第45話 7歳、不穏 6
ザァァァ...
『...』
雨が降っていた。
小雨でも、暴雨でもない...ごくありふれた雨...。
...しかし雨は、その村の"感情"を表しているようだった。
「...」
リーゼルは車椅子に座りながら、目の前の棺桶を覗く。
サッ...
そして、一輪の青い花を添えた。
(..."アレ"から、もう1週間か...)
「...師匠...」
棺桶の中には、冷たくなった爺さんの遺体がある。
その遺体は決して状態が良いとは言えず、身体の至る所に欠損が見られた。
俺のあの攻撃に巻き込まれて、これだけの損傷で済んだのか...
(まったく...良い顔してるな...)
爺さんは、まるで微笑むかのような表情をして眠っている。
この世に未練は無い、と言っているようだ。
俺も、あの時の選択肢に後悔はない。
爺さんも、きっとそのはずだ。
スッ...
リーゼルは指を絡め、手を額につける。
(...ご冥福をお祈りします)
タッタッ...タ
「...親父、何死んでんだよ...」
祈るリーゼルの棺桶を挟んだ反対側に、一人、男が佇む。
その男は身体中に包帯を巻き、松葉杖を使っていた。
「...お前は...俺が殺すって言っただろ?それなのに、なんてザマだ?」
サッ!...
男は持っていた花を棺桶に投げる。
「...俺の生きる意味が、なくなっちまったじゃねぇか...」
男は強く拳を握る。
「...おい、お前...」
「...」
「お前だよ。車椅子のガキ」
「...僕、ですか?」
「そう、お前だ」
「僕に何か?」
「...親父にとどめを刺したのはお前だな?」
なるほど、こいつか。
俺を、診療所に運んだのは...
そして...
「...知ってるぞ、俺は...。お前が、親父を殺したことも、お前が、あの"悪魔"と同類だってこともな」
...この村に、俺が魔法を使えることを広めたのも。
「...そうですか」
「みんな、お前を恐れてる。見てみろ...お前を見る、この村の人間達を」
今回死んだロブノともう一人の被害者の葬儀に参加する他の村人は、リーゼルから距離を取り、軽蔑の目で見ていた。
「...おかしいだろ?普通の人間が、腹に穴を空けられて生きていられるはずがない。それなのに、なんだ?何故、お前は生きている?」
「...奇跡的に、急所から外れてたんですよ」
奇跡...
これは、そんなものとは似ても似つかない。
なにせ、アルテさんに生かされているだけなのだから...
「...お前が、悪魔だからだろ?親父を殺したのは見せしめか?"俺は何時でもお前達を殺せる"ってか?次は、親父の息子の俺か?」
「...僕は、そんなこと...」
「"しない"って言い切れるのかよ!!?」
男が大声で怒鳴った。
"しない"
...リーゼルは、喉の奥から出かけたその言葉を飲み込む。
(...言いたい放題言いやがって...)
...でも、コイツが言ってることも一理ある。
もし俺が、"コイツら"の立場だったら...
俺はきっと、コイツと同じことを思うだろう。
他人から見て俺は、ただの化け物と変わらない。
...でも、だからってキツく当たっていい訳ないだろ...
「...」
「...俺は、怖いんだよ...」
「...えっ」
男の顔が曇る。
それは、本当に恐怖している人間の顔だった。
「死にたくねぇんだよ...俺は、親父みたいになりたくねぇ...」
「...僕だって...」
「出てってくれ」
「...え...?」
「お願いだ...もう俺は、恐怖に震えたくないんだ...」
その言葉を聞いて、俺は何も言えなかった。
タッタッ...タ
「...分かりました」
『!?』
「お母様...!?」
その話を聞いていたリーニャが、そう言い放った。
「今日中に出ていきます。皆さん、今日までありがとうございました」
「セーレンベルさん、それは急過ぎますよ!そもそも、当てはあるんですか?」
"今日中に"と付け加えたリーニャに村長が口を出す。
「大丈夫です。当てはあります」
「そう、ですか...」
「はい。それでは、失礼します...」
リーニャは皆に一礼すると、リーゼルの車椅子のハンドルを握る。
カタカタ...
「あのっ...お母様...」
「ん?どうしたの?」
「...本当に、出ていくんですか?」
「ええ。本当よ?」
まさか、急にそんなことを言うなんて...
俺のせい...なのか?
「...ごめんなさい...」
「ん?なんで謝るの?」
「だって、僕のせいでこんなことに...」
「ふふっ...」
俺がそう言うと、リーニャは笑う。
「リーゼル、あなたのせいじゃないわ」
「?」
「...今回のことは誰のせいでもないの」
「そうなんですか?」
俺が聞くと、リーニャは頷く。
「...人ってね、みんな必死に生きてるの。自分が可愛いの。自分と違うものを消そうとするの。だから、みんなが分かり合うのは難しい」
「...本当に分かり合えないんですか...?」
「残念だけどね...。どんなに頑張っても、軋轢は生まれてしまう。それは"必然"なの」
「そうですか...」
「...だからね、決定をする時は不幸になる人が少ない選択をしなきゃならない。今回は、偶然私たちが少数派だっただけ」
「...」
「誰かが妥協しないと、この人間社会は成り立たないのよ」
静かに聞いていたが、何か胸に刺さるような話だった。
きっと、リーニャが考えた末に導き出した"答え"なのだろう。
「...あ、でも安心して?新しい場所でも不自由させないようにするから...」
...そしてその日、俺とリーニャは本当に村を出た。
俺達が出る頃には雨は止み、満天の星空が見えていた。
ガタガタ...
馬車が小さく揺れながら進む。
(...一体、これからどうなるのだろうか?)
俺は村での出来事を思い返す。
「...あ...」
(...アルテさんに言うの忘れてた...)
第一章もこれで終わりです!!
ここまで辛抱強く読んでくださった読者の皆様には、感謝しかありません。
これからも、ぐだぐだと投稿していく予定なので、引き続き、読んでくださると有り難いです!




