第74話 8歳、演舞
...襲撃より10日後―――
「リーゼル早く♪」
「そんなに急がなくても...」
「ダメよ!パパには内緒で来てるんだから。ほら、早く!」
(内緒、ね...)
学校が夏休みに入り、さて何をしようかと考えていた矢先、俺はエルゼに外出に誘われ(連れ出され)た。
目的地は、この街の大闘技場跡。
そこで今、世界中を旅している大サーカス団が公演をしているのだ。
なんでも、この街に来るのは数十年ぶりらしく、サーカスを知らない世代の中で話題になっているらしい。
俺は別に行く予定は無かったのだが、エルゼが行くならついて行く他ない。
(こっそり)ウェインさんにもその事を話したら、「たまには息抜きも必要だろう」と言って俺もついて行くように言ってきた。
...しかし、本当はあまり外出なんてしたくない。
それも、誰かと一緒だなんて。
少し前に、白昼堂々襲われたばかりだからな。
(今日は何事も無ければいいけど...)
そんな心配をしながら、俺はエルゼに連れられ、会場へと入っていくのであった。
…数十分後―――
「ねぇ!今の見た!?あの人、炎を吐いたわ!」
「分かりましたから...早く座って下さい」
(よくこんなに、はしゃげるな...)
まるで幼稚園児だ。
いくら初めて見るものだからといって、ここまではしゃげるのは、もはや才能だな...
俺が※8つの時でも、流石にここまではしゃげ無かっただろう。
「お嬢様。他のお客様の迷惑になりますから...」
「見て見て!あの人、腕を斬ったはずなのに腕がくっ付いてる!」
ダメだ...
全然聞いてない。
こんな事になるなら、ウェインさんに頼んでVIP席取ってもらえばよかった...
(はぁ...)
...にしても、ここは魔力が濃いな...
人が集まると相対的に濃くなるのだろうか?
敵に見つかりにくくなるのは良いのだが、それは俺も同じだ。
もし、あの襲撃者や教会関係者が紛れていても、こんな魔力が濃い場所じゃ見つけるのは至難の技だ。
対して、敵の...特に教会関係者はエルゼの顔を知っている。
そのエルゼは今少し周りから浮いているので、教会関係者の目印になってしまうだろう。
...まぁ、こんな大衆が集まる場所で襲ってくる奴なんているわけ...
(...ん?)
あれ?
なんか、視線を感じる。
それに、魔力の流れが...
少し、周囲を見回す。
...右斜め前方、やや下。
(うわっ、目が合った...)
そこには、ジッと俺を睨みつけ、今にも襲いかかってきそうな女性がいた。
その隣には、女性を宥める男性の姿も見える。
男性は頑張って宥めようとしているが、興奮状態の魔女を止めるのは至難の業だ。
"彼女"が解き放たれるのは時間の問題だろうな。
...しかし、こんな場所で暴れられたら少なからず被害が出てしまう。
どこか広いスペースは...
(...おっ)
あそこだな。
サッ
「ん、リーゼル?どうかした?」
「急用ができました。少し席を外します」
「ん?うん...」
「では...」
タッ、タッ...
ザッ
俺は席を立ち、人々の頭上を飛び越えながら"会場"へと降り立つ。
(なんか緊張するな...)
観衆は何が始まるのかと一斉に俺を見つめ、出演者達は観客の乱入というアクシデントに困惑する。
スッ...
俺はそこで一礼し、観覧席に手を差し出す。
その手の先には...魔女。
(...どうだ?)
...ザッ
「...」
挑発してすぐ...
魔女が俺の前に佇む。
「一曲、どうです?」
...タッ、タッ、タッ
魔女は無言で俺に近寄る。
俺は姿勢を変えず、俺の手が取られるのを待つ。
タッ、タッ...タ
「...遠慮するわ」
シャッッ!!
...もう既に、"演武"は始まっていた。
※ちょー今更後付け設定
聖暦は一ヶ月が約40日。
1年は12ヶ月で475日。
1週間は天、月、火、水、木、金、土、日。
1日は24時間になっている。
そのため、リーゼルの地球(365日)における年齢は10歳4ヶ月くらいになる。




