第5話 0歳、異世界 3
(ん?...あぁ、朝か...)
窓からさす光が俺の顔を照らす。
眩しい...
そういえば、あの日の朝も...
俺の脳裏に前世の最後の光景が映る。
(母さん...)
元気にしてるかな?
まぁ俺がいなくなって清々してるかもしれないがな。
(...)
考えても仕方ないか...
今はこの世界で生き抜くことだけを考えよう。
「んん...あれっ、私...」
やっと起きたか...
ちょうど腹が減ってたんだよ。
「あーあー」
「ん?どーしたの?」
「うー」
「ご飯?...あっ」
俺はリーニャに腹が減っていることを全身で伝える。
リーニャはそれを読み取ってくれたが、同時に別のことを知ったようだった。
ガタン!
リーニャは俺をベビーベッドに戻し、窓を開ける。
空と大地の境目には、燦々と輝く太陽があった。
トントントン
「セーレンベルさん?居ますかぁ?」
「あっ、えっと...ちょ、ちょっと待ってくださーい!」
突然家の玄関がノックされ、低めの男性の声が聞こえてくる。
それを聞いたリーニャは慌て出す。
「えっと、えっと...」
リーニャはやる事が多くて何から手をつけたらいいか分からなくなっているようだ。
そして考えた末に、俺を抱っこした。
(...???)
え、なんで?
優先順位違くない?
こういうのって、先にお客さんじゃ...
俺は困惑したが、すぐにその意図がわかった。
リーニャは俺を抱え、紐で俺とリーニャを固定する。
その後、台所へ駆け込むと、置いてあったパンを口に咥える。
ガチャッ
「もごもごもご!...」
リーニャはパンを咥えたまま玄関の扉を開ける。
扉の前には、60歳くらいのおじさんが立っていた。
服装を見るに、近所の農民だろう。
「あー...食べてからでいいよ...」
「もごもご!...」
むしゃむしゃ...
ゴクッ
「ふぅ...えっと、お待たせしました!」
「うん...なんか、ごめんね...」
「?」
リーニャは俺を連れたまま、家の隣の小屋へ向かう。
(そういえば、この世界で外出するのは何気に初めてだな...)
俺は周囲を見回す。
んー...
やっぱり農村だったか...
それと、ほとんど文明を感じない。
前世で文明に囲まれて育った俺には、少し新鮮な感じがする。
(俺って本当に転生したのか...)
そして、俺は自身の状況を再確認した。
ガチャッ
リーニャは小屋の中へ入る。
その小屋は薄暗く、壁には黒系の布がかけられている。
明かりは小屋の机に置かれた2つの燭台だけのようだ。
燭台が置かれた机には、水晶玉がクッションの上に置かれている。
俺は棚の上に置かれていた籠の中に入れられる。
「お利口にしておくのよ?」
「あー」
リーニャが唇に人差し指を当てながらお願いする。
俺は何が始まるのか分からなかったが、静かにしろと言われたので、とりあえず返事をする。
よく分からないが、この雰囲気といい、なんかワクワクするな...
リーニャは、足元の籠からローブとインドとかにありそうな髪飾りを取り出す。
「よし...サーバリックさん、いいですよ」
リーニャが呼ぶと、隣の部屋からさっきのおじさんがでてくる。
おじさんは机を挟んで反対側の椅子に座る。
「何を占いましょうか?」
「今日の天気と...あと、婆さんの機嫌を占ってもらえるかな?」
「また奥さんを怒らせたんですか?」
「ハハッ、ちょっとね...」
「...始めます」
そんな会話を交わしながら、リーニャは水晶玉に手を向ける。
(占いか...)
なんかちょっと胡散臭いな...
もしかして、これで家計を支えてるのか?
正直、当たるとは思わない。
まぁ天気ならどうにかなるとは思うが...
(ちなみに俺は晴れだと思う)
家族の機嫌って分かるもんなのか?
だが、そんな疑いはすぐにかき消されることになる。
スゥゥゥ...
(...!)
なんだ?空気が変わった...?
俺の頬を"何か"が掠めるような感覚がする。
明らかにさっきとは何かが違う。
異様な空気が周囲を漂う。
「...今日の天気は、晴れのち雪です。おやつ時に天気が一変して猛吹雪になると思います。奥さんの方は...あー、とっても怒っていますね。数日間は機嫌が悪そうです」
「そうですか...どうすれば、機嫌を直してもらえますかね?」
「んー...赤です」
「赤?」
「2日後から5日間かけて、赤色の物をさりげなく机の上に置いてください。プトリアの花を添えておくとなお良しですね」
「おー、ありがとうございます!」
「あまり奥さんを怒らせちゃダメですよ?」
「ハハッ、気を付けます」
男性は机に数枚の硬貨を置き、リーニャに礼をして部屋を後にする。
さっきのは一体...?
前世で見たことがある占い師からはあんな"気"を感じたことはなかった。
あの不思議な感覚...
俺は、"未知"との遭遇を果たしたのかもしれない。
...ちなみに、今日の昼は凄い吹雪だった。




