第24話 4歳、惨劇 5
「おぉ...凄い人集りですね...」
「みんな、考えることは一緒だねぇ」
俺は目の前に立ちはだかる人々の壁を見て、思わず声を漏らす。
現在地はフォーノード王国の中心、フォーブル城...
その城壁の巨大な門の前にある大通り。
今、そこは安全を求め逃げてきた人々で溢れかえっていた。
(...これじゃあ、リーニャを見つけられない)
まさか、こんなにも多くの人達が集まるとは思ってなかった。
どこを見回しても人人人人人人人人...
ここにずっと居たら、人酔いしてしまいそうだ。
「これじゃあ、化け物に殺される前に人間に押し潰されて死んじまうよ」
「ほんとですね...」
「悪手だったかねぇ...」
「...そうでもないと思います。少なくとも、宿の跡地よりは安全そうです」
...しかし、これからどうしたものか...
本当は、一刻も早くリーニャに会いたい。
だが、下手に動けば"アレ"に襲われるかもだし、そもそも今の市街地は危険だ。
このまま、ここで事が終結するまで待機するのが最善だろう。
サッ...
ギュッ
(!...ん?)
ふと、俺の手が誰かに握られ人の体温を感じる。
俺は握ってきた手を目で辿る。
(...イリーナ)
俺の手を握ったのはイリーナだった。
その手は小刻みに震え、俺の手を強く握っている。
その様子からは"恐怖"が感じ取れた。
それもそうだ。
今、彼女はその人生の中で"死"を最も近くに感じている。
彼女は俺よりも一つ歳上だ。
しかし、俺とは違い転生者では無い。
一度死んだ俺とは違う、まだ幼い少女は迫る死の恐怖に耐えられるのだろうか?
(...)
....ギュッ
俺は強く握るイリーナの手を握り返す。
死を経験した俺が恐怖してどうする?
俺は死の痛みや辛さを知っている。
だからこそ、他人より恐れてはいけない。
今、俺がすべきことは、イリーナを安心させることだ。
「大丈夫ですよ。きっと...」
俺が話しかけると、イリーナは小さく頷く。
その表情は、さっきより緩んで見えた。
ザワザワ...ザワザワ...
それから少し経ち、周囲がざわつきはじめる。
「皆の者、よく聞け!!」
城の方から威勢のいい男の声が聞こえる。
それを聞いた民衆は一斉に城を向く。
その声の主は城壁の上部にいるようだ。
「これより女王陛下よりお言葉を賜わる。心して聞くといい!」
ガヤガヤ
カッ...カッ...
シーン...
少しして、ハイヒールのような音がする。
それを聞いた民衆は、物音一つ立てない。
それまでザワついていたのが嘘のようだった。
「ふぅ...。よくき...!」
深い呼吸音の後、話し始めようとした声が聞こえた。
...が、それは何者かに遮られ、始まることは無かった。
遮ったその人はローブで全身を包んでいるようだった。
「ぬ、無礼者!女王陛下のお言葉を遮るとは何事か!?」
人が多過ぎてよく見えないが、城壁の端に誰かが立ち、話を遮っているようだ。
「皆んな、逃げた方がいいよ」
「おい!まだ話は終わってない!」
「...忠告はした」
「お前!どこに行くつもりだ!?」
城壁の端を走り去る影がみえる。
(...忠告?)
一体なんの...
ツー...
(!?)
嘘だろ?こんな時に...
色んなことが起きすぎて、ただでさえ頭がパンクしそうだっていうのに...
俺の脳に映像が流れ込む。
"黒い異形の怪物"...
(クソッ!...)
まだリーニャと会えてないのに。
はぁ...
避難が最優先か...
「マンダさん、逃げましょう!」
「ん?アンタ...まさか、あんな怪しいヤツの言葉を信じるのかい!?」
「はい、ここは危険です」
「ここが危険だっていう証拠はあるのかい?」
「...ありません」
「そうだろう?」
「でも、逃げなきゃきっと後悔しますよ」
「...分かった」
俺は真剣な眼差しでマンダを見つめる。
マンダは始め、半信半疑の様子だったが、真剣な俺の様子から只事では無いと感じたのか、頷いてくれた。
「ありがとうございます♪」
「...でも、どこに逃げるってんだい?」
あ、考えてなかった...
どうする?
どこに逃げれば...
...
あっ...
「...こっちです!」
「本当に行ってるのかい!?そっちはアンタが化け物に襲われた場所のある方角だよ」
「大丈夫です」
この方角は忠告をした人が来た方角だ。
あの人、ローブに"怪物"の返り血を浴びていたから怪物を殺していてもおかしくはない。
まぁ、どっちみち逃げなきゃなんだ。
最悪、適当でもいい。
マンダは少し考えると、大きく頷く。
俺達は走り出す。
その間、俺はイリーナの手を離さなかった。




