第70話 8歳、棘の刃 2
タッ...タッタ...
「ア”、あぁ...アァ...」
唸り声をあげながら男が一人、フラフラと道を歩く。
その場所は、街中にしては妙な静けさがある入り組んだ裏路地の奥も奥。
滅多に人の近寄らない、"忘れられた場所"だった。
「これも試練...私が、永遠になる為の...」
タタッ...タ
ダッ!
男が地面に手を着く。
その呼吸は異常なほど深く、顔色は悪い。
「ハァ...ハァ...。...あっ」
そんな時、男は自身の足元まで光が伸びるのを見た。
一日中強い光が指すことがないその場所では有り得ないことであった。
男は正面に誰かの気配を感じ、顔を上げようとする。
《...動クナ...》
その声を聞き、男の身体は一瞬で凍りついたように、微動だにしなくなる。
また、男は"その声"に聞き覚えがある様子だった。
《"ソノ時"ハ近イ..."魔女"ヲ狩レ》
「...魔女、とは...?」
《...直二分カル...》
「...はい...」
スゥ...
気配が消える。
男は解放されたように脱力する。
その顔には、笑みが見えた。
「ラーミスの天啓...!...永遠は近いですねぇ...イヒッ」
サッ...!
男が空を仰ぐ。
「神よ!必ずや、貴方様の命を完遂してみせましょう!」
その男の表情は歓喜に満ち溢れていた。
シュッ...シュッ...
「ふっ...ふっ...」
タッタッ...タ
「...おや、リーゼル殿。ここに居られましたか」
「あ、ポールさん...どうかなされましたか?」
ジージャー(異世界のセミの総称)の鳴き声が騒がしい、夏真っ盛りのとある日。
俺が中庭で素振りしていると、この屋敷で働く数少ない同僚で、執事のポールさんが声をかけてきた。
「旦那様が書斎にてお待ちです。何やら急ぎの用事のようですよ」
「分かりました。すぐ行きます、とウェイン様に伝えてください」
「承知致しました。では...」
ポールさんが去る。
急ぎの用事か...
なんだろう?
俺は急いで着替えると、ウェインさんの書斎へ向かった。
コンコン...
「...入ってくれ」
「失礼します」
ギィィ...
「あぁ、リーゼル君か。急に呼び出してすまないね...」
「いえ、これも仕事ですから...それで、用事ってなんでしょうか?」
俺が単刀直入に訊ねると、ウェインさんの表情が険しくなる。
なんだ?
そんなに"用事"の状況が悪いのか?
...そういえば、今日は机上がやけに散らかってるな...
「...リーゼル君。"八つ裂鬼"って、聞いた事はあるかい?」
「あっ、はい。学校で時々話題になっています」
「...知っているなら話が早い。今回君を呼び出したのは、まさに、それについてなんだ」
「...詳しく、お聞きしても...?」
「...立ち入り禁止区域付近で、身元不明の5名の遺体が発見された」
立ち入り禁止区域...
...ってことは、あの地下か!?
なんで今更...
「しかも、遺体が発見された同日に貴族や教会の要人が行方不明になっていてね...。"八つ裂鬼"とやらの仕業とみて、まず間違いないだろう」
「はぁ...」
ウェインさんが大きく溜め息をつく。
「おかげで、多方面から問い詰められ、私の仕事は増えていく一方だ。...そこで、君に調査を頼みたい」
「それは構いませんが...僕なんかが出向いて、何か分かるものでしょうか...?」
「...現場を見れば分かるよ。私が、君を行かせる理由が...」
「?...分かりました。では、失礼します...」
俺はウェインさんに一礼し、扉に手をかける。
ウェインさんが俺を行かせる理由...?
一体...なんだ?
...そんなことを考えながら、俺は"現場"へと向かうのであった。




