魔力は生物に必要不可欠なものだが、その本質は分からないことが多い。
アルテさんに師事してもらった俺の魔力に対する理解がこの程度なんだから、知識が皆無に等しい人々が到底扱えるものでは無いだろう。
「...あぁ、そういえば、まだ先程の君の質問に答えていなかったね」
「あっ、そうですね...」
「君の友人なら...まだ現場に居ると思うよ」
「現場?」
「まぁ行ってみれば分かる。多分、今回の客もそこからの使いだろう」
「...わかりました」
「じゃ、よろしく頼んだよ」
...ガチャッ
「...あ」
場所聞くの忘れてた...
そんなこんなで、俺が起きて最初の仕事が始まったのであった。




