第79話 8歳、マ女とヒトガタ 3
...25分前、闘技場―――
「ア”ァ...」
「コォォォ...」
その場所で、2体の"何か"が睨み合う。
一方は骸と薔薇を纏った少女。
もう一方は人の形を成した半透明な液体。
少女は"感情"という名の魔力に支配され、少年は自らの魔力に溺れる。
双方ともに"本体"の意識はない。
だが、その"怪物"らは膨大な魔力を放出し続ける。
敵を前にして、本能的に"威嚇"しているのだろう。
...そんな中、舞台の幕の隙間からその様子を覗き見る人影が1つ。
「んふっ♪私の読み通り...あのガキをつけておいて正解でしたねぇ」
そこには、40前半くらいの男が居た。
身長は180cmほどで、細身。
サーカス団の服装を着ており、片腕に不自然な切れ目があった。
男は時折顔を拭いながら、舞台の上に立つ2体の怪物を見つめる。
「...しかし、魔女とはなんとも恐ろしい。憎悪に身を呑まれ我を忘れるとは...救えないですねぇ。...まぁ、元はといえば私のせいですが...」
男が先程投げ込んだペンダントを見る。
「...それにしても、女はまだ分かりますが、あのガキまで姿が変わるとは...。神は私に、何かを隠して...?...っ嗚呼!ダメだ!!神を疑っては...。私は敬虔なる神の信徒。ただ、ただ信じなければ...信じなければ...」
ダッ...ダッ...
男が近くの柱に何度も頭をぶつける。
数回ぶつけた後には額から血が滴り、呼吸も少し荒くなっていた。
「...ん、血?いつの間に...。いや、今はとにかく戦いの結末を見届けねば...」
男は少し朦朧とした意識の中、舞台へと視線を移した。
『...』
スゥゥ...
異様なほど鋭く冷たい風が吹く。
...まだ、2体は動かない。
...ガタン!
バサバサバサ...!
舞台の裏のどこかで鳥籠の扉が開き、沢山のフレット(鳩)が外へ飛び立つ。
...だが、2体は動かない。
...ひらひら
1本の羽根が空より舞い落ちる。
その羽根は2体の視線を遮った。
『!』
その瞬間、垂れ流しだった2体の魔力がほぼ同タイミングで"消失"した。
...ダッ
カアァァン!!
いつの間にか"少女"の剣は振り下ろされ、それを"ヒトガタ"が受け止めていた。
僅か0.03秒の出来事であった。
スッ...
カン!カン!
キィィィン!!
2体は互いに剣を振り、押されまいと相手の剣を押し返す。
サッ...
ズゾゾゾゾ!!
すると、ヒトガタは不意に地を触り、無数の"根"を少女へ差し向ける。
「っ...」
タッ...!
少女は高く飛び上がり、それらを躱す。
しかし、その跳躍により少女は地面より7mほど上にいた。
ダッ!!
「!?」
その隙をヒトガタが逃すことはなく、自身が生み出した根の上を走り、少女の目の前まで迫っていた。
ヒトガタはそのまま剣を構え、少女の首へと狙いをつける。
シュッッ...!!
...ガチィィィ!
「...!?」
...だが、ヒトガタの剣がその首に届くことは無かった。
ガチガチガチ...
少女に巻き付いていた骸の頭部がヒトガタの剣を噛んで止めている。
ギロッ...
「!!」
シャッ...!
少女はその隙を逃さず、人形の心臓へ突きを放つ。
ヒトガタは間一髪でそれを避けたが、その際に腕を剣先が掠めた。
すると、ヒトガタの"腕"が急激に膨張し、その至る所から血が滲み出しはじめた。
「...」
サッ...
シュバッ!!
ヒトガタは身の危険を感じ、瞬時にその腕を切り離す。
...パァァァン!
その直後、切り離された"腕"が限界まで膨張し、花火のように爆発四散した。
「コォォ...」
ドッッ!
...ドォォォン!!
それを見たヒトガタは、残った腕で少女を殴り飛ばす。
その打撃は少女の不意をついたのか、少女は壁に強く叩きつけられた。
...タッ
ヒトガタは地面に降り、腕が無くなった方の自身の肩に触れる。
すると傷口が蠢き始め、数秒後には新たな腕が生えてきた。
...ガラッ
「ア”ァ”...」
一方で、少女は瓦礫を押しのけ、両手に剣を握る。
加えて、骸を纏う部位が変化し、骸の脊髄が尾のようになり、先端には先程まで"骸"が握っていた剣と似たものがあった。
...タッ
少女も同じく、舞台に立つ。
「ア”ァ...」
「コォォォ...」
二度目の睨み合い。
先程の数撃で互いに相手の力量を測った上で、双方"殺り方"を考える。
次に動いたとき、今日が相手の命日となるように...




