第42話 7歳、不穏 3
ザッ、ザッ...
「これは...驚きじゃのぉ...」
ロブノは身をかがめ、地面を見つめながら呟く。
ロブノがなぞった地面の辺りには、まだ新しい血の跡がある。
また、周囲を見回すと、岩や地面に傷や穴があり、木々が倒れていた。
その痕からは、ここで激しい戦いがあったことが見て取れる。
(...ん?これは...)
俺は草むらの奥に何かを見つける。
「師匠、これ...」
「ん?...おぉ、これは...」
"それ"は、何かが引き摺られた痕だった。
よく見れば、痕は草むらの奥まで続いている。
所々に血痕も見えた。
「...気ぃ引き締めろ」
「...っ」
「居るぞ。この先...」
言われなくても、とっくに引き締まってる...
スウゥゥゥ...
この、自然のものでは無い、異様で不気味な"気"の流れ...
この先にいるのは熊とか虎とかの猛獣の類いではない。
だが、なんだ?
この感じ...どこかで...
「...」
(...そうだ。俺はしってる)
1年前、アルテさんと初めて会った時。
3年前、化け物を見たあの時。
転生してまだ間もない頃、リーニャの占いを見た時も...
俺が感じたそれらの異様な気配達は、全て魔力の流れだったんだ。
...ん?待てよ...
だとしたら、今回の敵って....
「...リーゼル」
「あ、はい」
「...逃げぃ」
「え?」
前を歩いていた爺さんからそう言われ、少し理解が遅れてしまった。
だが、周囲を見回してすぐに理解した。
「...っ!?」
...考えていて気づかなかった。
今、俺が居るこの場所は...
「早ぅ!!」
"アクマ"の縄張りだった。
「ハァ...ハァ...」
ザッザッザッ...
(クソッ...なんだよ、アレ...)
...ロブノ爺さんに「逃げぃ」と言われてから1分くらい。
俺は時折後ろを振り向きながら、森の中を全力疾走していた。
今は"アレ"を爺さんが足止めしてくれているけど...
「...」
多分、"アレ"は剣で相手できるようなものじゃない。
リーゼルは、先程見た光景を思い返す。
...串刺しにされた少年...
「うッ...」
今思い返しても吐き気がする。
俺が見たのは現実だったのか...
思わず疑ってしまうような光景だった。
少年を串刺しにしていたあの金属のようなもの...
恐らく"ソレ"が今回の標的だ。
不自然な魔力が流れ出ていたから間違いない。
....だけど、"アレ"って生物と言えるのか?
俺が魔力を知覚できなければ、ただの金属の塊にしか見えなかっただろう。
...というより、何度見ても金属の塊にしか見えない。
そんな、よく分からない生物....
果たして剣で殺せるようなものなのだろうか?
爺さんなら、"アレ"を殺せるか?
「...」
ザッザッ...ザ
(...なんで俺、逃げてんだよ)
「爺さんなら...」ってなんだよ。
せっかく、爺さんに稽古つけてもらったのに...
初陣で敵を前に逃走して...
だっせぇな...
「くっ...」
(まだ、間に合うよな...?)
...サッ
リーゼルは後ろを振り向く。
「...師匠、今行き...」
リーゼルは決心したが、放った言葉を言い終えることはなかった。
(...え?)
「...すま、ん、リー、ゼル...しくじっ、た...」
「師匠...?」
"ソレ"を見た瞬間、全身の毛が立ったのが分かった。
片脚がもがれ、腹を"棘"が貫通した爺さんの姿...
項垂れた爺さんからは段々と"気"が薄れている。
..."気"...魔力が無くなると、どうなるのか。
知らないけど、だいたいの見当はつく。
昔、アルテさんが魔力を"生命力"と例えた。
もし、魔力の量が生命に直結するのなら...
魔力が減少することは...
"死"を意味する。
(爺さんが...死ぬ...)
助けなきゃ...
スッ...
リーゼルは右手をロブノへ近づける。
(...待て)
リーゼルは近づけた右手を寸前で引っ込める。
(...なんで)
ここに爺さんが居るんだ?
俺は真っ直ぐ走ってきたはずだ。
それに、ここは最初に"ソレ"を見た場所しゃない。
じゃあ、"コレ"は移動してきたのか...?
わざわざ爺さんを連れてきてまで?
...
...そうか。
これは"罠"だ。
相手を確実に仕留めるための罠。
(...来る)
サッ...
リーゼルは脱力し、一歩後ろに下がる。
...シュッ!!!
すると次の瞬間、地面から"棘"が飛び出した。
(お前は、俺が...)
シャッ...
リーゼルはほぼ無意識下で腰の剣を抜き、天に掲げた。
「...ここで止める...」
シュッ!
キィィィン!!!...
「っ!?」
剣が折れた...!?
(まずいな...)
タッ!
リーゼルは大きく後ろに下がる。
「ふぅぅ...」
リーゼルは冷静だった。
それも、今までにないくらいに。
シャッ...
リーゼルは隠していたナイフを抜き、構える。
それを見た"アクマ"はロブノを放り投げ、全身を顕にする。
"ソレ"は形が定まらない、棘の生えたスライムのような...
"化け物"だった...




