第58話 7歳、異変 7
タッタッタッ...
「ねぇ...」
「はい...?」
「この臭いは、何なの?」
更に地下への階段を下っている途中、エルゼが俺に問いかけた。
「なんだと思います?」
「...さっさと教えなさいよ」
まったく...
この"異臭"の正体も分からないのに、よく着いてこよう思ったな...
サッ...
リーゼルは足元の"何か"を取り、後ろのエルゼに投げ渡す。
「...あっ...」
「それですよ」
「これ...ネズミ...?」
エルゼは投げ渡されたネズミの死骸を見つめる。
その死骸は新しいものではなく、少し古く腐敗が進んでいた。
「まぁ、ネズミだけではないようですが...」
「?」
...タッ
俺たちは最下層に到着する。
そこは左右に廊下が伸びており、燭台の火の淡い光が廊下を照らしていた。
「着きました...」
俺たちは曲がり角から廊下を覗く。
『!?...』
その廊下を見て、二人はしばらく絶句した。
「なによ...これ...」
まったく同感だ。
趣味が悪いったらありゃしない。
この教会の奴らはとんだゲス野郎だな...
「...」
リーゼルは廊下の壁をじっと見つめる。
だが、それはただの壁ではなかった。
磔にされた大量の"死体"が並んだ壁...
死体は様々な状態で磔にされており、
身体の一部が欠損しているもの。
腐っているもの。
ミイラ化しているもの。
など、様々だった。
(...臭い...)
とんでもない異臭だ。
他の何にも形容し難い悪臭...
吐くまではいかなかったが、さすがに気分が悪くなる。
俺でもこれだからなぁ...
エルゼは...
ガサッ...
エルゼがリーゼルの袖を掴む。
「エルゼさ...ん?」
「う"っ...オ"ェ"ェ"ェ"...」
「...」
エルゼがリーゼルの袖を掴んだまま嘔吐する。
吐く位置が高かったせいか、吐瀉物がリーゼルの足や靴に飛び散っていた。
「ゥ"ッ...」
(やべっ、貰いゲロしそうになった...)
リーゼルは出かけた吐瀉物を寸前で飲み込む。
「はぁ...はぁ...」
「大丈夫、ですか...?」
俺はエルゼに問うが、エルゼには答える気力はないようだった。
だが代わりに、エルゼは俺の腕を強く掴んでいた。
「...引き返しましょう。僕の用事は済んだので」
...ちなみに、俺がわざわざここまで来た目的は、最初の探知に反応があった残り二つの反応を調べることだ。
まだしっかり確認できてないが、今じゃないといけない訳ではない。
反応の片方が消えていて、もう片方がこの廊下の奥にあるのは気になるが...
まずは、エルゼの体調を気遣うべきだろう。
サッ...
ガサッ
リーゼルはエルゼを支えながら立ち去ろうとする。
だが、エルゼはその場から動かず、リーゼルの袖を引っ張る。
「...どうかしましたか?」
「ティナが...ティナが呼んでるの...」
「?」
「行かなきゃ...」
ザッ
「あっ...」
バタッ...
エルゼは俺から離れ廊下の先へ行こうとしたする。
だが、フラフラとした足取りのせいで躓き、転倒してしまった。
「っ!?エルゼさん!」
俺はエルゼに駆け寄り、エルゼの身体を起こす。
「はぁ、はぁ...」
(っ...身体が熱い...)
なんだ?
エルゼの身体が異常なほど熱い...
まさか、熱を出したのか?
呼吸も荒いし、だいぶ重症みたいだな...
「ティナ...」
そんな重症でありながらも、エルゼは廊下の先へ行こうとする。
「今は自分のことを一番に考えてください!」
ガサッ
タッタッタッ...!
俺はエルゼを背負い、階段を駆け上がる。
「...ティナ...」
その時にも、エルゼは"ティナ"の名を呼んでいた。




