第48話 7歳、新生活 3
20分前...
タブラ、フラファイア(領主)邸・応接室。
じぃー...
「...お母様」
「...」
「なんで言ってくれなかったんですか?」
「...」
「領主の方とお話をするなら、すると言ってくれればよかったのに...」
「...あ、あのね...」
「...誤魔化すお母様は嫌いです」
「シュン...」
まったく...何を隠すことがあるのやら...
話し相手は領主で住む場所をくれて、しかも雇い主になる人だろ?
俺が下手なことを口走らないように、事前に知らせておくべきじゃないのか?
まぁ、今はそんなことより...
これから来る"領主"との会話について考えよう。
恐らく、リーニャとの交渉?(給料とか)がメインにはなるだろう。
それと多少の日常会話。
俺へは軽く触れる程度のはず...
ん?領主には子供がいるのか?
もし、いるとして...
年齢が近ければ"仲良くしてくれ"的なことは言われるか?
離れてたら、リーニャと"子供は手がかかる"みたいな会話を始めるだろう。
ざっと考えてもこんなもんか...
このことから考えるに、俺は相槌をうつ程度でいいはず...
なにか聞かれても適当に返して大丈夫だろう。
(...よし)
心の準備はできた...
...ガチャッ
その時、応接室の扉が開いた。
ガサッ
俺達は席から立ち、入ってきた人物を見る。
「あぁ、待たせてしまったね。...それと、そんなにかしこまらなくていいよ」
「では、お言葉に甘えて...」
リーニャの返事を聞き、俺は席に座る。
その人は反対側の席に座る。
「さて、まずは自己紹介からしておこうかな。...私はこの街、タブラとその周辺地域を王より任されている、ウェステイン・フラファイアという者だ。ウェインと呼んでくれたまえ」
そう言うと、ウェインと名乗ったその人は軽く礼をする。
歳は...30後半〜40前半くらいか?
思ってたより若くみえる。
あまり硬っ苦しい感じじゃなくて、親しみやすそうな人だ。
「えっと、僕は...」
「いや、いらないよ」
「?」
「リーニャ、君からの手紙で聞いてるからね。...リーゼル君、だろう?」
「...手紙?」
自己紹介をしようと思ったが、いらなかったようだ。
...にしても、リーニャの手紙...?
でも、"あの日"から村を出るまでの一週間、警戒態勢のせいで商人を含めた外部との連絡が取れなかったから、手紙なんて普通じゃ出せない。
そうすると、手紙を出せるのは事件の前...
もしかして...
"あんな事"が起きるのを予知していた...?
なら、なんで教えてくれなかったんだ?
チラッ
俺はリーニャを横目で見る。
だが、リーニャは俺から目を逸らしているように見えた。
「...それにしても、君が誘いを受けてくれるとは...。手紙も読んだが...大変だったね」
『...』
「あぁ、すまない。気分を害してしまったかな?」
「いえ、まぁ...」
「どんな理由であれ、君のような腕の良い占い師を追い出すとは...。村の方たちは、少々感情に流されやすいみたいだね。...いやぁ〜、お陰でいい拾い物をしたよ」
「私たちを"物"扱い、ですか?」
それまで、ウェインの話を静かに聞いていたリーニャの表情が曇る。
「っと、失敬...。不快にさせてしまって、すまない」
「ん...」
「...さて、本題を始めよう」
(遅っ...)
「まずは今回の交渉の内容を確認しておこうか...」
サッ...
すると、ウェインの側にいる執事が一枚の紙を机に置いた。
(...契約書か...)
えっと...なになに...
まぁ、要約すると
"俺たちに住む場所を与えてくれる代わりに以下のことを要求する。"
1.リーニャがフラフェイア家専属の占い師として働くこと。
2.俺含め、セーレンベル家の人間は雇用契約上フラフェイア家の使用人となること。
そして最後、3つ目の条件。
3.俺をフラフェイア家令嬢の側仕えとすること。
(...ん?俺、読み間違えたかな?)
「...あの、この契約書のここって...」
「ん?あぁ、そこか...少し、こっちにも事情があってね...」
「はぁ...」
「実はね、私はひとり娘が居るんだが...春から学校へ行かせることになっててね...」
「それが...僕と、どう関係するんですか...?」
「...君に、私の娘と学校に行ってほしいんだ」
「...えっと...」
「ん?どうかしたかな?」
「すみません、もう一度お聞きしても?」
「...君に、私の娘の付き人として、一緒に学校へ行って欲しいんだ」
(...え?)
「参考までに聞きますけど...もし、断ったら...?」
「うん...もしそうなったら、今回の契約は白紙になってしまうかもね」
つまり、ほぼ強制って訳ですね...
「...それで、どうかね?」
「...分かりました。引き受けましょう」
「そうか!助かるよ」
「...ちなみに、その娘さんは...?」
「あぁ、そうだね。早めに顔合わせをしておこう。...ポール!エルゼは?」
"ポール"と呼ばれた執事は、ウェインに耳打ちする。
「...すまない。娘は今、外出中みたいでね...顔合わせは後ほど、ということにしてもらえないだろうか?」
「...はい、構いません」
「では、先に契約書にサインを...」
俺とリーニャは契約書にそれぞれサインを書き、血印を押した。
...ボフッ
リーゼルがベッドへうつむせに倒れ込む。
「はぁ〜...」
疲れた...
サッ...
リーゼルが寝返りを打ち、仰向けになる。
(これから、新しい生活が始まるのか...)
スッ...
リーゼルは静かに目を閉じる。
「...zzZ」
疲れに呑まれ、リーゼルはそのまま深い眠りに落ちた。




