第77話 8歳、マ女とヒトガタ
ザッ...ザザ
「うぅ...あぅぁ!」
「お母さん!今、ティナが笑ったわ!」
「ふふっ...そうね」
ザァァ...
「ティナ、お誕生日おめでとう!はい、これ!」
「あぁ、うー」
「なぁロゼ...」
「ん?」
「やっぱり、赤ん坊にあのネックレスは高くないか?これは君が使って、ティナには安い別の...」
「ダ〜メ。メリアがこれをプレゼントしたいって言ったんだから...妥協はダメよ」
「でも...。はぁ...」
ザァァァ...ザザッ
...ドン!
「ロゼ、ティナ...一体何処に行ったんだ...!?」
「お父さん...?」
「あ?あぁ...メリアか...」
「お母さんは...?絵本、読んでほしくて...」
「...わかった。今日は、お父さんが読んであげよう」
「お母さんは?」
「...お母さんは今、とても遠い所に居るんだ。だから、しばらくはお父さんで我慢してくれ」
ザッ...ザァァ...
ガラガラ...
「ロゼ!」
タッタッタッ!
「...オド...?」
「あ、あぁ...良かった、良かったぁ...」
「お母さん!」
「メリア...ただいま...」
「...あれ?ティナは?」
『...』
「ねぇ、ティナは?」
「...メリア、あのな...」
ガラガラ...
「オードロフさん、少し宜しいでしょうか?」
「あ...はい」
「ねぇティナは!?ねぇ!」
ザザザッ...ザァァァ...
「お父さん!ティナの手掛かりが...」
「お前、まだそんなことをしていたのか!?」
「っ、そんなことって何よ!」
「7年だぞ?...もう諦めるんだ」
「諦める!?...もういいわ」
「おい!何処に行くつもりだ!?」
「...散歩」
「おい!メリア!」
ギィィ...
「メリア!」
バタン!
タッ...タッ...
「ティナティナティナ...」
ゴゴゴゴ...
周囲の魔力が響めく。
観客席では、急激に濃くなった魔力に充てられた耐性の弱い人々が、次々と意識を失っていく。
耐性がある人々も皆体調不良を訴え、中には嘔吐した者も少なく無かった。
(凄い威圧感だ...)
心做しか息もしづらい気がする。
...いや、今はそれよりも"コッチ"だな。
タッ、タッ...タ
「やっぱり、お前が...」
《"カクシン"シタ》
「返せ...ティナを、返せ...!」
《ユルサナイ、ユルサナイ...》
「う”ぅ”...はぁ、はぁ...」
「...絶対に...」
《カナラズ...》
『 オ マ エ ヲ コ ロ ス 』
いつの間にか、女にまとわりつくように"怪物"が顕現していた。
その怪物は、全身に薔薇と茨が巻き付いた骸骨のような見た目をしており、その手には薔薇を模したエストックを持っている。
恐ろしくもどこか幻想的なその怪物は、憤怒と怨恨の混じった眼差しで俺を睨みつけていた。
(なんなんだよ。コイツ...)
ヤバい匂いがプンプンする...
特に、背後霊みたいなのが持ってるあの"剣"。
多分、肌を掠っただけでも、その部位が弾け飛ぶ。
一点集中の※"防殼"でも防ぎ切れるかどうか...
※魔力で身体を覆い、物理攻撃や魔力攻撃を軽減すること。
皮膚を一部硬化させることで対物理攻撃でも効果を発揮できるようになっている。
まったく...
せっかくの休日が台無しだ。
ウェインさんには、これの穴埋めをしてもらわないとな。
「フゥゥ...」
スッ...
俺は剣を構える。
ズズズ...
それに合わせ周囲に"根"を生やし、"蔓"で身体を覆い、"茨"を刀身に纏わせる。
「...くっ」
もう処理限界か?
このまま未来視と魔力感知まで同時発動したら、最悪脳が焼き切れるな...
...だが果たして、これで戦って勝てるのだろうか?
否、それは不可能に近い。
魔力の量も出力も、恐らく俺の倍以上。
加えて、戦闘特化の能力持ち。
全力で相手をしても、勝率はガチャの最高レアを単発で引き当てるのに等しいだろう。
...まぁ要するに、己の限界を越えなければ対等に戦うことすら難しいってことだ。
出し惜しみは厳禁。
考えるより先に直感で。
最低限の被害(自他共に)が出ることを常に念頭に置く。
以上3つが、俺が見立てたコイツと戦う上で最低限必要なことだ。
限界突破のタイムリミットは、発動からせいぜい5分持つかどうか...
それ以上は、身体が耐えきれず全機能が停止するか破裂する。
「スゥゥ...」
呪い解除...
ドクン!...
「!?」
(マズい...!)
ズゴォォォ!!
その瞬間、リーゼルにかけられた"魔力出力量を制限する呪い"が解除される。
それに伴い、ダムに溜まった水のように、今まで放出されずに体内を循環していた魔力が一気に解き放たれた。
濁流の如きその魔力の塊は、穿根となってリーゼルの周囲を覆い尽くす。
「...」
フラッ...
ダッ
一瞬リーゼルがふらつくが、すぐに体勢を整えた。
『コォォォ...』
...ある闘技場の壇上にて。
その日、二匹の"怪物"が降り立った。




