第40話 7歳、不穏
サッ、サッ...
「...98...99」
...サッ
「...100」
ダッ...
「スゥゥゥ...フゥゥ...」
秋も中頃になり肌を掠める風もだんだんと冷たくなってきたある一日。
今はちょうど、100回3セットの上体起こしを終わったところだ。
「スゥゥゥ...」
しかし、例えどんなに疲れた時であっても、魔力の流れを感じる修行をやめるわけにはいかない。
今じゃ、無意識下の呼吸も魔力を感じるのに最適な深い呼吸になってきている。
(リーニャにはやめるように言われてる)
「ん?リーゼル...儂、お主にそんな呼吸法教えたかのぉ...?」
「いえ...この呼吸の方が身体に力が入るので...僕が自分でしてるだけです」
「たしかに...全身に意識が向いているようじゃなぁ」
「そんなこと、分かるんですか?」
「儂を誰だと思っておる!お主の師匠じゃぞ?」
「理由になってません、よ...っと...」
「...ほれ、構えろ」
サッ
リーゼルが起き上がると、ロブノは木刀をリーゼルに投げ渡す。
すると、ロブノは縁側から降り、近くの植木の傍でしゃがむと、短剣ほどの大きさの枝を持ち立ち上がった。
シュッ...
俺は渡された木刀を鋭く構える。
サッ...
対して、爺さんは枝を持った手を下ろし、まるで構えているようには見えない。
「...儂から一本とってみろ」
「スゥゥゥ...」
7歳になって、最近はこうして爺さんと模擬戦をすることが増えた。
最初の模擬戦は素振り中に突然言われてやったから手も足も出なかったが、今ではなんとか戦えてる。
というか、剣については爺さんから直接何も学んでない気がする。
今まで素振りしかしてない子供に模擬戦をさせるとか、結構鬼畜だと思うのだが...
まぁそれは昔の話。
(今日こそは...)
「...来い!」
...ダッ!
ロブノの声と同時にリーゼルは一気に距離を詰める。
(...距離は約5m。爺さんは守りか...)
狙うなら、比較的ガードが薄い...脚!
タッタッ...
スッ...
リーゼルは爺さんまで距離を詰め、直前で低姿勢をとる。
そして、剣を頭の横で構え...
シュッ!...
大きく薙ぎ払った。
「っ!?」
(居ない...!?)
一体何処に...
スゥゥゥ...
(!...後ろ!?)
リーゼルは魔力の流れを感じ取り、ロブノが自身の真後ろにいることを知った。
...ダン!
すると、リーゼルは剣を持っていない方の手を地面に着き、それを軸に後ろを振り向く。
そこには着地前のロブノの姿があった。
(いける!!)
ダッ!
シュッ!!!
リーゼルはそのまま大きく踏み込み、全力の"突き"を繰り出した。
「...えっ」
(また消えた...!?)
リーゼルの突きが、ロブノに当たることは無かった。
「こっちじゃよ」
爺さんの声...?
何処から...
...
...まさか、下?
ロブノは一瞬で有り得ないくらいの低姿勢になり、リーゼルの足元に潜り込んでいた。
ドン!!
「うッ!?..」
...バタッ
ロブノは容赦なく、リーゼルの腹に掌底を叩き込む。
その威力は凄まじく、リーゼルが1m宙に舞い上がる程だった。
「...ほっ、まだまだじゃのぉ」
「...う、アが...」
「む?なんじゃ、この程度でダウンか?」
「...」
「うむ...少しやり過ぎたかのぉ...」
数時間後...
「...はっ!ここは...」
「儂の家じゃ。気分はどうじゃ?」
「...まぁ、なんとか...」
「ほっほっ...それでこそ、儂の弟子じゃな」
「笑い事じゃありませんよ!死ぬかと思ったじゃないですか!!」
「すまん、すまん...手が滑ったんじゃ...」
「手が滑った、で済みませんよ?」
「ほっほっ...」
「まったく...」
比喩とかじゃない。
本当に死ぬかと思った。
なんか、でかい川を渡りかけてたしな...
この爺さん、手加減ってものを知らないのか?
「...おぉそうじゃ。リーゼルや」
「はい?」
「さっき、えらいべっぴんさんが来よったんじゃが、知り合いかのぉ?」
「べっぴんさん?」
「うむ、長い髪を持っておったな」
(アルテさんかな?)
「それがどうかしたんですか?」
「いや、お主にこれを飲ませろと...」
そういうと、ロブノはリーゼルに液体が入った小瓶を見せる。
「なんですか?これ...」
「分からん」
「...ん?これ、少し量が減ってません?」
「あぁ、お主に少し飲ませた分じゃろう」
「...これ、大丈夫なやつですか?」
「はて?どうかのぉ」
ん〜...
今ん所、なんの違和感もないが...
毒だったりしないよな?
後でアルテさんに聞いてみるか...
...ゴオォォン!ゴオォォン!ゴオォォン!
『!?』
その時、村中に鐘の音が響いた。
「...む?これは...」
「警鐘?」
...このアルタ村の中心には櫓と大きな鐘が設置してある。
そして、その鐘は鳴らす回数によって意味が決められている。
1回なら、集合。
2回なら、注意。
そして、3回以上なら...
"警戒"もしくは"避難"。
今、鐘は3回鳴った。
つまり、警戒もしくは避難に値する異常事態が発生したということだ。
そして、それに値する事態とは...
外的要因(生物)によって死傷者が出た時だ。
(一体、なにがあったんだ?)
「...リーゼル、行くぞ」
「え?何処にですか?」
「なに、決まっておろう...」
「?」
「...村長の所じゃよ」




