第32話 6歳、日常 5
サッ...
(...?)
あれ?
これ...本じゃ、ない...?
俺は"本"の表紙を開いたはずだが、中には紙の一枚も綴られていなかった。
代わりに中がくり抜かれ、箱のようになっている。
その中には、スノードームのような球体がクッションに包まれて入っていた。
本に偽装した入れ物か。
いい暇潰しができると思ったのに...
これを送り付けて来た人は性格が悪いに違いない。
キラキラ
...だが、なんだろう。
この球体めちゃくちゃ綺麗だな...
なんか、見ていると吸い込まれるような...
不思議な気持ちになる。
スッ...
俺はそれに触れようと右手を近づける。
手が近くなるにつれ、ひんやりとした冷気を強く感じた。
...ぴとっ
ゾゾゾゾ...!
指先が球体に触れた瞬間だった。
触れた指先から右頬にかけて、何かが伝うような感覚に襲われる。
「...っ!」
俺は球体から手を離そうと腕を引くが、腕に力が入らない。
それどころか、全身から力が抜けていくような感じがする。
「はぁ...はぁ...」
リーゼルの息が深く大きくなる。
(視界がふわふわする...気持ち悪い...)
一体、何が...?
気持ち悪いし、視界は変だし...
「う"ッ...」
吐き気がする...
胃がひっくり返りそうだ。
あまりの気分の悪さに、リーゼルは机に伏せる。
ヤバい...
意識が朦朧としてきた...
(誰か...)
「ねぇリーゼル...。あれ?リーゼル?」
台所にいたリーニャがやっとリーゼルの異変に気づく。
ん?リーニャか?
助けてくれ...
「...お母、様...」
「ッ!リーゼル!?」
あ、もうダメだ...
意識が飛んで、い...く...
タッタッ!
その時、俺が最後に見たのは、慌てて俺に駆け寄るリーニャの姿だった。
「...リーゼル!?」
タッタッ!
リーニャは急いでリーゼルへと駆け寄り、リーゼルへと手を伸ばす。
サッ
「...!?」
だが、リーニャの手がリーゼルに届くことはなかった。
何者かがリーニャを横から止める。
リーニャより小柄なはずのその者は、リーニャの袖を引っ張ったまま微動だにしない。
「...ダメ。まだ終わってない」
「お師匠様!リーゼルに何をしたんですか!?」
「落ち着いて」
「落ち着けるわけないでしょう?リーゼルが、リーゼルが...」
「この子は今、覚醒状態にある。今近づくのは危険。」
「えっ...覚醒状態、ですか?」
"覚醒状態"
リーニャはその言葉を聞き、冷静さを少し取り戻す。
「うん」
「でも、それは魔女だけの...」
「この子、だいぶ特殊みたい。"雌"じゃないけど魔力総量が多い」
「それって...」
サアァァァ...
『!?』
その場の空気が変わる。
部屋の寒さを忘れてしまいそうな程におどろおどろしい空気...
2人はそれを感じ取ったのか、瞬時に警戒態勢をとる。
バサッ!
「これは...」
「ッ...まずい」
まるで蛹から蝶になるように、気絶したリーゼルの背中から、4枚の翼が生え、その本体と思われる"人型"の上半身がリーゼルから分離する。
スゥゥゥ...
「...形が、違う」
...ギロッ
"人型"の大きな単眼が"お師匠様"をジッと睨む。
...シュッ
ガシッ...!
「...ッ!?」
「お師匠様!?」
次の瞬間、"人型"は"お師匠様"の首を絞め、その体を宙に浮かす。
ぐぐぐ...
「うぐっ...」
「リーゼル、やめて!」
「...ッ!ん"ん"ん"!!」
"お師匠様"が足をバタバタと振り、悶え始める。
「リーゼル!!」
タッ!
バサッ
リーニャがリーゼルに覆い被さるように抱きつく。
「やめて!お願い!!」
...ピキッ
パリーン!
突然、球体にヒビが入り粉々に砕け散る。
サアァァァ...
「くっ...ふぅ」
球体が割れたと同時に"人型"が霧散する。
掴まれていた"お師匠様"は床に着地し、首を触る。
「リーゼル?」
「...zzZ」
「...良かった」
リーニャがリーゼルの頭を優しく撫でる。
「...それで、お師匠様は何をしに?」
「少し気になっただけ」
「あんなものを使ってまで調べることですか?あれ、"プラエナの雫"ですよね?」
「その子の力を引き出すには最も最適な方法だった」
「でも、少しでも間違えばこの子は...リーゼルは死んでいたかもしれないんですよ!?」
「その点も考慮した」
「...変わらないですね。お師匠様は」
「変わらなくていいから、変わらないだけ」
「...もう少し、変わってください」
「...努力する」
タッタッタッ...
ガチャッ
お師匠様が玄関のドアを開く。
「あ、そうそう。私もこの村に住むことにしたから」
「...え?」
「いつでも歓迎するよ?」
バタン
「...」
ツー....
「...運命、なのね」
リーニャは、深く眠るリーゼルを静かに見つめた。
プラエナの雫
...通称、逆流動性魔力結晶。
"魔力"と呼ばれるものを貯めるのではなく、流し込むことに特化した結晶。
通常、人間が少量でも結晶に触れれば流れ込む"魔力"に身体が耐えられず崩壊してしまう。




