第46話 7歳、新生活
フォァァ...
綿雪が降る、晩秋のとある草原。
ガタガタ...
薄く雪が積もった草原に、二本の車輪の跡が伸びる。
その跡の先には、一台の馬車があった。
「はぁー...」
リーゼルが白い息を吐く。
(今年の冬も、厳しい寒さなりそうだな...)
だが例年と違うのは、過ごすのが住み慣れた家じゃないことだろう。
まさか、村を出ることになるなんて...
「はぁ〜...」
思わずため息が出てしまう。
新天地での生活...新しい日常...
上手くいくとは思えない。
将来への希望が持てないと言うか、なんと言うか...
(なんで、こんな事になったかなぁ...)
...ん、そういえば...この馬車は何処へ向かっているんだ?
急いで出てきたから詳しいことを聞いてないな。
リーニャが、アルタ村よりは発展している、とは言ってたけど...
「...お母様」
「ん、なに?」
「この馬車は、何処に向かっているのですか...?」
「あ、まだ伝えてなかったわね...」
こうして、リーニャが話し始めた。
...俺たちの新しい家があるのは、"タブラ"と呼ばれる都市だそうだ。
そのタブラはフォーノード王国の中枢都市の一つに数えられるほどの重要な都市であり、"フォーノードの頭脳"とも言われている程、情報が集まるらしい。
そのように言われている要因は、タブラには国立の大図書館が置かれていることが大きいだろう。
なんでも、城と見間違う程に大きく立派な図書館だそうだ。
それで、何故そんな場所に引っ越すのか、だが...
どうやら、リーニャは前々から街に住まないか、とタブラの領主に誘われていたらしい。
しかも、専属の占い師として雇ってくれて、家まで用意してくれるという超好条件。
俺なら即行で条件を呑むところだが、リーニャが誘われたのが俺を出産した時と重なった為、見送っていたそうだ。
元々、俺が成人(16歳)になったら街に引っ越す予定だったそうだが...
まぁ、こんな状況になっちゃったから早々に引っ越すことにしたという。
「...あっ、そうそう。タブラはね、学校があるらしいのよ」
「そう、なんですか?」
「ええ。それで、なんだけどね...」
「?」
「...行ってみる?学校...」
学校、か...
前世で不登校になるくらいには嫌な場所だ。
そこに行きたいか?と言われて、行きたいとは思わない。
まぁ、それは前世での話。
この世界には、まだまだ俺の知らないことで溢れている。
学校は、それらを知るには良い環境だろう。
正直、色々と心配はあるが...
「...はい!行ってみたいです!」
行かせてもらえるなら、行くしかないだろう。
「そう...良かった...」
「?」
「あ、いや、なんでもないわ!」
(...ん?今たしかに"良かった"って...)
俺が拒否したら、なにか問題があったのだろうか?
まぁいつも通り、大したことないとは思うが...
「ふぅん...」
「...」
(...寒...)
リーゼルは近くの毛布に包まり、静かに目を閉じる。
...まぁなんにせよ、これから新しい生活が始まるのは紛れもない事実だ。
きっと、新天地でも俺の常識を超えるような事が起こるだろう。
それに、"化け物"が現れないとは限らない。
だから、新天地で何が起きても冷静に対応できるようにしよう。
常に心の平静を保ち、何事にも動じない...
そんな人間になれるよう、心身を鍛えなきゃな。
「...zzZ」
雪が止んだ、一面純白の銀世界。
馬車は、雪に車輪の跡を残し、真っ直ぐと進んでいた。




