第65話 7歳、入学 3
「おい、お前...!」
入学式から3日。
様々な教科のオリエンテーションが終わり、さて帰ろうと思った矢先、誰かが俺に声をかけた。
「はい?どうかしましたか?」
振り返ると、見覚えのあるガラの悪そうな男がいた。
たしか名前は...フィド。
自己紹介のとき、フィードロス・メメトリアとか言っていたはずだ。
「俺と勝負しろ」
「?...すみません。貴方の意図がよく分からないんですが...」
「そのまんまの意味だ」
タッタッタッ...!
「...あっ、ご主人様...!」
フィドの後ろの廊下から、少女が走ってくる。
少女はフィドの隣で止まると、耳元で何かを話し始めた。
この娘はフィドの従者だったな...
名前はリリとか言っていた。
「...ふん、知らん。」
少女はアワアワしながら、フィドに止めるように説得していた。
友達がナンタラ、とか、仲良くウンタラ、とかそんなことを話していた。
タッタッ...
「ん...リーゼル、その人達は?」
トイレからエルゼが出てくる。
とてもいいタイミングだ。
ここはさっさと離れて、帰るとしよう。
「あ、いえ。何でもありません...行きましょう」
「ん」
俺はそこから離れようと、反対方向に進む。
「あ!おい、待てよ!!」
ッー...
(掴まれる...)
サッ...!
一手目。
右後方からの掴み。
「っ!...」
(...左...)
サッ!
二手目。
左後方やや上、振り下ろし。
俺はその"攻撃"を軽やかに回避する。
コイツ...
俺に攻撃しようとした、のか...?
ただ引き止める為の力の入れ方じゃねぇ...
「...避けたな、お前...」
「なんなんですか?貴方...急に攻撃してくるなんて...」
「っ、何でもいいだろ!...とにかく、俺と勝負しろ!」
いやぁ...困ったなぁ...
問題は起こしたくないが...
こんな感じで付き纏われるのも好ましくない。
一回ボコせば諦めてくれるかな?
チラッ
とりあえず、エルゼに目配せする。
エルゼは少し悩む素振りを見せたが、少しして小さく頷いた。
...主人からの許可も得た訳だし...
「...分かりました。その勝負、受けて立ちましょう。」
「勝負する気になったか...」
「ええ。ですが、場所を変えましょうか?」
俺がそう言うと、フィドは何かを言おうとする。
だが、周囲を一度見回した後、頷いた。
「では、ついてきてください」
俺はフィドをある場所へ案内する。
タッタッ...タ
「...着きましたよ」
旧第2運動場...
校舎から少し離れた場所にあり、周囲を少し高い石壁で囲まれている。
旧とついているとおり、現在は使われていない。
昔は訓練用の案山子が置かれていたらしい。
たまに生徒が居たりするが、今日は誰も居なかった。
「なんだ?ここ...」
「教室を移動するときに見つけたんですよ。広さは十分でしょう?」
「...あぁ」
「武器はどうしますか?」
「好きなの使え」
「わかりました。では...」
俺は携帯している短剣(全長35cm程)を鞘ごとベルトから外す。
その短剣は抜けないように、紐で鞘と固く結びつけてあった。
一方フィドは、リリから木剣を受け取る。
その木剣は一般規格(刃渡り80cm程)のものだった。
タッタッ...
双方、位置に着く。
間合いは、6m...
「...一つ、お聞きしても?」
「なんだ?」
「この勝負の意図は?」
「...言えねぇよ」
「...そうですか」
さっきから、コイツが何を考えているのか分からない。
だが、少し観察してみて、ちょっと分かった気がしなくもない。
「...お嬢様、合図を」
「えっ、あ、うん...」
サッ...
「じゃあ、よーい...」
エルゼの合図を聞き、俺の体に力が入る。
それは、フィドも同じだった。
「...始め!」
ダッ!
始めに動いたのは、フィドだった。
この、6mという間合いを一瞬で駆ける。
その姿は、結構迫力があった。
「はあぁぁぁ!!」
...ザッッ!
シュッ!!
フィドは俺の目の前で急ブレーキをかけ、大きく剣を振りかざす。
(上方、振り下ろし。やや左寄り...)
風を切る音がする。
「ッ...!」
...カァァァン!!
俺はそれを、片手で受け止める。
(軽い...)
「ぐ...!」
フィドを更に力を入れ、押し込む。
だが、リーゼルの短剣は微動だにしない。
「っ!?」
...カッ!
俺はフィドの剣を押し返す。
フィドは二三歩、後退りした。
「くっ...はぁぁぁ!!」
カン!カン!カン!...
フィドが乱れ斬りを繰り出す。
だが、どの一撃も軽くあしらわれる。
サッ...
俺は、少し構えを取り、フィドを見つめる。
「...終わりです」
シャッッ!!
...カァァァン!!
「いっ!!!?」
フィドの剣が宙を舞い、フィドは尻もちを着く。
「...はぁ...俺の負けだ...」
バタッ...
フィドが仰向けに倒れる。
「ご主人様!」
そこへ、リリが駆けつける。
リリは心配そうに、フィドの顔を覗く。
リリはフィドに何かを話しているが、フィドは目を合わせない。
(なるほど、ね...)
「お嬢様...」
「ん?」
「リリさんを連れて、少し外してもらえませんか?」
「え、まぁ、いいけど...」
タッタッ
「貴女、少し来なさい」
「えっ、でも...」
「でもじゃない。来るのよ」
多少強引だったが、エルゼがリリを連れて行く。
「はぁ...はぁ...」
フィドの息がまだ乱れている。
俺はフィドの顔を覗く。
「...なんだよ...」
「いえ...なんでもありません」
「なんでもないって事はないだろ?」
「それは僕の台詞ですよ」
「あ?...あぁ...」
「...好きなんですか?」
「っ!?違ぇよ...!」
どうやら、そうみたいだな...
いやぁ、いいねぇ...
青春だぁ...
俺がリリと仲良くしてたから、嫉妬でもしちゃったのカナ?
「僕は盗ったりしませんよ?」
「だから、違ぇって!!」
フィドに掴まれる。
「ま、まぁまぁ...」
「チッ...」
...それから30分ほど、俺はフィドの話を聞いた。
どうやら、リリはフィドの幼馴染にあたるらしい。
家柄もあり、友達も少な(居な)かったフィドは使用人であるリリと一緒に居ることが多かったそうだ。
そうして過ごすうちに、だんだん気になり始めた、と...
これが、"許されない恋"ってやつか...
自然と応援したくなる感じ...
なんか...良いな...
「...まぁなんか、スマン。迷惑かけて...」
「いいですよ、謝らなくても」
「...ねぇ、リーゼル!まだぁ?」
エルゼが呼ぶ声が聞こえる。
「...あっ、僕たちも行きましょうか?」
「おう!」
...これが、これから長い付き合いになる男との始まりの出来事だった。
☆リリ
本名、リリエッタ・アウニール




