第30話 6歳、日常 3
「はっ...はっ...」
「よし、終わっていいぞ」
「...はぁ」
俺は今、30回1セットのスクワットの4セット目を終わったところだ。
ランニング約1kmに20回1セットの腕立て伏せを3セット。
そして、このスクワット4セット。
これを毎日。
これが6歳になった俺が、師匠から課せられた毎日する最低限の運動だ。
普段はこれプラスでいくつか運動をしている。
大変だが、やり甲斐がある。
この世界じゃ義務教育なんてないから、子供時代は暇することが多い。
そんな時間を体を鍛えるのに使うのは、有意義と言うものだろう。
「ふぅ...」
「...ほれ」
サッ
ロブノ爺さんから木刀が投げ渡される。
「素振り...150回、2セットじゃ」
「は、はい」
今までは筋トレだけだったが、最近はこうして素振りがメニューに入っている。
だが、初めっから100回以上やらされるから腕が棒になる。
最初にやった時は2日間筋肉痛が続いたものだ。
幸い、少しの休憩なら怒られないから続けられている。
それと、こまめな水分補給も忘れないようにしないと...
いくら北部地域の村とはいえ、夏は結構暑い。
適度な休憩と水分補給をしないと熱中症になってしまう。
まだ身体は幼いから、体調管理には気を使わないとな。
「ふっ...ふっ...」
ザッザッ...
(...ん?あの人は...)
俺はロブノ爺さんとは違う足音を聞き、その足音の主を見る。
足音の主は"道場"から出てきた。
その人は薄く髭を蓄えた40後半の男性だった。
「...ん?おお、アルーダか。弟子達の様子はどうじゃ?」
「...チッ」
「...そうか、すまん」
ガタン!
その人はロブノ爺さんの問いに答えず、そのまま家へと入っていった。
「...師匠、あの人は?」
「アルーダ。儂の息子じゃ」
息子、か...
家族仲は悪そうだな。
昔、なにかあったのだろう。
だが、俺が一度も入ったことがない"道場"から出てくるとは...
じぃー...
俺はロブノ爺さんを見る。
「ん?どうかしたかのぉ?」
「師匠...あの道場って...」
「アルーダのじゃ。儂は一度も入れてもらったことがのぉ」
なるほど...
だから道場で教えてもらえないのか。
でも、爺さんはなんで俺を弟子に..,?
まぁ、鍛えてくれって頼んだのは俺の方だし、どうでもいいか。
シュッ...シュッ...
俺は剣を振る。
軸がぶれないように気をつけながら、剣を真っ直ぐ振り下ろす。
何事も基礎が大事だと爺さんが言っていた。
まだ、細かい剣術や武術、模擬戦闘はしたことが無い。
お隣の"道場"では今の俺と同い年ぐらいの子が、もう模擬戦闘をしていたが...
どうやら爺さんとアルーダさんは教育方針が違うようだ。
まぁ仲が悪そうだったし、わざと違う教え方をしていてもおかしくは無い。
「ふっ...ふっ...」
(...ん?そういえば...)
なんで俺、木刀を振ってんだ?
元々、爺さんの"あれ"がしたくて始めた気が...
(うーむ...)
...まぁいっか。
俺は、あの"怪物"の存在を認知した。
なら、いざという時に対抗できる手段も必要だろう。
それなら、対人戦に特化した武術より色々と対応できる剣術ができた方がいい。
そんなことを考えながら、俺は木刀を振り続けた。
...約1時間後
「ふっ...ふっ...」
(148...149...)
「...ふっ」
(...150)
「はぁ...終わったぁ...」
2セット目を終え、俺は大きく息を吐く。
腕がパンパンだ...
もう振れないな。
俺は縁側に腰を下ろす。
「もう終わったのか?」
「はい...。疲れました...」
「...だいぶ様になってきたのぉ」
「そうですか?」
「うむ。体力や筋力も申し分ない。アルーダなら、本格的に戦闘訓練を始めるじゃろう」
俺は近くの水筒を取り、水分補給をする。
そこそこ冷たい水は俺の疲れた体に染み渡った。
「...師匠」
「ん、なんじゃ?」
「なんで、僕なんかに師事してくれるんですか?」
「...暇潰しじゃ」
「暇潰し...?」
「この歳になると無意味な時間が増えるからのぉ...暇じゃから、お主を鍛えとるのよ」
「じゃあ、今ここに居るのは僕じゃ無かったかもしれない...と言うことですか?」
「分からん...でも、確かに言えることはある」
「...なんですか?」
「お主には他人とは違う"何か"がある、ということじゃ」
「"何か"ってなんですか?」
「知らんわ!分からんから"何か"なんじゃ。知りたいなら自分で見つけい」
「ハハッ...」
"何か"、か...
正直、今の自分に特殊な"何か"があるとは思えない。
まぁ確かに、俺は転生者だが...
爺さんが言っているのは多分、それとは違う。
...と思う。
もしかしたら、爺さんが感じ取ったのは転生者である俺の異質さなのかもしれない。
だが、今の爺さんが言った"何か"には別の意味が込められているように感じた。
それの真意を知るのは10年後か20年後か...はたまた50年後や100年後かもしれない。
きっと、少し遠くの未来のことだ。
しかし必ず、その真意を知る時が来る。
それは良い事かもしれないし、悪い事かもしれない。
だけど、それを知っても尚、俺は俺でいたい。
そのためにも、今の自分もこの世界もずっと愛せるように努力しなきゃな。
「...リーゼル、居るー?」
「あ、お母様!」
爺さんの家の塀の向こう側からリーニャの呼ぶ声が聞こえる。
「師匠、また明日♪」
「うむ」
サッ
俺は爺さんに軽く挨拶し、家の門へと駆ける。
...太陽が燦々と照りつける、夏の昼下がりのことであった。
ちょっと余裕が出来たので、もう少し投稿ペースが早くなると思います。
旧作から呆れずに読んでくれている方にも、新しく見つけてくれた方にも読み続けてもらえるように頑張るので、温かい目で見守って下さると光栄です!




