第75話 8歳、演舞 2
シャッッ!!...
(ヒェッ...危っ)
身を反った俺の鼻を、鋭い刃が掠める。
女が足を止めた刹那の事だった。
ギラギラと光る刀身が俺の視界を横切る。
ッー...
(...返し、斜め)
シュッ!
女が振り切った短剣を順手に持ち替え、斜め方向に振り下ろす。
俺は身を捩り、刃を躱す。
ッー...
(...回転斬り、足払い)
シャッ!
女は振り切った力を利用し、足を狩る低姿勢の回転斬りを放つ。
俺は後方に跳びながら避け、女から距離をとる。
パチパチパチ...
観客席から拍手が聞こえる。
どうやら、皆これを演目だと勘違いしているようだ。
ドン!ドン!...
どこからか太鼓の音が聞こえてくる。
サーカスの音楽隊だろうか?
まぁなんにせよ、戦闘BGMみたいで雰囲気でるからナイスだ。
それに、音楽があった方が演技っぽく見えるしな。
「...もう逃げられないですよ?」
「私が逃げると?」
「当たり前でしょう?」
「...チッ」
ドン!ドドド...
太鼓のテンポが早くなる。
...シャアァァン!!
『!』
ダッッ!
シンバルのような大きな金属音が会場に響く。
それを合図に、俺と女は共に力強く地を踏んだ。
タッタッタッ...!
スッ...
...キィィィン!!
"闘技場"の舞台の中心で、2本の"茨"が交差する。
プォーン!パッパパパ...
それと同時にラッパのような音が聞こえ、それに合わせ他の楽器も鳴り始めた。
カン!
互いに剣を押し合い、数歩下がる。
(斬撃...3連)
シュッ、シュッ...
シャッッ!
(武器二本目...双刀の裏回転斬り)
スッ...
シュシャッ!!
「っ...」
薄皮一枚...
避けきれなかった。
コイツ、"本気"だ。
(返しから5連撃...足技込み)
シュッ...
ブォッ!
シュッ、シャッ!
バッッ!
女の蹴り上げた足が、俺の前髪を揺らす。
「...!?」
...なんだ?
さっきから"何か"がおかしい。
俺は未来視を発動しているはずなのに...
何故コイツの動きが、未来視で見た未来より速いんだ?
コイツの別の能力?
別の魔女による介入?
...いや、どっちも違う。
魔女の魔眼は原則一人一つだけだ。
"魔道基礎"やアルテさんによる情報だから確実だろう。
恐らく、別の魔女の線も無い。
もし居たら魔力の揺らぎが発生する。
今、目の前に魔女が居るとはいえ、揺らぎを感じれないことはまず無い。
俺はそういう訓練をしてきたからな。
...だとすれば、なんで未来視の調子が悪いんだ?
カッ...
「!?」
...あ、ヤバい。
足がもつれた...
ふと、俺は女を見る。
女は俺の隙を見逃すはずはなく、剣を鋭く構えていた。
視線の先を見るに、狙いは俺の右腹部。
"払い"ではなく"刺突"のようだ。
...ん?腹?
首じゃないのか?
しかも、刺突じゃ大したダメージににはならないはず。
その刺突に、このチャンスを使うまでの価値があるのか?
...そういえばコイツ、前も急所を狙って来なかったな。
もしかして、それとコイツの能力に何か関係が...?
(...いや、まずは避けるのが先だな)
ッー...
俺は未来を見て、攻撃が当たるまでの大まかな時間を予測しようとする。
ザザッ...
「っ...!?」
俺が未来視を使ったその時、女が一瞬、顔を顰めた。
(表情が変わった?)
俺が未来視を使った瞬間だった。
...多分、俺と女の間で"何か"が起きたんだ。
その"何か"がどういうものかは、まだ分からない。
...でも、今なら...
刺されても、大丈夫な気がする!
スッ...
俺はあえて何もせず、ただ攻撃を受け入れた。
...ズシャッ!
「くっ...」
「!?」
...痛い
俺の腹に刃が突き刺さる。
刺さる直前に少し下がったから、それほど深い傷にはなってないはずだ。
...タッ!
女が俺に刺さった剣を抜き、俺から大きく距離をとった。
その表情には動揺がみえる。
「...ふぅ」
...不発―――
やっぱり、俺の予想は正しかった。
これであとは...
コイツに勝つだけだ。




