第3話 0歳、異世界
「あーうー」
(暇だ...)
俺は、周囲を高い柵に囲まれたベッドで寝ている。
四肢をジタバタさせてみるが、特に何か起きる訳でもない。
ただ、暇なのだ。
木製の天井を見つめるのも、声も出すのも、寝返りを打つのももう飽きた。
まさか、する事が無いことが、こんなにも苦痛だとは思いもしなかった。
サッ
寝返りを打ち、柵の隙間から窓を見る。
窓枠には白い"綿"のようなものが積もっている。
...雪だ。
今の季節はおそらく冬。
ここに来てから、体感半年といったところだ。
(はぁ...不便だ)
さて、この半年で一つ分かったことがある。
俺はどうやら...
"転生"を果たしたようだ。
始まりは、半年前...俺の誕生した日に遡る。
「はぁ、はぁ...」
「よく頑張ったわ...元気な男の子よ」
「ありがとう、ございます...」
「ほら、どうぞ」
赤ん坊が産婆から女性に渡される。
「あぁ...ぁぁ...」
女性は抱き抱えるや否や、赤ん坊の額に自身の額を合わせる。
その目には涙を浮かべていた。
...こうして"俺"が誕生した。
初めは俺も驚いた。
まさか、転生が存在するなんて...自分が転生できたなんて...
おとぎ話みたいな話だが、実際俺はここに...この世界にいる。
夢のようというは、まさにこのことだな。
ガチャッ
タッタッタッ
おっ、帰ってきたか。
「...リーゼル、ただいま〜」
扉が開く音がし、足音が近づいてくる。
その足音は俺の近くで止まり、誰かが俺を抱き抱える。
「ふふっ、寂しかった?」
その人は、俺を抱えると、頬を当てながら抱きしめてくる。
俺の頭に触れる手は、ひんやりと冷たかった。
「あー」
「ん〜、リーゼルは温かいわね〜」
...この人が俺の母親。
名を、リーニアシア・セーレンベルと言う。
まぁ、この家に来る人達は彼女をリーニャと呼ぶが...
この名前を知ったのは、つい最近のことだ。
半年経ってやっとこの世界の言語を理解し始めることが出来ている。
ちなみに、さっきからリーニャが言っている名前が転生した俺の名前だ。
リーゼル。
本名は、リーゼレンス・セーレンベル。
リーゼルと言うのは略名と言い、前世でいうあだ名のようなものだ。
あだ名と違う点で言えば、名前をつける時に一緒につける事だろう。
感覚で言えば、"リーゼレンス"に近い。
「リーゼル、お腹空いた?」
「うー」
俺が返事すると、リーニャは服を乱し胸を顕にする。
俺は抱き抱えられたまま、乳房にしゃぶりつく。
たしかに腹は減っている。
だが、こういうプレイは少し恥ずかしい。
見た目は赤ん坊だとはいえ、中身は17歳の青年だからな。
しかし、赤ん坊だからか空腹には逆らえない。
まぁ有難くいただくとしよう。
そういえば、今の俺には父親がいない。
いや、どっかに居るのかもしれないが...
ここ半年でそれらしい人を見たことがないのだ。
それ以外にも、俺は親戚を知らない。
もちろん、俺には兄弟姉妹がいない。
つまり、俺はリーニャ以外の血縁を知らない。
ただただ不思議なのだ。
俺が居るなら父親が居るはず。
もし死んでいても、両方に親や兄弟姉妹がいるはずだ。
それなら、一人くらい来れるはず...
まぁ赤ん坊じゃ行動範囲も狭いししょうがないか...
(うっ...この感じ...)
「うーうー」
「ん?どうしたの?」
「うー」
俺は踏ん張るポーズをとる。
「...あっ」
リーニャはなにかに気付き、俺を抱えたままトイレに駆け込む。
俺は見た目が赤ん坊でも、心は青年なんだ。
いくら見た目が赤ん坊であっても...
漏らしたくは、ない。
...ちなみに、この世界の便器は"ボットン"だ。




