第25話 4歳、惨劇 6
「はぁ、はぁ...」
必死で走ってきたからか、息が上がっている。
それは一緒に走ってきたイリーナも同様だった。
「うぅ...私、もう走れない...」
先頭を走っていたシャフィが座り込む。
「はぁ...一旦、ここらで休憩しようか」
「はい...そうしてもらえると、助かります...」
城の前から移動して約30分...
ずっと走りっぱなしで逃げてきた。
後ろを振り返れば、城壁が遠くに見える。
(ここまで来れば大丈夫か...?)
俺は近くの瓦礫に腰を下ろす。
体から力が抜けるような感じがする。
"まだ、何も起きていない"
そんな事実が俺を安心させる。
だが、それは"まだ"起きていないだけだ。
中途半端な安心感は己を滅ぼすことになる。
だから、適度に緊張感を持たなければ...
「はぁ...ふぅ...」
俺は一回、大きく深呼吸する。
リー...
リー...ル...
「...リーゼル!」
(...!)
この声は...
「お母様...お母様ー!」
俺は周囲を見回す。
後ろを振り返ると、リーニャがこちらに向かって走ってくるのが見えた。
「リーゼル!!」
タッタッ...
バサッ
(...!)
リーニャが俺に覆い被さるように抱きつく。
リーニャの腕の中は温かかった。
「リーゼル...良かった...」
「お母様...」
その、母の抱擁はいつもより少し強い。
だが、決して痛くはなかった。
「...あっマンダさん、リーゼルをありがとうございました...」
「いいんだよ。困った時はお互い様さ」
「その...大丈夫、でしたか?」
「ん?何がだい?」
「あっいや、なんでもないです...」
ん?今、リーニャが何かを隠した...?
それも、話の流れ的に俺が関係してる。
なんだ?
俺、何かしたか?
俺は少し考えるが、思い当たる節がない。
だがなんだ?
この、心のザワつきは...
ツー...
『!?』
またか...
俺の脳裏に一枚の静止画が映る。
"砂煙を纏う影"
「ッ...リーゼル!」
ダッ!
リーニャは動くのが早かった。
リーニャは、俺とほぼ同タイミングで"未来"を見たはずだ。
しかし、見終わった後の動きが違かった。
リーニャは我に返ると、すぐにリーゼルを突き飛ばす。
「逃げて!」
スッ...
ドオォォォン!!
次の瞬間、爆音とともに周囲に砂煙が舞う。
あまりの衝撃に俺達は吹き飛ばされる。
「ッ!...お母様!!」
砂煙の中、俺は必死にリーニャを探す。
どこだ?
どこに...
...ドン!
「...ぅぐっ!?」
ザッ...
俺の足元に何かが転がる。
「えっ...お母、様...?」
「リー、ゼル...逃げ...ゴホッ」
「はぁ、はぁ...」
俺の息が荒くなる。
歯はガチガチと鳴り止まない。
「おい!一体どうなってんだい?」
背後からマンダが声をかけてくる。
だが、恐怖のあまり俺は言葉を返すことが出来なかった。
ドスッ、ドスッ...
何かが俺に近づいてくる音がする。
ドスッ...
砂煙がなくなり、"それ"の姿が顕になる。
「ッ!?...ひ、ひいぃ!...化け物!?」
マンダは驚きのあまり腰を抜かす。
「...あ、あぁぁぁぁぁ!」
そして、叫びながら地を這って逃げ出す。
シャフィやイリーナは腰を抜かしたまま、動けないでいた。
「はぁ、はぁ、はぁ...」
なんで...
なんで俺なんだよ...
スゥゥ...
化け物は剣を天に掲げる。
その刀身は真っ直ぐと俺を向いていた。




