第41話 7歳、不穏 2
「...村長さんの家、ですか?」
「うむ。そう言っておろう」
「え、でも、今は危険だから出歩かない方が...」
「儂は傭兵家業で食っとるんじゃぞ?こんな絶好の機会に出向かなくてどうする!」
「...それ、僕も行かなきゃダメですか?」
「実戦訓練じゃ。相手にもよるが、今のお主なら大丈夫じゃろう」
「...わかりました。準備してきます」
「おっと、準備なら...」
そう言うと、爺さんは家に入る。
そして数分後...
ロブノは両手に剣を持って出てきた。
「ほれ、受け取れ」
ロブノは片方の剣をリーゼルに投げ渡す。
「...これは?」
「剣じゃ」
「いや、そうじゃなくて...」
「あ〜...その剣はどっかの街で買った特売品じゃ。切れ味は保障する」
「ちょっと重くないですか?」
「木刀と一緒にするでない!それは"斬る"剣じゃ。命の重みってやつじゃよ」
「そういうものですかね...」
俺は剣の鞘に紐を括り付け、腰に提げる。
「リーゼル、行くぞ」
「あ、はい!」
初めての実戦...
少し怖いが、ワクワクしている自分がいる。
怪我しないといいけど...
...ドンドン
「おい、グウェン!居るかぁ?」
ドンドンドン...
「師匠...叩きすぎです」
「ん?そうか?」
...ガチャッ
「...そうですよ」
「おぉ、グウェン。調子はどうじゃ」
「良いとは言えませんね...」
(ん?この人...)
毎朝、うちに天気を占いに来る人だよな?
たしかリーニャが"サーバリックさん"って呼んでたな。
この人、村長だったのか...
「被害は?」
「...中で話そう」
こうして、俺と爺さんは村長の家に招かれた。
(...やっぱり、うちより豪華だな)
...ここは、村長宅の応接室。
壁には高そうな絵画が掛けられ、机上には古そうな花瓶に花が挿してある。
「...それで?」
「場所はアルデア森林。死者が1名、負傷者が4名...うち重傷者が2名だ」
「意外と多いのぉ...誰が殺られたんじゃ?」
「あんたんとこの道場の生徒だよ。息子さんから聞いてないのかい?」
道場の生徒?
そういや、今日は見なかったな...
「今日は外で指導みたいじゃったが...最近は口を聞いてくれないからのぉ...」
「...なるほど。...そういえばロブノさん、あんた弟子も連れていくのかい?」
「うむ。それがどうしたんじゃ?」
「いや、まぁ、なんでもない」
"なんでもない"ってことはないだろ。
「...他に聞きたいことは?」
「?...じゃあ、標的の特徴を知りたいのぉ」
「...それなんだが...」
『?』
「...あんたの息子に聞いたほうが早いだろう」
「なんじゃ、渋るのぉ」
「ハハッ、これだけはどうも説明しづらくてね...実際に見た人に聞くのが手っ取り早いだろう?」
「...仕方ない。それで?アルーダはどこじゃ?」
「...着いてきてくれ」
そういうと、村長は椅子から立ち上がり俺達を爺さんの息子の所へ案内する。
タッタッ...タ
「...酷いやられようじゃなぁ」
「...」
「...ふん。話さなすぎて、親に口を聞くことも出来なくなったか?」
「...」
...ここは、村に唯一ある診療所の中。
そこに3つ設置してあるベッドは、2つ使用されていた。
片方は重傷を負った道場の生徒。
そして、もう片方が...
「...情けないのぉ...アルーダ」
...俺の師匠、ロブノ爺さんの実子。
アルーダさんだった。
アルーダは全身に包帯が巻かれ、顔も右半分が見えなくなっていた。
巻かれた包帯からは所々血が滲み出し、赤く染まっている。
「...お前は、何にやられたんじゃ...?」
「...バケ、モノ」
それまで反応を示さなかったアルーダが、ロブノのその問いに初めて反応を示した。
「...イバラノ、アクマ...」
「ふむ...棘、とな?」
「......イタ、イ...」
「...む、お前の状態なんぞ聞いとらん」
「イタイ、イタイ、イタイ...」
「...こりゃあ、もうダメじゃな」
それから、アルーダはずっと"イタイ"という言葉を繰り返し呟いた。
まるで取り憑かれたようだった。
「リーゼル、行くぞ」
「...はい」
...ガチャッ
「...あ、ロブノさん。早かったですね。どうでした?」
「聞かないよりはマシじゃった」
「いや、そうじゃなくて...」
「ん?...」
「まぁいいです...」
「ん、そうか...。じゃあ、儂らは行くぞ」
「はい...よろしくお願いします」
すると、村長は深々と頭を下げる。
しかし爺さんは、それを構わずに既に道を歩いていた。
俺は後ろを着いて行ったが、歩いている間、爺さんは診療所や村長の方を一度も振り返らない。
その背中は怒りに震えているように見えたり、見えなかったり...




