第73話 遠く西の大地
...フォルスティア大陸より西、ダームアレン大陸にて―――
ザァァァ...!
広大な砂の大地を数隻の船が進む。
その船の先頭には数匹のイルカのような生物が"泳いで"おり、船はそれらに繋がれていた。
その甲板で2人の女性が会話する。
一人は、大剣サイズのカットラスを担いだ20代後半くらいの女性。
もう一人は、黒いフードを被った10代中盤くらいの少女であった。
「リビア...今日はいい天気だね」
「あぁ。仕事が無けりゃ今頃、砂上スキーを楽しんでるとこだろうよ」
「リビアらしいね」
「ま、アタシは年中無休だけど。...先生はこんな日、何したい?」
「私...?私は...」
「..."神"を殺したい」
「ハハッ、先生は相変わらずだ」
「それ以外、すること無いし...」
「天気がいい日くらい、休んだらどうだ?あまりのめり込むと身を滅ぼすぜ?」
「分かってる...」
...ゴォォォン!!
そんな時、周囲に銅鑼の轟音が響き渡る。
「おっと...お客さんみたいだな」
ドンドンドン!
「アネット!仕事だ!!」
女性の一人が甲板を踏み鳴らし、船内の人物に"仕事"の始まりを知らせる。
その踏みは船を大きく揺らした。
タッ、タッ、タッ...
「ふぁ〜...そんなに鳴らさなくても、聞こえてる...」
「お前、いつもはこんぐらい鳴らさないと起きないだろ?」
「騒音で目覚めるのは嫌い...起こすなら、耳元で優しく囁いてほしい...」
「こっちの労力も考えろ」
船の扉から一人の少女が現れる。
少女は部屋着であり、大きな鮫の抱き枕を抱き抱えていた。
一見すると普通の少女に見えるが...相違点が一つ。
それは、背中から生える"翼"だ。
「...みんな揃ったね」
それまで船の隅で静かに本を読んでいた少女が口を開く。
その少女は"先生"と呼ばれている人物と瓜二つであった。
「先生が二人...?」
「あ?いつまで寝ぼけてんだ。そっちはアル姉だろ?」
「ごめん...眠くて...」
アネットが目を擦る。
「...アルテ。今回の標的は?」
「ん」
"先生"がアルテに問うと、アルテは三人に一冊の本を見せた。
「旧リシェル神書、第3部6章3節より..."大天使ノウェリエン...それは真愛への渇望。侍らせた薄愛の道化等は満たされぬ愛の権化"」
「...なぁ、アル姉。その情報、だいぶ抽象的じゃねぇか?」
「古い本だからね。仕方ない」
「...それで、"アレ"がそのノウェなんたらって奴なのか?」
リビアが砂漠の向こう側を指さす。
その方角には、肉眼ではほとんど見えないが、確かに"何か"があった。
アルテは頷く。
「分かった...野郎ども!よく聞け!!」
リビアのその声に、忙しく働いていた全ての船員が一斉に耳を傾ける。
「砂鮫団はこれより、対象の殲滅作戦を開始する!まさか、ここまで来て日和ってる腰抜けは居ないと思うが...」
『ハハハ...』
「命を落とすマヌケも居ねぇよなぁ!?」
『おう!』
「...じゃあ、作戦開始!!」
『イエス、マム!』
その掛け声と共に、船員が再度忙しく動き出す。
船も旋回し、真っ直ぐと標的への進行を始める。
「リビア...他の船員、連れてきて良かったの?」
「先生、うちの野郎どもはそんなにヤワじゃないよ。それに、危なくなったら逃げるように言ってるからね」
「そう?ならいいけど...」
タッタッ...タ
リビアが船首に立つ。
「...んじゃ、お先!」
ダッ!!
リビアが船を蹴り、船からすごい勢いで飛び出す。
その反動は凄まじく、船首が地面に着きそうになるくらい船が沈んだ。
「あ、行っちゃった...じゃ、先生。私も行ってくるね」
そう言うと、アネットも船から飛び降りる。
甲板には二人の少女だけが残った。
「...アルテ。私達も行こうか?」
「...」
「アルテ?」
「ん、何?お姉様...」
「...また、"あの子"の事考えてたの?」
「うん」
「...あなたの初めての弟子だから、気になるのは仕方ないと思う。でも、仕事中は...ね?」
「...分かった」
「じゃ、私も行くね..."風系統・迅風"」
スッ...
"お姉様"の姿が消える。
「...リーゼル、気を付けて。君が進まんとする道は...」
「私達と同じだから...」
ドサッ...
甲板に一冊の本だけが残る。
その本のタイトルは...
"始まり"




