第28話 6歳、日常
「ふぅ...」
「ん?なにを休んどる?あと30回じゃ」
「分かってますよ...」
俺は止めた腕をもう一度動かし始める。
ここはロブノ爺さんの家の庭。
今は腕立て伏せを4セットしているところだ。
夏も中頃だからか、少し体を動かすだけで汗が滝のように流れ出してくる。
ジジジジ...
セミの鳴き声のようなものが聞こえる。
今までの夏はあまり声が大きくなかったのに、今年はうるさいほどに鳴いている。
「くっ...ふぅ」
やっと3セット目が終わった。
こういう筋トレは成長を感じやすいから嫌いじゃない。
自分が前より出来るようになっていると嬉しいしな。
「...もう一年半か」
俺は自分の手のひらを見る。
忘れもしない。
一年半前...あの冬に起きたことは...
...一年半前
レドラム、聖夜祭3日目...
「ん、んん...んあ?」
...天井?
ここ、どこだ?
死後の世界って訳ではなさそうだな。
じゃあ俺、あの場面から生還したのか?
記憶が曖昧でよく思い出せないが...
俺は自身の手を見る。
(...ん?)
指に変な感覚がすると思ったら...
なんだこれ?
指輪...?
よく見てみれば、中指に指輪がはまっている。
変な文字が書かれているが、なんだろう?
サッ...
俺は体を起こす。
周りにはいくつかベッドが置かれていて、その全てに誰かしらが寝かされている。
半分以上はパッと見、包帯が巻かれているようだ。
多分ここは病院だろう。
だが、部屋の外が何やら騒がしい。
平常ってわけでは無さそうだ。
十中八九、今回の襲撃で甚大な被害が出てしまったのだろう。
まぁあんな状況で被害が出ない訳ないか。
俺はと言うと...ほぼ無傷だ。
宿が倒壊した時の打撲があったはずだが、今は全くと言っていいほど痛くない。
なんとも不思議だ。
「...あ」
ふと、倒れたリーニャの姿が脳裏をよぎる。
そういえば凄い傷だったが、大丈夫だろうか...?
まさか死んだり...
いや、不謹慎だな。
今は無事だと信じておこう。
(...暇だな)
ちょっとくらいなら外に出ても大丈夫だろうか?
タッ
俺は体を起こし、ベッドから立ち上がる。
ガラガラ...
廊下に出ると、看護師らしき人達が右へ左へ忙しそうにしていた。
ついでにリーニャの居場所を聞こうと思っていたが、それどころじゃなさそうだった。
タッタッ...タッ
「おぉ...」
思わず声が漏れてしまった。
あの病院から少し歩き、俺はマンダの宿があった辺りに来た。
まぁ、周囲が瓦礫の山ばっかりで合ってるかは分からないが...
それにしても、すごい有様だ。
俺が歩いた通りは、もはや見る影もない。
なんだか前世にテレビで見た紛争地域に居るみたいだ。
いや、建物が倒壊しまくってるから被爆後の風景の方が近いかもしれない。
一体、なにがどうなったらこうなるのか...
俺には検討もつかなかった。
...トン
「!...」
突然、軽く肩を叩かれる。
俺は驚き、後ろを振り向く。
すると、一人の女性が俺を見下ろしていた。
年齢は...20前後だろうか?
フードを被り、腰には二本の剣を提げている。
(いつの間に...)
「えっと...何か用ですか?」
俺は驚きながらも、女性に問いかける。
「...なんでもない」
「...?」
「...ちょっと確認しただけ。もう行く」
「あっ...あのっ、僕のお母様の場所知りませんか...?」
「ん...あっち」
俺がリーニャの場所を聞くと、女性はリーニャが居るという方向に顔を向ける。
「ありがとうございます!」
「...あ、そういえば」
「?」
「...これ、君の?」
女性は去り際に、何かを渡してくる。
それは、小さな赤い宝石だった。
少し前に俺が拾ったやつだろう。
いつの間にか落としてたのか...
別に俺のでもないが...
最初に拾ったのは俺だし、一応貰っとくか。
「あ、はい!拾ってくれたんですね」
「ん...一応」
「ありがとうございます!」
「...じゃ」
そう言うと、女性はどこかへ去っていった。
「...さて」
俺も行くか...
教えてくれたってことは、リーニャは生きてるってことでいいんだよな?
俺はそんなことを考えながら、瓦礫の上を歩き出した。




