第21話 4歳、惨劇 2
「痛っ...リーゼルくん、どうしたの?」
「伏せて下さい」
「えっ?」
「いいから早く!」
「う、うん...」
俺とイリーナは床に伏せる。
そして次の瞬間、"未来"が訪れた。
...ドオォォォォン!!
『!?』
...一瞬だった。
一瞬の出来事すぎて、何が起きたのか分からなかった。
「なに、これ...」
俺とイリーナは絶句する。
「宿が...壊れ...」
カンカンカン...
どこかで、鐘を叩くような音がする。
一体、何が起きた?
この光景は、俺が見たものと同じだ。
だが、過程は見ていない。
まさか、ほんの一瞬で建物が壊れるなんて...
グラッ...
「うおっ...」「キャッ...」
突然、床が揺れる。
(地震...?)
いや、違う。
これは...
(建物が倒壊する前触れ...)
マズいな...
今俺がいるのは、この宿の4階...
落ちたら最悪、死んでしまう。
俺は、地面とキスして死にたくない。
どうする...どうすれば...
どうにかして怪我を最小限に抑えなければ...
「何今の...?」
イリーナはまだ状況を完全に理解できていない。
今何が起きているのか分からない恐怖からか、イリーナは今にも泣き出しそうだ。
(...)
時間は...ない。
が、少し状況を整理しよう。
まず、この建物だが...
倒壊しない事はまず無いだろう。
あと数秒後には俺達は落下する。
だから、落下から逃れることは考えなくてもいい。
俺が今考えるべきは、怪我を最低限にする...つまり、落下の衝撃を軽減する方法だ。
俺は使えるものが無いか、周囲を見回す。
(...これなら、もしかして...)
クソッ...考えている暇は無いか...
...タッ!
俺は駆け寄る。
そして、手を伸ばす。
俺が手に取ったのは...
"毛布"だ。
「イリーナさん!これを!」
バサッ...
俺は近寄ったベッドから、大きな毛布をイリーナへ投げる。
「えっ、何?どういうこと?」
「それに包まってください!」
「え、あっ、うん!...」
イリーナは返事をすると頭まで毛布に包まる。
それを見て俺も毛布を手に取り、毛布に包まったイリーナを覆うように被さる。
ガラッ...
ドドオォォォ!!
床が傾く。
その角度が大きくなる度に、俺達の体が下へと滑っていく。
部屋に残っていた家具も同様だ。
ガタン!
大きな音と共に、床が大きく傾く。
(...落ちる!)
俺は毛布を離さないように力一杯掴む。
サッ...
「えっ...キャアァァァ!」
...そして、俺達は落下した。
ヒュー...
ドスッ!
「うぐっ...あガッ」
落下は一瞬だった。
どうやら、俺は着地したようだ。
運良く背中から着地できたのはいいのだが、着地の衝撃で息がしづらい。
(苦し...)
ガラガラ...
ドゴォォォン!...
俺達が着地した少し後に宿が完全に倒壊する音が聞こえ、瓦礫が俺達の上に落ちる。
元々イリーナの下敷きになっていた俺はもう動けない。
体は痛いし、息はしづらいし、身動きも取れないなんて...
まぁ、死ななかっただけ良しとしよう。
(さて...これからどうする...?)
とりあえず、息を整えないとな...
「はァ..くっガ...」
俺は必死に呼吸をするが、まだまだ息苦しい。
「ふうぅ...はぁ...」
時間をかけ、ゆっくりと息を整えていく。
(...よし、大丈夫だ)
「...ねぇ...もう大丈夫、なの?」
イリーナの声が聞こえる。
その声色からは不安が見て取れる。
「はい...イリーナさんは動けますか?」
「...うん」
「じゃあ、少しどいてください」
「うん、分かった...」
イリーナは瓦礫をどけながら立ち上がる。
「...よいしょっ、と」
俺は瓦礫をどけながら、外に出る。
全身が痛いせいで、外に出るのに少々時間がかかってしまった。
「私達の宿が...」
イリーナの悲しそうな声が聞こえる。
俺は瓦礫の山のてっぺんに立ち、周囲を見回す。
「...嘘だろ...これ」
俺はあまりの光景に言葉を失う。
鳴り止まない鐘の音。
燃え上がる瓦礫の山々。
逃げ惑う人々の波。
天は厚い雲に覆われ、青く広い空は見えない。
瓦礫からは血が流れ、人の体の一部が見える。
それを見ていると、気分が悪くなりそうだ。
(...しかし、なんでこんな事に?)
もうどこからも、楽しげな笑い声は聞こえない。
聞こえてくるのは、恐怖と絶望に満ちた叫び声だけだ。
先に出ていたイリーナはマンダやシャフィを探しているようだ。
「...イリーナ、リーゼル!大丈夫かい?」
「お母さん!」
「マンダさん!」
瓦礫の山の下からマンダの声が聞こえる。
どうやら二人は生きているようだ。
イリーナはマンダを見るなり走り出し、マンダに抱きつく。
(ここはマンダ達と集まった方がいいな...)
俺はそう判断し、瓦礫の山をゆっくりと降りる。
「あんた、気をつけな!」
「はい!」
足を踏み外さないよう、一歩ずつ踏み出す。
というより、そうしないと痛くて動けない。
タッ...タッ...
シュッ...
ドオォォォン!
突然、背後から轟音が聞こえる。
それと同時に発生した風により体勢を崩しかけたが、なんとか立て直す。
「大丈夫かい!?」
「はい、なんとか...」
「そりゃあ、良かっ...」
マンダの声が途切れる。
その表情からは"恐怖"が見て取れる。
それは、マンダの後ろにいるイリーナとシャフィも同様だ。
「?...どうかしましたか?」
「あ、あんた...う、うし、後ろ...」
「後ろ?」
俺は後ろを振り向く。
「...えっ」
俺は見た。
見てしまった。
瓦礫の山のてっぺん。
そこに佇む、巨大な...
"ヒトガタ"
を...




