第56話 7歳、異変 5
この状況...どうやって打開する...?
相手は姿をくらませて、魔力の残穢もほとんど残さない怪物...
対して俺は、ちょっと魔法が使える程度のナイフを持ったチンパンジー...
字面だけだと勝機なんて皆無に思えるような状況だ。
...シュッッ!!
おまけに、この"舌"...
分からないが、何かヤバい...
下手に貫かれたら、俺の"負け"が確定するような要素を持っている...気がする...
肌を掠める度にピリピリとヤバさが伝わってくる。
ザァァ...
ザッ、ザザッ...
(やっぱ使えねぇか...)
「...っ!」
...シュッッ!!
未来視での移動先特定も無理か...
どうにかしてコイツの居場所を見つけないと、攻撃出来ねぇ...
どうすれば...
...シュッッ!!
(...ん?)
この"舌"って...本体から出てるやつだよな?
これ引っ張れば、本体の場所が分かるんじゃ...
(チッ...考えてる暇はねぇか...)
...サッ
リーゼルは避けた舌がある辺りを左手で捉える。
ガシッ!
すると、左手は透明な何かを掴んでいた。
(...あった!これで...)
「...!!!?」
が、リーゼルは咄嗟に手を離す。
「あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”!!!」
...ザクッ!
リーゼルは自身の左手をナイフで切り落とした。
「痛ってぇぇぇ!!!...はぁ、はぁ...」
リーゼルは手を切り落とした腕を抱え込み、しゃがみ込んでしまった。
(あ、危ねぇ...)
リーゼルは切り落とした手を見る。
だが、その手のひらには、無数の細くて白い"何か"がびっしりと蠢いていた。
「はぁぁ...はぁぁ...」
息を整えると、切り口からの出血が止まる。
(やっぱりヤバかったか...)
この白いの...
寄生虫みたいなもんか...
舌に触れすぎると、あれが体内に侵入してきて俺の身体を蝕んでいくのだろう。
...ん?
...それなら、エルゼは大丈夫なのだろうか?
さっきめちゃくちゃ舐められていたが...
まぁでも、あの時は白いのが付いてなかったから大丈夫なのだろう。
...いや、人の心配してる場合じゃないな...
今、俺は絶体絶命の危機にあるんだ。
この際、エルゼのことは二の次だ。
今はコイツを殺す方法を第一に考えないと...
でもなぁ...
さっきからずっと考えてるけど、良案が浮かばない。
(...俺も姿を消せれば...)
ん?
姿を消す?
...
...そうか。
そうだよ!
...なんで思いつかなかったんだ?
ついさっき使ったばかりなのに。
(...やるしかねぇ)
「スゥゥ...」
"俺は、魔力"...
「...???」
ピトッ、ピトッ
タブラにあるとある孤児院の地下の一室...
そこには、一匹の怪物がいた。
六本足でブリッジをしたような異形の怪物...
怪物は、さっきまで戦っていた。
...いや、狩りをしていた。
姿を隠しながら、"子供"をジワジワと弱らせ、とどめを刺す。
それだけの、簡単な狩りだった。
...そのはずだった。
「???」
怪物は困惑する。
それもそうだ。
...突然、標的の姿を見失ったのだから。
怪物は周囲を見回し、標的の姿を探す。
...だが、何処にも姿はない。
サァァ...
怪物はその姿を現す。
姿を現せば食い付いてくると考えたのだろう。
結果、標的は食い付いた。
だがそれは、怪物にとって最悪の結果をもたらすことになった。
...バシュッ!!
「!?」
姿を現した次の瞬間、四方八方から"蔓"が伸びる。
その蔓は怪物の四肢や首に絡み、それぞれの方向へ強く引っ張っていた。
ガサッ、ガサッ
怪物は必死にもがくが、蔓は千切れずに怪物を引っ張り続ける。
「どんな気分ですか?」
「!?」
その声と共に、怪物の上に標的が姿を現す。
...シュッッ!!
バシュッ!
怪物は気づくや否や、舌を伸ばす。
だがそれは、どこからともなく飛んできた蔓に阻まれてしまった。
「追い詰めていた相手に、追い詰められる気分は...」
その時、怪物は悟った。
...自分は獲物になったのだと。
シャン...
標的がナタを振りかざす。
「知っていますか?魔力を扱う器官は、心臓の反対側にあるらしいですよ」
「!?」
ガサッ!ガサッ!
怪物は必死に足掻くが、逃れられない。
...スッ!
ズシャッ!!
「!!!?」
ズシャッ!ゴシャッ!
標的は、何度も何度も何度も...
振り下ろす。
...スッ
ズシャッッ!!!
「!?!?!?!?」
ガサガサガサ!...ガサッ...サ
...バタッ
...怪物は今まで感じたことがないような激痛に悶えながら、"終わり"を迎えた。
「はぁ...はぁ...」
ダッ
リーゼルが膝をつく。
(勝った、のか...?)
「...ハハッ、ハハハ...」
(...疲れた...)
...バタッ
リーゼルが"死骸"の上に倒れる。
「...zzZ」
そして、深い眠りについた。




