第7話 3歳、異世界 5
「...それじゃあ、また来るねぇ」
「はい!また来てくださいね♪」
ガチャッ
客が店を後にする。
「ふぅ...もういないかな...?」
リーニャは店の外を確認し、"閉店"の札を扉にかける。
さっきの客が最後だったようだ。
窓を見ると、まだ日は登りきっていない。
リーニャの占いは、客が途絶え次第閉店する。
だから、まだ午前中なのに仕事が終わることが多い。
それでも店が続けられているのは、リーニャの占いが必ず当たるという信頼を得ているからだろう。
俺は木板に文字を書きながら感心する。
その文字は、日本語ではない別の言語のものだ。
この世界の言葉で、俺が使っているフォールネ語は文字に表すと46音ある。(カタカナや濁点、半濁点にあたる文字を入れるともっとある)
まぁ日本語の「あ」から「ん」までと似たようなものだ。
今は、日本語の「た行」にあたる文字を練習している。
この世界に生まれて三年...
やっと指を思うように動かせるようになってきた。
これも特訓の成果だろう。
「ねぇリーゼル、お散歩に行かない?」
「お散歩...行きたいです!」
俺は手を止め返事をする。
...指が動かせるようになったこと以外にも、三年でできるようになったことがある。
それは、歩行や跳躍などの脚の動きだ。
タッタッタッ
俺はリーニャの手を握りながら土の道を歩く。
真夏の外は暑いが、時折吹く風は微かに冷たい。
周囲の水の張られた田んぼには、米と麦を足して2で割ったような植物が青々と一面に広がっている。
「...お母さま、あの花はなんて言うんですか?」
「ん?えっと、あれはカッカラっていう名前でね...悪い動物さんたちを追い払ってくれるのよ」
俺は視界に入った花を指さす。
俺の目線の先には2mを超える巨大な植物がある。
その植物の花の部分は僧が使う杖に似ている。
「悪い動物?」
「えぇ、トラッタ(でかいネズミ)とかナンバ(めっちゃ群れるイノシシ)っていう村の野菜を勝手に食べちゃう動物さんたちのことよ」
やっぱ、どこの世界にも害獣っているんだな...
でも、あんな植物で害獣対策ができるのか?
まぁこの村で大きな被害を聞いたことがないから、ちゃんと効果があるんだろうな...
こういう地球になかった植物を見ると、異世界に来たことをあらためて実感する。
前世のイメージから、異世界ってもっと殺伐とした感じだと思っていたがそうでも無いらしい。
植生や動物も地球のものと似ているから、元からこの世界にいたような気すらしてくる。
このまま普通に成長して、仕事をして、家庭を持ってもいいかもしれない。
この世界なら、前世と違う生き方ができる。
そんな気がしていた。
「...あ、クラッカスさん!こんにちは〜」
「おぉ、リーニャか」
「えっと、こんにちは...」
「ん?お主は...」
道の向こうから歩いてきた70歳ぐらいの男にジッと見つめられる。
その男は乱した服に酒瓶と剣を提げている。
「クラッカスさん、この子はリーゼル。私の子どもよ」
「そうか...儂はロブノ。しがない老人じゃ」
ロブノは手を差し出してきたので、俺はロブノの手に触れる。
スッ…
ドサッ
「...え?」
次の瞬間、俺は空を見ていた。
「ほっほっほ...びっくりしたかのぉ?」
「リーゼル!大丈夫?クラッカスさん、何を...」
「大丈夫、怪我は無い。じゃろ?リーゼルよ」
俺は頷く。
俺は傷一つなく寝かされた。
何をされたのか分からないほどの一瞬で...
この人...只者じゃない。
(すげぇ...これが異世界の...)
異次元の動き...
男なら誰でも一度は憧れる、"最強"...
それは俺も例外じゃなかった。
「あ、あの...僕にもさっきの、使えますか?」
「おほっ、興味あるのか?ええぞぉ。いつでも来なさい」
「ちょっと、勝手に決めないでください。リーゼルはまだ三つですよ?」
「大丈夫じゃよ。さすがの儂でも段階は踏むわい」
「でも...」
「...お母さま、ダメですか...?」
俺はリーニャの足にしがみつき、上目遣いでリーニャを見つめる。
「んー...わかったわ。でも、日が落ちる前には帰ってくるのよ?」
「はい!お母さま、ありがとうございます!」
「ほれ、こっちじゃ」
俺はロブノ爺さんの後ろをついていく。
...今日から何かが変わる気がする。
それが良い方か悪い方かはわからないけど...
俺は、"未来"を見てみたい。




